トーチ・リリィの行方
この資料を見たところ装置の保守の時期ではないと思うのだが、実際の状況は現場まで行かないと分からないということか?
俺は元上官、今は本部指令室 室長から渡された資料に目を通しながら不自然な点を見つけ悩んでいた。
「クロデル隊長、この資料は情報制限がかけられている。目を通したら速やかに返却するように」
室長の目の前で俺はその資料を読み込んでいた。ここで確認ミスがあれば真っ先に命の危険にさらされるのは相棒のアハトだからだ。
情報制限がかけられているということはこの資料はアハトには見せられない。アハトは情報がないまま俺の指示を受けなければいけないということだ。俺だったらそんな任務逃げだしたくなるけどな。
昔の自分だったら上官からの指令は喜んで受けていただろう。
守るべきものがあったから。ガラス越しの少女にいつの間にか恋焦がれていたのだ。触れることができないから余計にその想いは幻想的に高まり彼女が自分の胸に収まった時、これまでの努力や苦労が報われると信じていたんだ。
俺は、俺はまだあの少女を思い出して泣くことができるのだろうか・・・。
目を覚ますと涙が溢れていた。
何を思い出して泣いていたのか分からない。
俺は、寝たまま涙をぬぐった・・・。
「ん?」
涙をぬぐった手がこめかみに異物を感じる。
俺は、恐る恐るその手で異物を触れると触れている感覚が分かった。
「これは、おれの一部なのか?」
試しに反対側の手で同じ場所を触ると同じように何かが付いていた。
「何なんだ!これは!」
俺の中で一つだけ身に覚えのある物がある。
ベッドから降りると初めて見た場所なのに自然とクローゼットのある部屋へ行くことができた。
慌ててその部屋にある大きな姿見を見ると両方のこめかみから立派な角が生えていた。
「おっ俺は魔族になったのか・・・。」
角は高位魔族の証だ。どうして?いつのまに?
もう一度鏡を見ると、あの魔族にやられた時よりも随分と年をとっていた。
寝巻のような軽装だったがとりあえず上着を着ようとクローゼットを確認するが子ども用の服装しかなかった。
俺は仕方なくその中で最も大きいサイズ、多分この子どもの服ではなさそうなものを羽織るとそのままベランダに出る。
「どうして、俺はこの部屋の間取りを覚えているんだ」
人は不安になると独り言を堂々と言えるもんなんだなと思いながらもベランダの高さを確認してから飛び降りた。中庭は芝生みたいな草が生えていたので裸足で飛び降りても大丈夫だった。
「とりあえず逃げないと・・・。」
俺は、中庭を横切りそのまま森のような所へ駆け出した。
「このまままっすぐ進むとあの場所に着くのか?」
もっと早く、もっと早く、戻りたい。その思いが全身を駆け抜けると足元が急に少し浮かび上がりけり上げると走っている倍のスピードで前に進むようになった。
俺は驚きながらもその力を利用しながら前へ前へ進んだ。
そして、森が開け街道のようなものが見えた時
「ターヴィ、どこに行くのだ?」
その声を聴くと俺は立ち止まり振り返った。聞き覚えが無いのに心の奥で喜んでいる自分がいる。
「お前は!あの時の!」
俺は少し動揺した後、すぐに思い出すことができた。
「ボス級の魔族!」
俺は丸腰だったが体術で少しは時間を稼ぐことができるだろうか?と考えた。
なぜ?
「アハト!」
無意識に相棒の名前を呼びながら周囲を確認した。そして、こめかみを抑えながら膝をついた。
「いいや、いない。アハトはいないんだ。じゃあ、俺は一体何に警戒しているんだ」
「ターヴィ・・・」
気が付くと目の前にボス級の魔族が立っていた。
駄目だ!距離をとらないと!
俺は急に体勢を変えようとしたためそのまま尻餅をついたまま後退った。
しかし、相手はそんなことを気にもせずに俺に近づいてくる。
また、やられるのか・・・。
「ようやく本来の姿になったターヴィをわざわざ殺す訳がないだろう?愚かで可哀想な私の子」
ボス級の魔族はそう言うと俺をそっと抱きしめた。
「もう少年に戻ることはないそうだ。いっぱい話をしよう。時間はいっぱいあるんだ」
「どういうことだ?」
俺がパニックになっているとその魔族が笑いながら俺を横抱きにした。
「ちょっ!おい!何してんだ!」
「これ以上怪我をするとラウロの説教が今日中に終わらないぞ?その年になって説教は辛いだろう?」
魔族はクツクツ笑いながら俺を抱き上げてさっきいた場所へ戻っていく。
「ターヴィは随分と遠くまで家でをしたのだな」
まだ俺の事を笑っているその魔族は、急に立ち止まった。
「ターヴィ、見てごらん。とても綺麗だな」
その魔族の視線を追うと、一面の花畑があった。
「確かにきれいだがあまり見たことのない形だな」
俺の知っている花は薔薇やガーベラや百合といった花びらがいっぱいあって開いているイメージだった。
だがこれは・・・。
「これは、クニフォフィアとう花だ。綺麗な赤だな。ターヴィの薄紅色の赤も綺麗だがこの赤は情熱的だな」
背丈が高くマッチ棒の頭の所に小さな花が集約されているイメージだった。
「まるで、松明のような花だから別名”トーチ・リリィ”と呼ばれているらしい」
俺が物珍しく見入っているので、一本持っていくか?とその魔族は聞いてきた。俺は首を横に振りながら
「いいや。みんなで綺麗に咲いている方がきっとこの花も幸せだろう。」
俺はその花の頭をそっと撫で後
「なんだか疲れたよ。このまま眠ってもいいか?アル?」
無意識にその魔族の名前を呼ぶと、嬉しそうに微笑み
「ああ、仕方ないから私がラウロにお説教をもらっておこう」
「ありがとう、俺が起きたらいっぱい話をしよう・・・。」
「そうだな」
アルは俺を寝かせる為なのかゆっくりとした歩幅でその花畑の中を歩いていった。その振動ですぐに俺は意識を飛ばした。
「ターヴィ、トーチ・リリィの花言葉を知っているか?」
アルは俺の寝顔を確認した後
「まあ、今のターヴィには関係ないか」
そう言うと俺の額にそっとキスを落とした。
ー完ー
一応この物語はこれにて終了です!
でも、補足としてあと一話投稿予定です。
(まだ何もかけてませんが!!!)
拙い物語を読んでいただきありがとうございました。
2026/2/22(cat day!) 鈴木澪人




