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トーチ・リリィの行方  作者: 鈴木 澪人


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回想 前編

中編の上って・・・なんて表現。


中編はターヴィ視点のお話しです。


「ダーヴィお兄様」


軍の病院の一室でベッドの上からこちらを見ながら薄く微笑んで私の名前を呼ぶ婚約者

私と彼女との間には厚いガラスが仕切られていた。


幼少の頃からこの子は貴方のお嫁さんになる子だから大切に接しなさいと両親と兄・姉から強く言い含められていた。


始めは家族の言っていることが理解できなかったが成長するにつれ身に染みて分かるようになる。

「ダーヴィお兄様!」


定期的に会いに来てくれる彼女はリエルという名前だった。

私より5歳年下の全てが小さいかわいらしい女の子だ。

私にも弟がいたので小さい子を見たことが無いわけではないが、守ってあげたくなる存在だった。


 そんな彼女が10歳の時に難病にかかった。

移動中に魔物に襲われ魔力が全身を蝕んでいく病気だった。

定期的に体の魔力を排除する必要があり完全になくなるまでに何年かかるか分からなかった。そして、専門の医療機関で治療してもらう必要がありそれに伴い高額な医療費がリエルの家を圧迫していった。


 もちろん、私との婚約の話も無くなるという方向だった。

残念ながら、貴族という階級に所属しているぶんシビアな判断になってしまう。


「我が家としては、残念ながらリエル嬢を迎え入れる事は困難だと考えている。ただ、ダーヴィが最終的に判断するといい」


父親は困った表情で私に最終判断を委ねた。

私は、リエルを一生支えることができるだろうか

しかし、どうして私に判断を委ねたのだろう・・・。


ちょうどその時私は学生で、隣にいた仲のいいアハトに相談してみた。


「あれ?知らないんですか?この学園に通っていると軍の病院で優先的に治療を受けられるんすよ?」


微妙な敬語でアハトは私に説明してくれた。


我々が通う学園はいわゆる軍士官学校で将来的に指揮する者を養成する場所だった。

その者たちの優遇処置として医療技術に優れている軍が管轄している病院に入院することができるらしい。


「父上が判断に渋っていたのはこの制度を利用するかどうかを私に確認させたかったという事か・・・」


両親は私とリエルの仲が良好だということを理解している。しかし、それだけの理由で治療費の一部を家として持つのは他の者からすると甘いと判断され自分たちもその甘い蜜を頂こうと絡んでくる可能性を危惧したのかもしれない。


「アハトありがとう。私は、彼女を転院させることにするよ」


「おっ、愛の成せるわざっすね」


愛か・・・。アハトの言葉がスッと体に沁みこまないのに気付かないふりをした。


父親にはリエルとの婚約継続を願い軍の病院に転院させたいことを伝えた。

「分かった。先方にも伝えておこう」と言われた。


数日後、転院と手続きが完了したことを父親に言われ次の日リエルの病室にお見舞いに行った。リエルの両親と兄弟にお礼を言われた。


「リエル嬢の病室はどこでしょうか?」


私がリエルの両親に尋ねると、一緒に行きましょうと案内をしてくれた。

近くにいた看護師も一緒に付いてきてくれていた。


そして、個室をノックして入室すると温室の様にガラスで仕切られた向こう側にリエルがベッドで眠っていた。


私もそのガラスの仕切りの奥に入ろうとすると看護師が


「クロデル候補生、そちらへの入室は許可できません」


自分の名前を呼ばれ驚いているとその看護師が胸についているネームプレートを指してくれた。


「ああ・・・。ありがとうございます。しかし・・・」


私の視線の奥には若い男女がリエルの身の回りの世話をしている姿があった。


「ターヴィ君、彼らはリエルの身の回りのお世話を買って出てくれている使用人なんだよ」


「そうなの、姉弟でリエルが小さい頃から仕えてくれているのよ」


私達が病室に入ってきている事に気付いた姉弟が頭を下げてから再び作業に戻った。


「彼女達には一応感染の可能性があることを説明したうえ同意書をいただいているので入室の許可をしています。それに、クロデル候補生が同じ病気にかかってしまうと彼女はこの病院での入院が困難になりますよ?それは理解できますよね」


看護師は学生の私に丁寧に釘を打ってくれた。私は「はい」と頷く事しかできなかった。


彼女がここに入院できているのは私が軍に所属しているから。

だから私はしっかりしなくては。


「あちら側との会話ができるようにマイクとスピーカーが設置されています。体調がいいときにお見舞いにきてあげると良いと思いますよ」


看護師は部屋の上部に設置されているモニターの数値をカルテに入力した後「それでは失礼します」と言って病室を出ていった。


「あの人、この病棟のチーフさんらしいの。すごくリエルを気にかけてくださってますわ」


リエルの母君が嬉しそうに私に話しかけた。


「それは良かったです。リエル嬢もまだこの環境に落ち着いていないと思いますし私はこれで失礼します」


私はリエルの両親に頭を軽く下げると病室を出ようとした。


「ターヴィお兄様」


リエルは私の名を呼んだ。私は振り向き、そっと仕切りガラスまで近づいた。


「ターヴィお兄様。ありがと」


リエルは最後まで言葉を言うことができなかった。感情が溢れたのか涙がツゥーと頬をつたった。


「リエルお嬢様」


使用人の弟の方がすぐにその涙をハンカチでそっと押さえつけるように拭いた。

あまりにも丁寧な手さばきに、いつも彼女を大切に仕えてくれていると感じ安心した。


「またくるよ」


私は精一杯の笑顔を彼女に見せると、うんと頷いた。

少し名残惜しかったが必要以上に気を遣わせ体調が崩れるのは良くないと思いそのまま部屋を退出した。


「ターヴィ君」


病室から出た私をリエルの父君が追いかけるように出てきた。


「少し話でもしないか?」


私は、小さくうなずくとリエルの父君の後を付いていった。


その場所は喫茶の中の個室の一つだった。

入院している者の名前を言うと店員がそのまま案内をしてくれた。


テーブル席に向かい合うように座り、飲み物を頼むとリエルの父君は小さく息をついた。


「今回の申し出、本当にありがとう」


その言葉と共に頭を下げだしたリエルの父君に私は困惑した。


「その、頭をお上げください」


私は軍の所属といってもまだ15歳だ。どこまで出世できるか分からない未知数の子どもに貴族の当主が易々と頭をあげてはいけないと思った。


「本来ならば、この婚約が無かったことになってもおかしくない状況だったはず。それなのに、こんな充実した施設の病院に転院することができると思いもよらなかったよ」


「私は、婚約者のリエル嬢に何ができるか考えた結果です。そして、まだまだ学んでいる途中の学生です。もっとがんばってリエル嬢が安心して入院し、完治してもらうことを願うまでです」


私の言葉がリエルの父君の涙腺を緩ませてしまったらしい。ハンカチで自分の目元をそっとぬぐっていた。


「リエルは・・・本当に素敵な相手と巡り合うことができてよかった」


その後、店員が飲み物を持ってきたので二人で一息つきながら飲むと、後はたわいない雑談に入った。


「リエルはきっと治ると思う。その時まで、私が責任をもって育て教育するのでどうか、どうかターヴィ君も一緒に見守って欲しい」


「はい、ダレーマ様」


「もしよければお義父さんとこれからは呼んで欲しい」


「はい・・・。お義父さん」


中編の下は深夜に投稿します。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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