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美味しいご飯を食べよう  作者: 櫻木サヱ


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2/11

新生活と孤独な夕食

佐藤晴斗は、東京の片隅にある小さなワンルームで一人、引っ越しの段ボールに囲まれながら、新生活の初夜を迎えていた。大学を卒業してからずっと実家暮らしだった彼にとって、初めての一人暮らしは胸の高鳴る冒険でもあり、不安でもあった。


「よし……まずはご飯だな……」


晴斗は、段ボールから引っ張り出した古い炊飯器と、百円ショップで買ったばかりの包丁を前に、意気込む。だが、料理初心者の彼にとって、これほどまでにハードルの高いミッションはなかった。


スーパーで買った米を研ぎ、水の量を計り、炊飯器のスイッチを押す。最初の一歩は簡単だと思った。しかし、炊飯器のタイマーが切れる頃、部屋中に異様な焦げ臭さが漂った。


「え……ちょ、まさか……!」


恐る恐る蓋を開けると、中には完全に焦げ固まったご飯があった。まるで黒い岩のようで、到底食べ物には見えない。


「うわ……人生初の自炊、これで終わりか……」


晴斗は落胆しながらも、まだ諦めきれず、電子レンジで冷凍食品のチキンライスを温める。しかし、包みを開けると、なぜか見た目が劇的にしょぼく、匂いも微妙に怪しい。


「……これが、現実か……」


結局、晴斗は小さなテーブルに向かい、一人で黒焦げご飯と微妙なチキンライスを前に、深いため息をついた。


その時、チャイムが鳴る。戸惑いながらも玄関を開けると、そこには笑顔の美咲が立っていた。


「兄ちゃん、引っ越し祝いってことで来たよ!」


彼女の手には大きな紙袋。中からは湯気が立つ手作り弁当と、家庭の香りが漂うおかずがぎっしり詰まっていた。


「え、なにこれ……?」


「ほら、兄ちゃん、一人で食べるご飯なんて寂しいでしょ? 私が作ってきたから、さあ、食べなさい」


晴斗は半信半疑で箸を手に取り、一口。すると、口いっぱいに広がる絶妙な味わい。甘さと塩気のバランス、素材の香り……これが本物のご飯なのかと、思わず目を見開いた。


「……う、うまい……!」


美咲はにっこり笑って言った。


「でしょ? 兄ちゃん、自分で作るよりまずは食べることから覚えないとね」


その夜、晴斗は思った。自分の料理の道は遠いけれど、家族や友人と一緒に食べることで、毎日の食事がこんなにも楽しいものになるのか、と。


テレビの音も、外の風の音も、段ボールの山も、全部が背景になり、ただ美味しいご飯を食べる時間がそこにあった。


「よし……明日からは、ちゃんと作れるようになるぞ……」


晴斗の決意は固まった。しかし、彼の挑戦はまだ始まったばかりであり、次々に巻き起こる小さな食の事件が、彼を待ち受けていることを、この時はまだ知らなかった。


部屋には、美咲の作った温かいご飯の香りだけが、優しく残った。

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