第4章:パパのせなか
かじは、けされた。
けむりも、ほとんどきえた。
しょうぼうしたちは、あとかたづけをしていた。
ホースをまく。
どうぐをしまう。
おとうさんも、なかまといっしょに、うごいていた。
ひびきは、ロープのそとから、ずっとみていた。
おとうさんは、ときどき、こっちをみて、てをふってくれた。
ひびきも、てをふった。
しばらくして、おとうさんがこっちにあるいてきた。
「ひびき、みてたのか」
「うん……」
「こわかったろ?」
「うん……でも……」
ひびきは、ことばをさがした。
「かっこよかった」
おとうさんは、すこしてれくさそうに、あたまをかいた。
「そうか。ありがとな」
おかあさんが、わらった。
「おつかれさま。けがは、ない?」
「だいじょうぶだよ」
おとうさんは、そういったけど、てには、すこしすりきずがあった。
ひびきは、それをみて、むねがチクッとした。
おとうさん、いたいのに、がまんしてる。
おとうさんは、しょうぼうしょにもどった。
ひびきとおかあさんは、くるまで、いえにかえった。
「すごかったね」
おかあさんが、うんてんしながらいった。
「うん」
ひびきは、まだ、むねがドキドキしていた。
「おとうさん、あんなに、がんばってるんだね」
「そうだよ。まいにち、ひとのために、はたらいているんだよ」
ひびきは、かんがえた。
いつも、いえでゴロゴロしているおとうさん。
でも、それは、おしごとで、つかれているからなんだ。
あんなに、あせをながして、ひっしに、はたらいているから。
「おとうさんの、あせ……」
ひびきは、つぶやいた。
おかあさんが、ふしぎそうにきいた。
「ん? どうしたの?」
「あのね……おとうさんの、あせが……」
ひびきは、ことばをつづけた。
「おもちゃに、なるんだよね」
おかあさんは、すこしびっくりしたかおをして、それから、やさしくわらった。
「そうだよ。おとうさんが、いっしょうけんめいはたらいて、おかねをもらって、それで、ひびきのおもちゃをかってくれるんだよ」
ひびきは、うなずいた。
むねが、じーんとした。
じぶんのもっている、おもちゃ。
くるまも、つみきも、ぬいぐるみも。
ぜんぶ、おとうさんの、あせなんだ。
よるになって、おとうさんが、かえってきた。
シャワーをあびて、きがえて、リビングにきた。
「ただいまー」
いつもとおなじ、のんびりしたこえ。
でも、ひびきには、ちがってきこえた。
「おかえりなさい」
おかあさんが、ばんごはんをならべた。
「いただきます」
みんなで、ごはんをたべた。
おとうさんは、もりもりたべた。
「うまい!」
まんぞくそうなかお。
ひびきは、おとうさんをじっとみた。
おとうさんは、きづいて、
「ん? どうした?」
ときいた。
ひびきは、すこしはずかしかったけど、いった。
「パパ、きょう、かっこよかったよ」
おとうさんは、めをまるくした。
それから、ぽりぽりとあたまをかいた。
「そうか? まあ、しごとだからな」
「うん。すごかった」
「ひびきも、おおきくなったら、しょうぼうしになるか?」
おとうさんが、わらっていった。
ひびきは、すこしかんがえた。
しょうぼうしは、かっこいい。
でも、こわいほのおとたたかうのは、すごくたいへんそうだ。
「わかんない……」
ひびきは、しょうじきにこたえた。
おとうさんは、わらった。
「そうか。まあ、いまは、わかんなくていいよ。おおきくなったら、じぶんのすきなことを、みつければいい」
そして、ひびきのあたまを、ぽんぽんとなでた。
「でもな、ひびき。なにをするにしても、いっしょうけんめいやるのが、だいじなんだ」
「いっしょうけんめい……?」
「そう。できても、できなくても、いっしょうけんめいやる。それが、かっこいいってことだよ」
ひびきは、こくんとうなずいた。
おとうさんのことばが、むねにしみた。
ごはんのあと、おとうさんは、またソファでゴロゴロしていた。
でも、ひびきは、もう、ムッとしなかった。
おとうさんは、やすんでいるんだ。
つぎのしごとのために、ちからをためているんだ。
ひびきは、そっと、おとうさんのとなりにすわった。
おとうさんは、めをとじていた。
つかれているんだろう。
ひびきは、ちいさなこえで、いった。
「パパ、ありがとう」
おとうさんは、めをあけなかった。
でも、くちもとが、すこしわらった。
「どういたしまして」
ちいさなこえで、かえってきた。
ひびきは、おとうさんのとなりで、まるくなった。
あたたかかった。
あんしんした。
そして、おもった。
「あした、ようちえん、いってみようかな」




