第2章:パパのしごとば
つぎのあさ。
ひびきは、おかあさんにおこされた。
「ひびき、きょうはおとうさんのしごとばにいくひだよ」
「……いきたくない」
ふとんにもぐりこんだ。
きのうのことを、おもいだしたくなかった。
ようちえんにいかなくていいのは、うれしい。
でも、おとうさんのしごとなんて、みてもつまらなそう。
「いえで、ゴロゴロしてるだけなのに、しごとなんてしてるの?」
ひびきが、ふとんのなかでつぶやくと、おかあさんがわらった。
「おとうさんはね、すごくかっこいいおしごとしてるんだよ」
「……ほんとう?」
「ほんとう。みたら、びっくりするよ」
おかあさんは、じしんまんまんだった。
ひびきは、しぶしぶおきあがった。
くるまで、しょうぼうしょにむかった。
うんてんしているのは、おとうさん。
あいかわらず、ねむそうなかおをしている。
「パパ、ねむいの?」
「ん? ああ、ちょっとな」
あくびをしながら、こたえた。
ひびきは、ますますきぶんがのらなかった。
「やっぱり、おとうさんって、ダラダラしてるだけじゃん……」
でも、くちにはださなかった。
しょうぼうしょについた。
おおきな、あかいたてもの。
まえには、ピカピカのしょうぼうしゃがとまっている。
「わあ……」
ひびきは、おもわずこえをあげた。
しょうぼうしゃは、ちかくでみると、すごくおおきかった。
「すごいだろ?」
おとうさんが、すこしうれしそうにわらった。
そのとき、たてもののなかから、ひとりのおじさんがでてきた。
「おお、ひびきくんか! ちちおやににてるなあ!」
おおきなこえで、わらった。
「こんにちは」
ひびきは、ちいさくあいさつした。
「さあ、なかにはいろう」
おとうさんにてをひかれて、しょうぼうしょのなかにはいった。
なかは、ひろくて、きれいだった。
しょうぼうしゃが、ずらっとならんでいる。
ヘルメットや、ふくや、ながいホースもあった。
「ひびきくん、これ、かぶってみるか?」
さっきのおじさんが、ちいさなヘルメットをわたしてくれた。
ひびきは、そっとかぶってみた。
すこし、おもい。
でも、なんだか、つよくなったきぶんがした。
「にあうぞ!」
おじさんがわらった。
おとうさんも、わらっていた。
でも、そのえがおは、いつものおとうさんとは、すこしちがうきがした。
「よし、じゃあくんれんみせてやるか」
おじさんたちが、そとにでた。
おとうさんも、いっしょにいった。
ひびきとおかあさんは、すこしはなれたところから、みていた。
「じゅんびー!」
だれかのこえがひびいた。
そのしゅんかん、おとうさんたちが、うごきだした。
すごく、はやい。
ホースをもって、はしる。
ハシゴをのぼる。
こえをかけあって、いきをあわせる。
ひびきは、めをまるくした。
「おとうさん……?」
それは、いつものおとうさんじゃなかった。
しんけんなかお。
きびきびしたうごき。
あせをながしながら、ひっしにうごいている。
「すごいだろ?」
おかあさんが、ほこらしそうにいった。
ひびきは、うなずいた。
すこしだけ、むねがドキドキした。
くんれんがおわると、おとうさんたちは、あせをふいていた。
「つかれたー」
おとうさんが、みずをのんだ。
そのかおは、すこしつかれているけど、どこかすっきりしていた。
「ひびき、どうだった?」
「……すごかった」
ひびきは、しょうじきにこたえた。
おとうさんは、てれくさそうにわらった。
「そうか。まあ、これがパパのしごとだよ」
ひびきは、すこしだけ、おとうさんをみなおした。
でも、まだ、こころのそこでは、モヤモヤがのこっていた。
「でも……」
ひびきは、ちいさくつぶやいた。
「おとうさんは、つよいからできるんだ」
「ぼくは、よわいから……」
そのことばは、だれにもきこえなかった。
しょうぼうしょをでようとしたとき。
けたたましいおとが、ひびいた。
「ウー、ウー、ウー!」
サイレンだ。
ひびきは、びっくりして、おかあさんにしがみついた。
しょうぼうしょのなかが、いっきにあわただしくなった。
「かじだ! しゅつどう!」
おじさんたちが、さけんだ。
おとうさんも、かけだした。
ものすごいはやさで、ふくをきがえる。
ヘルメットをかぶる。
しょうぼうしゃにとびのる。
「いってくる!」
おとうさんが、ひとことだけさけんだ。
そして、しょうぼうしゃは、サイレンをならしながら、とびだしていった。
ひびきは、ただ、あっけにとられていた。
さっきまで、わらっていたおとうさん。
それが、いっしゅんで、べつのひとみたいに、かわった。
「……おとうさん」
ちいさくつぶやいた。
むねが、ドキドキしていた。




