第1章:ぼくのモヤモヤ
ひびきは、はしるのがすきだった。
かぜをきって、ぐんぐんすすむのが、きもちよかった。
でも、きょうもまた、ころんでしまった。
「よーい、ドン!」
せんせいのこえで、みんないっせいにかけだした。ひびきもいっしょうけんめいあしをうごかした。
でも、となりをはしっていたゆうくんに、すぐぬかされた。
まえをはしっていたさきちゃんも、どんどんとおくなっていく。
「まって!」
ひびきがさけんだとき、あしがもつれた。
ドサッ!
すなのうえに、てをついた。ひざもすりむいた。
いたい。くやしい。
でも、いちばんつらかったのは、みんながゴールしてよろこんでいるのに、じぶんだけとりのこされていることだった。
せんせいがかけよってきた。
「ひびきくん、だいじょうぶ?」
「……うん」
ほんとうは、だいじょうぶじゃなかった。
ひざもいたいし、こころもいたかった。
おひるやすみ。
みんなは、おにごっこをしていた。
「ひびきくんも、いっしょにやろうよ!」
さきちゃんがさそってくれた。
ひびきは、むねがドキドキした。
あそびたい。みんなといっしょに、わらいたい。
でも、あしがすくんでしまった。
「また、ころんだらどうしよう」
「また、おいていかれたらどうしよう」
そんなことをかんがえていたら、みんなはもう、はしりだしていた。
ひびきは、すみっこで、すなをいじっていた。
ひとりぼっちだった。
てつぼうのじかんも、さいあくだった。
「まえまわり、できるひと!」
せんせいがきくと、ほとんどのこが「はーい!」ってげんきにてをあげた。
ひびきも、てをあげようとした。
でも、できなかった。
まえまわりなんて、いちどもせいこうしたことがない。
てつぼうにぶらさがるだけで、てがいたくなってしまう。
みんながくるくるまわっているのを、ひびきはただ、みているだけだった。
「どうせ、ぼくなんて……」
ちいさなこえで、つぶやいた。
ようちえんがおわって、おかあさんがむかえにきた。
「ひびき、きょうはどうだった?」
おかあさんは、いつものようににこにこしてきいてくれた。
でも、ひびきは、なにもこたえられなかった。
くちをとじて、うつむいて、あるいた。
いえにつくと、ひびきはくつもぬがずに、げんかんにすわりこんでしまった。
「どうしたの?」
おかあさんが、しゃがんでひびきのかおをのぞきこんだ。
そのとたん、なみだがあふれてきた。
「ようちえん、いきたくない!」
ひびきは、おかあさんにしがみついて、ないた。
「みんな、はやいの。ぼく、おそいの。てつぼうもできないの。だれも、いっしょにあそんでくれないの!」
おかあさんは、ひびきのせなかを、やさしくなでてくれた。
「そっか、つらかったね」
おかあさんは、おこらなかった。
「がんばりなさい」とも、いわなかった。
ただ、ひびきのはなしを、ぜんぶきいてくれた。
リビングでは、おとうさんが、ソファでゴロゴロしていた。
しんぶんをよみながら、あくびをしている。
「ただいまー」
おかあさんがこえをかけても、
「おう、おかえり」
と、しんぶんからめをはなさない。
ひびきは、そんなおとうさんをみて、すこしムッとした。
「おとうさん、なんにもしてない……」
おかあさんは、いつもいそがしそうにしている。
ごはんをつくったり、せんたくをしたり、ひびきのはなしをきいてくれたり。
でも、おとうさんは、いえにいるときは、いつもダラダラしている。
「おとうさんなんて、ずるい」
ひびきは、ちいさくつぶやいた。
おかあさんが、ひびきのあたまをなでた。
「おとうさんもね、がんばってるんだよ」
「……ほんとう?」
「ほんとうだよ。あしたね、おとうさんのおしごと、みにいってみる?」
ひびきは、くびをかしげた。
おとうさんのしごと?
あんまり、きょうみがわかなかった。
でも、おかあさんが、やさしくわらっていたから、
「……うん」
ちいさくこたえた。




