「黒咲ルナ ― 笑ウ能面(わらうのうめん)」
黒咲家の縁側。
ホルトが新聞を読んでいる横で、ルナが能面のパンフレットを眺めている。
『京都・朱雀座跡地。夜ごと能舞台から笑い声が聞こえる。
近づいた者は、笑顔のまま凍死。
舞台中央には“紅の能面”が安置されているという。』
報酬:京都老舗スイーツ詰め合わせ。
ルナ(きらきら笑顔):「抹茶スイーツセットだって!!!」
ホルト:「そのテンションで“凍死事件”行くな。」
ルナ:「だって京都だよ? 和傘に舞妓さんに金箔ソフト!」
ホルト:「事件解決より観光リストの方が長ぇ!!」
ホルトがため息をつく中、
ルナは「舞台に立ってみたかったんだよね〜」と
とんでもないフラグを立てた。
夜。京都の山腹。
廃寺の奥にある能舞台は、
月明かりの下で赤黒く染まった木が鈍く光っている。
ルナ(感嘆の声):「わぁ……すごい、本物の舞台だ……!
ねぇホルト、ちょっと上がってみていい?」
ホルト:「ダメに決まって――」
ルナ:「(すでに上がってる)」
ホルト:「やっぱりな!!!」
舞台の中央には、古びた能面が安置されていた。
その口は笑っているようで、泣いているようでもある。
ルナ(顔を近づけて):
「ねぇホルト、この面、悲しそう……」
ホルト:「触るなよ。呪具は見るだけにしろ。」
ルナ:「うん、見るだけ見るだけ〜(手を伸ばす)」
ホルト:「おい!“見る”に手は要らん!!」
能面の目が赤く光り、舞台の上に霧が立ちこめた。
能面の声:「――舞いなさい。笑いながら凍るまで。」
ルナ:「え? わたし踊るの好きだよ?」
ホルト:「それ返事じゃねぇ!!!」
霧が舞台を覆い、笛の音が響く。
ルナの体が勝手に動き出す。
能面の“舞”が彼女の体を操っていた。
ホルト(毛を逆立てて):
「憑依型だ! 踊るな、ルナ!」
ルナ(涙目で笑いながら):
「体が勝手に……! でもリズムは悪くないっ!」
ホルト:「感想言ってる場合か!!」
観客席――誰もいないはずの場所に、
氷の観客たちが座っていた。
笑顔のまま凍りついた顔がずらりと並ぶ。
能面の声:「笑って、凍りなさい。永遠の舞を。」
ホルト:「ルナ、意識持て! “面”が魂を吸ってる!」
ルナ(かすかに):
「……笑えって……誰かが……泣いてる……」
能面の霊が実体化し、
“紅い能装束”をまとった女の影が現れる。
ホルト:「出たな、“紅ノ翁”。
笑わせて魂を凍らせる――最悪の娯楽型妖だ!」
ルナ(目を開け、微笑む):
「じゃあ……私の番だね。楽しい舞、見せてあげる!」
ルナが刀を抜く。
その動きがまるで舞のように流麗。
足捌き、袖の揺れ、全てが一つの“型”になっていく。
ホルト:「……お前、いつの間にそんな技覚えた。」
ルナ:「踊りながら覚えた♪」
ホルト:「怖ぇわ!!!」
能霊とルナの舞が交錯する。
袖が触れ合うたび、氷の花びらが舞い、
刀が唄うように鳴る。
ホルト(分析しながら):
「舞台の結界は音で動く! “拍”を外せ!」
ルナ:「了解、二拍半いくよ!」
ホルト:「そこでも使うのかそのリズム!!」
能霊の笛の音とルナの足音がズレ、
空間の“凍結の拍”が乱れる。
能霊の動きが止まった一瞬、
ルナは舞うように刀を突き出す。
一閃。
紅ノ翁:「……笑わなくても……いいのね……」
ルナ(静かに):
「うん。泣いても、怒っても、生きてる顔が一番きれいだよ。」
能霊は微笑み、
面はパリンと割れて光に溶けた。
ホルト:「……終わったか?」
ルナ:「うん。舞台、きれいにしたよ♪」
ホルト(周囲を見渡す):
「お前、それ“更地”だよ!!」
舞台は跡形もなく崩壊。
観客席も半分吹っ飛び、氷が溶けた跡が池のようになっている。
ルナ:「だって、踊ってたらテンション上がっちゃって〜♪」
ホルト:「除霊じゃなくて破壊舞踊だコラァ!!!」
ルナ(肩をすくめて笑う):
「でもね、あの人、最後は笑顔じゃなかったよ。
ほんとに、心から、泣けた顔だった。」
ホルト:「……それはたぶん、“安らぎ”ってやつだ。」
ルナ:「へへ、それなら大成功だね!」
ホルト:「いや大失敗だわ!!!」
二人の笑い声が夜風に混ざり、
壊れた舞台の上に新しい月の光が差した。




