第二話・つまり異世界転生
……
「異世界転生…??」
「まあ、そういうことになります、はい…」
聖女はそう申し訳なさそうに頭を下げてくる。正直、頭が追いつかない。
とりあえず聖女が言うには…
・ここは“チキュウ”という星にある“ニホン”という国である。
・ニホンは聖女の生まれ育った場所。
・ここに来る前に見た黄色い光は聖女がわたくしたちのいる世界にきた時の同じものである。
ということだ。
「…まあ、なんとなく分かったわ。それより頭を下げるのをやめなさいな。貴女は何も悪くないじゃない。」
「えっ、でも…」
聖女は狐にでも摘まれたような顔でわたくしを見てくる。わたくしの言ったことに反論するだなんて!…というのも、変な話ね。
「良いと言ったら良いのよ。わたくし達だって異世界にきた貴女を“聖女様”と崇めて貴女の意見を聞かず文化を押し付けたのだから。」
……
「なんなの。なんか言いなさいよ…」
なんで喋らないの…??わたくし、今変なこと言ったかしら…?
「い、いやっ!そんなこと、言われたことなかったんで……!!ロベリア様って優しいなあ…と……」
なぜか聖女の頬は赤らんでいる。何、本当に何なの…?いつものことだけれど、聖女はよく分からないわね……。
「わたくしが優しいのはいつものことですわ。」
「……ロベリア様のそういう自信満々なところ、好きですよ…」
……
…さっきから沈黙ばかりですわ。まあ元の世界でも仲良くどころか、わたくしが王太子や高位令息たちに気に入られていた聖女に当たって冷たい言葉ばかり浴びせていたのが悪いんですけれど。
冷静に考えてみるとひどい女ね。自分が同じ状況になってみると、ひどく実感するわ。
「あの…ここからどうしましょうか?ロベリア様。戻ろうとしても、あの光が一体なんなのか…」
「…ロベリア、で良いわ。」
「えっ」
「親しい態度の方が都合が良いのでしょう?敬語も外していいわ。」
聖女は少し考え込む。元々貴族より聖女の方がはるかに位は高いのだから、それが正しいのよね。
それに、わたくしは異世界転生してしまった身。今更変なプライドで他人行儀にしている場合でもないわ。頼れるのは聖女だけなのだから。
「ロベリア… いや、やっぱり“ロベリアちゃん”で良い…かな。」
慣れない様子でたどたどしく喋っている聖女を見ると、思わず笑いが込み上げてくる。
「好きに呼んでくれれば良いのよ。わたくしも“サクラ”と呼ぶわね。」
「は、はいっ!」
「あら。違うでしょう?」
「えっ、あっ!?“うん”でした!!」
かわいい…思わずそんな感情を抱いてしまうわね。前までは男性ばかりと親交を深めていて良い印象ではなかったけれど、思い違いだったみたいね。異世界の影響を大きく受けた、サイネリアにはあまり居ない愛嬌のある少女だわ。
「それで。これからどうする…だったかしら。」
「はい…じゃなくて…うん!元の世界に戻る方法もわからないでしょ?あの光がまた出てくるかも…」
不安げに眉を顰める。
「まあ、そうだけれど… でも貴女が帰って来れたように、また現れる可能性もあるじゃない。」
「…そう言われればそうだね?」
少し考え込んでから、サクラはさっきの不安げな表情をかき消すかのような笑顔で話しかける。
「なら、あの光がまた出てくるまで日本を楽しみ尽くしちゃいましょうよっ!!」
「………そ、そう来るとは…」
いや、ああは言ったけれど。思っていたよりポジティブな回答ですわね……。