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俺はSSSレア転生特典をひた隠す。  作者: 戸津 秋太
第二章

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第57話 注目

「これ、ショウのギルドカード。それとグローブに、他の装備も」


 ヘレネーは背負っていた革袋を下ろすと、中から次々と物を取り出してくる。

 ショウとして冒険者活動をする上で必要なものを寮に持ち込むわけにもいかないので、前もってヘレネーに預けていたのだった。


「ありがとうございます。ご面倒をおかけしました」

「ううん、面倒なんかじゃない。それに嬉しかった」

「嬉しい?」

「ショウにとって大切なものを預からせてくれて」


 噛み締めるような声音と共に口角が上がる。

 いや、先ほど再開してから彼女は薄っすらと笑みを浮かべ続けていた。


「あっ、それとこれ」


 受け取った装備を身に着けていると、ヘレネーが懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 手渡されたので紙面に目を落とすと、そこには『風帽亭』と『202』の文字、そして簡易的な地図が記されている。


帝都(ここ)でヘレネーさんが借りた宿の場所ですか?」

「違う」

「えっ」


 ふるふると顔を左右に振られてショウは戸惑う。

 他の可能性を思案し始めると、ヘレネーは悪戯っぽく笑った。


ショウと(・・・・)私で借りた宿」

「……そうでしたね」

「ふふっ、そうだよ」


 上機嫌に鼻を鳴らすヘレネーについ笑みを零しながら羊皮紙を懐へ仕舞う。

 そして、これからのことを話そうとしたところで、ヘレネーの後ろから威圧的な声をかけられた。


「おい、なに俺ら無視して盛り上がってんだよ」

「俺らが先に声かけてたんだぞ!」

「見ない顔だが、割り込みは良くないんじゃないかぁ?」


 先ほどヘレネーを囲んでいた三人組が剣呑な雰囲気を纏って詰め寄ってくる。

 セントリッツでも、B等級へ最速で昇格したことで似たようなことに巻き込まれた。


(でも、まさかギルド会館に入る前からこんなことになるなんて……)


 彼らが言うようにハイドたちは帝都においては新参者。

 最初から悪目立ちするような真似は避けたい――。


「私は最初に断ってる。それに私に最初に声をかけてくれたのは、ショウの方」

「ヘ、ヘレネーさん!?」


 三人へ振り返り、淡々と応じたかと思えば、突然軽やかなステップを刻んでハイドの隣へ滑り込む。

 そしてそのまま左腕に抱き着いてきた。


 左腕に柔らかくて暖かな感触――それと共に甘い香りがふわりと漂ってくる。


「私とこうして一緒にいられるのも、いてくれるのも、ショウだけ」


 腕に顔を擦り付けながら、くぐもった声で呟く。

 抱きつかれた瞬間は三人を挑発しているのかと感じたが、そうではないらしい。

 ぎゅぅと力強く左腕を握られて、ハイドは認識を改めた。


(そうだ、今でこそこうしてフードを外して人前に出られるようになったけど、以前は人目を忍んで生きてきたんだ。初対面の人に言い寄られて怖くないわけがない)


 ヘレネーの心境とは少しずれた方向に解釈したハイドは、三人へ毅然と言い放つ。


「俺と彼女は固定パーティメンバーなんです。折角のご提案ですが、しばらくは二人で活動しようと思います。ご心配ありがとうございます」


 なるべく穏便に。されど卑屈にもならず。

 〝先輩〟を立たせる断り文句と共に軽く頭を下げた――が。


「……はぁ、言い方が悪かったみてぇだな」


 一人が耳をほじりながら、威圧するような眼差しを向けてくる。


「固定とかそんなんどうでもいいんだよ。俺たちが面倒見てやるから、女を置いてとっとと失せな」

「それはできないです。彼女は俺の大切なパーティメンバーですから」

「ショウ……」


 ぎゅぎゅぅぅと、左腕に抱き着くヘレネーの力がさらに増していく。

 それは同時にさらなる密着を生むが、湧き上がる羞恥を誤魔化すように会釈をしながら歩き出す。


「それでは、失礼します」


 三人組の脇をすり抜け、ギルド会館の中へと足を踏み入れる。

 背後から苛立ち混じりの舌打ちが飛んでくる。

 肩越しに後ろを見ると、三人は忌々し気にこちらを睨みつけていた。


「ところでヘレネーさん」

「なに?」


 ハイドの呼びかけに、左腕で衣擦れ音がする。

 ぴょこりと耳が動き、ヘレネーの顔がこちらを見上げた。


「そろそろ離れてくれませんか? ……なんだかすごく見られてる気がしますし」


 指摘を受けて、ヘレネーは淡々と周囲を見回す。


 帝都のギルド会館はセントリッツのそれと比べても広く、夜だというのに活気で満ち溢れていた。

 この時間から依頼を受けてダンジョンへ潜ろうとしている冒険者たちも多いようで、受付の前には人の列ができている。

 周辺のダンジョン事情も場所が違えばまた変わってくるのだろう。


 だが、セントリッツ支部と変わらないところもある。

 それは会館へ足を踏み入れた者への注目。それが馴染みのある者だったなら、今のように値踏みするような鋭い目を向けられることもない。


 つまるところ、会館へ現れたハイドたちへ冒険者たちの視線が集まっていた。


 その状況を確認したヘレネーは、いつもの澄ました顔で改めてハイドを見上げた。


「私は気にしない」

「俺が気にするんですっ」

「……ハイドは照れ屋さん。でも私はお姉さんだからここは我慢する」


 ヘレネーは渋々といった様子でようやく腕から離れるのだった。

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