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俺はSSSレア転生特典をひた隠す。  作者: 戸津 秋太
第二章

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第47話 快挙

 昼の冒険者ギルド会館セントリッツ支部は賑わいを見せている。

 依頼を終えて帰還した者が酒を酌み交わしたり、パーティメンバーと待ち合わせをしたり、はたまたパーティを募集したり。


 この時間の会館内のロビーはそうした冒険者たちでごった返していた。


 そんな中でも、彼らは一様にギラギラとした目を周囲に向ける。

 有望な冒険者というのはどこのパーティでも引く手数多。

 そうした人材を見逃さないよう、冒険者たちはたとえ団欒の時間であっても周囲の会話に耳をそばだてる。


 そんな魔窟(まくつ)ともいえる昼のギルド会館へ、依頼を終えたハイドとヘレネーは足を踏み入れた。


「おい見ろよ、《比翼》だぜ」


 その瞬間に会館内の空気が一段階引き締まる。

 冒険者たちの視線が、意識が、受付へ向かう二人に注がれる。


「まさかフードの下があんな美人だったとはなぁ」


 冒険者の一人が悔しげに呟く。


 ハイドの隣に並び歩くヘレネーは、《比翼の灯火》を結成してからというもの、あれだけ纏っていたフード付きの外套を着なくなった。

 そのため、今まではフードの影に隠れていた彼女の整った相貌が露わになっている。


 絹糸のようにさらさらとした金色の髪に、エルフの特徴である尖った耳。

 幼さを残しながらも凜とした美貌。ぱっちりとした碧眼に、整った鼻筋。

 そして、矢筒と弓を担ぐ線の細い体躯と、それに反するように描かれる女性らしい曲線。


 若い冒険者たちは下卑た目線を、そしてベテランの冒険者は《比翼の灯火》の目覚ましい躍進に好奇の目を向ける。


 以前はこのセントリッツ支部の常識とさえ化していた「あの女に関わるな」という鉄則も、その美貌と近頃の活躍で完全に払拭され、密かにヘレネーを勧誘するパーティも現れ始めていた。


 そしてそれは同時に、彼女の隣に並び立つ素性の知れないショウという冒険者への妬みの種にもなっている。





 ◆ ◆ ◆





「今日もすごいマナストーンの量ですね……」


 ハイドたちが納品したマナストーンに、受付嬢が驚きの声を上げる。

 受付には机が一杯になるほどのマナストーンが積まれていた。


「ヘレネーさんがたくさん倒してくれたんです」

「……ショウが守ってくれたから集中できただけ」


 ハイドの賞賛の言葉にヘレネーはムッとしながら言い返す。

 いつものように繰り返されるその言い合いに、受付嬢は微笑ましいものを見るような笑みを浮かべて奥へ引っ込んだ。


 そうして戻ってきた受付嬢は、依頼の報酬を渡しながらハイドへ告げる。


「おめでとうございます、ショウ様。今回の依頼達成と納品でB等級への昇格が内定となりました。冒険者登録から一年と経たずにB等級への昇格は、当支部では最速になります。もの凄い快挙ですよ」

「あ、ありがとうございます」


 いつも冷静な受付嬢が僅かに興奮した様子で賞賛の言葉を向けてくる。

 そのことに照れながらも、ハイドは心の中で「よし!」とガッツポーズする。


(これでますます上のダンジョンへ挑みやすくなる)


 ハイドが冒険者として活動する目的は、ダンジョンの決壊を防ぎ、地上の人たちを裏から守ること。

 高難度のダンジョンになればなるほど、その難易度から挑める冒険者が限られ、決壊を招きやすい。

 そう考えると、等級の昇格は嬉しいことだ。


「ショウ、おめでとう。……やっと並べたと思ったのに、また先を越された」

「運がよかったです。それにヘレネーさんもB等級まではもうすぐなんじゃないですか?」


 ハイドの言葉に受付嬢が「その通りです」と頷く。


「明日以降、正式にB等級への昇格とそれに伴う特権などのご説明をさせていただきます。お二人のますますの活躍を、ギルドを代表してお祈りいたします」


 受付嬢の礼に、二人は感謝しながら受付を離れる。


「そうだ。ショウ、もうすぐ誕生日でしょ? 昇格のお祝いもかねて、何かプレゼントしたい」

「え、いいですよそんな」


 会館の出口へ向かう途中、不意にヘレネーがそんな提案をしてきた。

 ハイドとしての正体を明かしてから、彼女はしきりに誕生日を気にしていた。

 特に隠す理由もないのでそのときに誕生日を答えたのだが、その日がもう二週間後に迫っている。


 遠慮するハイドだが、ヘレネーは「今から買いに行こう」と強引に約束を取り付けた。

 正体を偽って騙していたという後ろめたさがあるために、こういったヘレネーの強い押しには断れないハイドは、「わかりました」と力なく頷き返すしかなかった。


 予定を決め、ギルド会館を出ようとしたそのときだった。


「おい、お前!」


 後ろから、若い冒険者に呼び止められた。

 その指先はヘレネーではなくハイドへ向けられている。


 知り合いだったかな、と訝るハイドに、その冒険者は告げた。


「お前みたいなひょろがりがB等級だと? 大方、彼女に寄生してるんだろ!」

「ひょ、ひょろがり……」


 若い冒険者の言葉にハイドは少なからずショックを受ける。

 ハイドとしての容姿は前世の彼の見た目そのままなので、確かに男の冒険者の中では多少頼りない。


「ショウはひょろがりじゃない。……確かにちっちゃいかもだけど、それはそれで可愛いし」


 両頬を手で押さえてふわふわとした声音で応えるヘレネー。

 それを惚気と受け取ったのか、冒険者は苛立った様子で拳に力を込めた。


「なんだなんだ、喧嘩か?」

「やれやれー!」

「姫様を助けてやんなー」


 血気盛んな冒険者たちは愉しげにハイドたちを眺め、


「バカだなあいつ」

「B等級が寄生でいけるかよ……」

「若い女に好かれたい時期、あるよな」

「お前宿の女将好きだよな」

「るっせぇ!」


 ベテラン冒険者たちは黒歴史を見るような目で見守っていた。


 そんな周囲の冒険者たちの野次に後押しされる形で、若い冒険者はヘレネーに手を差し出す。


「そいつとのパーティやめて、俺たちと組まねえか。在籍メンバーは平均でC等級。役職もバランスいいし、あんたならすぐに上にいけるぜ」

「ごめんなさい」

「よし、早速手続きを――うぇ?」


 ヘレネーの素っ気ない返事に冒険者が目を剥く。


「私、ショウと一緒じゃないと嫌だから」

「……っ、なんでだよ! こんな弱そうなやつのどこが――」


 叫びながらヘレネーへ向かって迫ったそのときだった。

 若い冒険者は、「ぁぇ?」という間の抜けた声と共に、その場に両膝をつく。


「力が、なん、で……」


 息を荒げてその場から動けなくなった冒険者に、ハイドは額を押さえた。





「ヘレネーさん、やり過ぎですって」


 ギルド会館を出たハイドは、先ほどの騒動を振り返ってヘレネーへ苦言を呈する。

 体から力が抜けて動けなくなった冒険者は、明らかにヘレネーのスキル【吸収】の影響を受けてのものだった。


 ハイドの苦言に、しかし彼女は唇を尖らせながら応える。


「だって、ショウのことを悪く言うんだもん。それに私と組んだら遅かれ早かれああなるから、警告してあげただけ」

「いやまあ、そうかもしれないですけど……」


 現状、ヘレネーは【吸収】によってダンジョン内に現れるモンスターとの戦闘も優位に進めることができている。

 その活躍が一目置かれて勧誘されているわけだが、ヘレネーの【吸収】を活かすにはハイドの【神泉の源】が不可欠だ。


「そもそも、ショウも悪い」

「え? 俺ですか」

「ショウがもっと自分のすごさをアピールしないから、ああやって絡まれる」

「そう言われても……」


 予想外の反撃にハイドは頭をかいた。


「というか、冒険者にとってのすごさって等級じゃないんですか? アピールしろってことなら、それだけで十分だと思うんですけど」

「ショウの言ってることは正しい。けど、ああいう風に勘違いする人もいるから」

「でもなぁ……人同士の争いのために力を使うのって不毛というか、なんというか……」


 悶々と考え込むハイドの横顔を見つめて、ヘレネーは僅かに口角を上げた。


「ショウは自分に厳しすぎる。でも、そこが好き」

「へ?」


 ヘレネーの呟きは活気づく昼のセントリッツの雑踏にかき消される。

 訊ね返すと、ヘレネーは悪戯っぽく笑った。


「なんでもない。それよりショウ、まずはご飯食べよ。ショウにはおっきくなってもらわないと」


 そう言って、ヘレネーはぐいっとハイドの手を掴んで歩き出した。

 つい転けそうになりながらなんとか体勢を立て直したハイドは、前を向く。


 金色の髪に紛れて姿を覗かせるヘレネーの耳は、少しだけ赤くなっているような気がした。





 ◆ ◆ ◆





 バーナード帝国帝都オニクス。

 その中心地に位置する数多の宮殿の内の一つが、第四皇女モニカ・バーナードの居館だ。


 宮殿の傍では彼女専属かつ直轄の騎士団が訓練に励んでいる。

 その中には奉公として一時的にモニカに仕えることとなった年若い貴族子女の姿もある。


 その訓練風景を部屋の窓から見下ろしていたモニカは、毛先がウェーブがかった水色の髪を弄りながら濃紺の瞳を寂しげに伏せる。


「殿下、そろそろ今年の招請(しょうせい)先の家を決めていただかないと」


 部屋で待機していた教育係の男がモニカに告げる。

 彼女の傍の机には今年八歳を迎える貴族子女のプロフィールを纏めた書類が積まれていた。


「わかっているわ。少し気分転換していただけよ」


 教育係の言葉を受けて、モニカは机の前に座り直す。

 そうして詰まらなそうに書類をめくりながら、ふとその手を止めた。


「ハイド・リューゲン……そうよ、彼がいたじゃない」


 先ほどまでの表情を一転。

 モニカは楽しげに口元に柔らかい弧を描きながら、その書類を引き抜いた。

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