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俺はSSSレア転生特典をひた隠す。  作者: 戸津 秋太
第一章 領都セントリッツ編

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第34話 勧誘

「命の恩人に、かんぱーい!」

「か、かんぱい」


 ギルド会館近くの酒場。

 屈強な禿頭の男――ニックが、木製のジョッキを掲げて音頭をとる。

 その音頭に合わせるようにして、ハイドはおずおずとジョッキを持ち上げた。


 二人が囲うテーブルには他に二人の姿がある。

 若い男女の冒険者だ。


 ニックはご機嫌に笑い声を上げながらハイドの肩に腕を回す。


「いやぁ、危ねえ所を助けてくれて本当に感謝だ! ここは俺の奢りだ。いくらでも飲んでくれ!」


 どうしてハイドがニックたちと酒を酌み交わしているのか。

 それは、《深緑の森》で助けたパーティがニックたちだったからだ。


 モンスターに襲われている所を救出後、ハイドたちはギルド会館へ戻って依頼の報告をし、会館を出ようとしたところでニックに呼び止められた。

 曰く、助けてくれたお礼をしたいとのこと。


 ハイドが遠慮している間にヘレネーは姿を消した。

 ニックや他の二人から微妙な反応をされていたし、そもそも彼女自身があまり人付き合いをしたがらないので、仕方ないかとハイドは諦めた。

 だが、同時に逃げ場を失ったハイドは、こうして酒場へと連行されている。


(というか俺、この世界ではまだ七歳なんだけど酒を飲んでもいいのか? ……いやまあ、肉体的にはとっくに成人しているけど)


 流石にハイドの姿でならば遠慮したいところだが、今はショウとしての肉体に変化している。

 意を決して、ハイドは生温いエールを呷った。


「おっ、いい飲みっぷりだぁ。おいお前らも飲め飲め! こうして飲めるのもショウのお陰だからな、きっちり感謝しろよぉ!」


 ニックに言われて、二人も口々にお礼を言いながら遠慮がちに酒を飲み進める。

 この二人は先日ニックのパーティに加入した新入りで、今日はそんな二人とダンジョンへ潜っていたらしい。

 一人が不注意からモンスターを見逃し、そしてもう一人が援護の判断を誤り、危機的状況に陥ったところをハイドが現れたという話のようだ。


 明け方が迫りつつある時間。

 ハイドは帰りのことを気にしながら、ニックの話に耳を傾ける。

 といってもその大半は、モンスターを殲滅したハイドの格闘術を大袈裟に称えるものだったが。


「にしても本当にすごかったぜ。敵の動きを見切った感じでよ。何も知らずに受付でおどおどしてた奴とは思えねえぜ」

「あはは……」

「にしてもお前、あの時の俺の忠告を無視しやがったな。よりにもよってあの女とパーティを組んでるなんてよ」


 やっぱりその話になるか、と。

 ジョッキで顔半分を隠しながら嘆息する。


「でも俺はヘレネーさんと関わっていても、呪われないみたいなんで」


【吸収】については本人の意向で広めるわけにもいかず、そんな曖昧な返ししかできない。

 そのことを悔しく思う自分に、ふと気が付いた。


「ま、恩人にあれこれ言うつもりはねえけどよ」


 ぐびぐびぐびっと、ジョッキ一杯分勢いよく飲み干したニックは、早くも酒臭い息を漂わせながら「ところでよ」と前のめりになる。


「お前さん、うちのパーティに来ないか?」

「え?」

「引き抜きだよ、引き抜き。あの戦闘能力を見たら、そりゃあ欲しくなるだろ。しかもまだ駆け出しであっという間にD等級。有望株間違いなしだろ?」

「すみませんが、ヘレネーさんとパーティを結成したばかりですから」

「なんだ、義理の話か? 言っておくがパーティの移籍なんてのは冒険者の間じゃ日常茶飯事だぞ」


 ずずいとさらに身を寄せるようにして、ニックは語る。


「今日はあんな体たらくだったが、所属メンバーの平均等級はC。B等級のやつもいる。パーティ等級もこの間Cに昇格したばかりだ。人員も豊富、物資も潤沢、いい話だと思うけどな」

「俺は基本深夜帯にしか活動できませんから」

「だったらうちのパーティで深夜に活動できるやつに声をかければいい。なんなら俺が手を上げるぜ」

「それは……」


 酒の勢いもあってか、次から次へと断る口実を消していくニックに圧されつつある。

 そしてそれを好機とみて、ニックはさらに続けた。


「ショウ。お前はなんで冒険者になったんだ? 金か? 名誉か? 名声か?」

「俺は……モンスターを、倒すために」

「なんだお前、ゲートから現れたモンスターに肉親を殺されたって口か」


 嫌な話を聞いてしまったと、苦々しげな表情で追加のエールを飲むニックに、ハイドは曖昧な笑みを返す。


(どうして冒険者に、か。……決まってる。俺なんかに与えられたこの強大すぎる力を有効活用するためだ)


 妹のエンジュを助けた。ルーリャ村の人たちも助けた。

 人を助けられる力が、自分に備わっている。

 それなら、使わないといけない。


 それがショウという仮初めの人物に姿を偽ってまで冒険者となったハイドの、嘘偽らざる思いだ。


 もう一杯飲み干したニックが、「だったらよ」と話を続ける。


「なおさら俺たちと組むべきじゃねえか? 言っちゃ何だが、あの女とパーティを組みたがるやつは相当な物好きでもねえ限りいねえ」

「そんなことは……」

「ない、と。言えるか?」


 酒が回りながらも力強い眼光で睨み付けられ、ハイドは返す言葉を失う。

 確かにハイドの場合は【神泉の源】でヘレネーの【吸収】に対抗できているが、そうでなければマナを吸われ続ける。

 そのことの弊害は、冒険者として活動してしばらく経った今ならよくわかる。


 マナは、強力なスキルを持たない冒険者にとってはまさに生命線といえる。


「それにな、パーティは所属人数が多いほどダンジョンの攻略が楽になるし、等級が高ければより難度の高いダンジョンに挑める。お前さんがモンスターへの復讐を志すなら、より強いモンスターを倒すべきじゃないか……?」

「それは、そうかもしれませんけど。でも俺は、ヘレネーさんと一緒にダンジョンに潜ります」


 ハイドが言い切ると、ニックはがしがしと髪のない頭を掻く。

 それからまたバンバンとハイドの背を強く叩いた。


「悪ぃな、お礼の席で勧誘なんてよ。ま、お前さんならいつでも歓迎してるから気が向いたら声をかけてくれ」





 ◆ ◆ ◆





「結局飲み過ぎたな……」


 なんとか日が昇り始める直前に解散にこぎ着けたハイドは、急ぎリューゲン邸へ戻っていた。

 酒による酔いと眠気は【神界の泥人形】で消し去っているので、体調的な問題は何も無い。


 その影響か、酒場での出来事が現実のものではなかったかのような錯覚に襲われる。


「より強いモンスターを倒すべき、か」


 ニックの言葉がどうしても引っかかる。

 連日、ヘレネーとダンジョンへ潜りながら、ハイドは「まだやれる」という確信を抱いていた。

 もっと難度の高いダンジョン、さらなる強いモンスター。それらを倒すことができると。

 そしてそのためにはもっと等級を上げる必要がある。


「ニックさんの言っていることが正しいんだろうけど……」


 それがわかっていても、ハイドはあの場で彼の勧誘を受けることができなかった。


 思い悩みながらもいつの間にかリューゲン邸へ到着し、いつものように自室の窓から室内へ入る。

 そして、室内を見渡して部屋の中に誰もいないことを確認してから、ハイドは透明化と変身を解除した。


(朝までまだ時間はあるし、ベッドで横になるか)


 そう思い、掛け布団を捲り上げたその時だった。


「――ぇ?」


 ハイドのベッドの中。

 まるで赤子のように身を丸めながら、すーすーと規則正しい寝息を立てて眠るエンジュの姿があった。

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