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戦野に舞う英  作者: NBCG
本編
3/10

前中閑話

泰暁十三年 5月某日 朝 大浜綴帝國 首都万京


「整列!」


 上官の声が響く。


 1か月ほど前に聞いた同じ声には緊迫感があったが、今日のその声には切羽詰まったような緊張感は無かった。


「先の作戦によって損耗した駒喰隊の人員について、少し前に決まった者が本日より配属される」


 しかし、その声にはある種の悲しみや弔いなどが含まれているような気がした。


「そして今から紹介する。……入れ」


 集められた俺達の前に、会議室の入り口から入って来る二人。


「自己紹介を」

「はい。本日より第一〇〇飛行師団、駒喰隊に配属されることになりました。峰高(みねたか) 八千代(やちよ)です。補填される機の操縦手を務めます。よろしくお願いいたします」

「同機の砲手を務めます。入坂(いりさか) 勇造(ゆうぞう)です。よろしくお願いします」

「この二人は予備搭乗員候補の中でそれぞれ、最も点数が高かった人員だ。能力は申し分無いだろう。そして彼らは駒喰隊の新たな四番機の搭乗員としての配属となる」


 上官は一息ついてから言葉を続けた。


「また、ここに呼んではいないが当基地に予備搭乗員が後に配属されることになる。彼らが配属されたらまた紹介する」

「質問、よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「何故その彼ら……予備搭乗員の紹介も今、合同で行われないのでしょうか?」


 説明を受ける中、挙手して発言をしたのは今の二番機で砲手を務めている男、森岡(もりおか) 敬一郎(けいいちろう)だった。


「はぁ……それについて、今から簡単に説明する」


 苦虫でも噛み潰したような顔をしてから、上官は答え始めた。


「予備搭乗員の採用自体は以前から議論されていた話だがその候補者自体、おおよそは技能試験をギリギリで落ちた者が殆どで、今回配属された彼らは落とした試験の追試を受けて合格したものたちだ。まあただ、他に合格した者はおらず……という訳だ。つまるところ予備搭乗員の配属は現在補習や追試を受けている彼らの合格次第ということになっている」


 思わず新たな四番機の搭乗員となった二人を見ると、彼らは彼らで苦笑していたのだった。


「他に、質問等は無いか? 無いなら最後に……一応、諸君らの情報や施設については事前に伝えてはあるが、各自の自己紹介と施設の案内と日常の鍛錬や業務について教えてやってくれ。私からは以上だ。では、失礼する」


 そう言って上官はそそくさと会議室から去っていった。


 第一〇〇飛行師団自体が設立して間もなく、手続きの手引書などもろくに無い――様々な任務、時にヘリコプターの研究などにも参画するため、柔軟な体勢に対応するためでもあるのだが――ので、基地司令の一存で決められる物事も多くはあるのだが、ここまで放任的だとこちらも糾弾する気すら起きなかった。


「……取り敢えず、自己紹介でもしようか」


 ここに来て他に選択肢もなかったので、言われた通りに自己紹介から始めた。


「俺は相坂慎治、階級は大尉だ。駒喰隊一番機の砲手で隊の隊長を務めている。ま、人数もいるからこの紹介で充分だろう。質問があるなら後で頼む。じゃあ……乗り合わせてる方から順でいいか?」

「「「はい!」」」


 思いの外、隊員たちの声がハッキリしていたので内心驚いてしまった。


 何をどう解釈したのか、新人二人が力んで返答しようとして、他の隊員たちがその声に合わせたようだった。別にそんなに緊張しなくても良いのにな……。次に自己紹介することになった愛乃も若干驚いて引いているし。……あと、何人か茶化すように声を出したのが見て分かったので後で譴責してやろうか。


「えっと……、私が駒喰隊一番機で操縦手を務める白伏木愛乃です。階級は中尉です。えぇっと……私の見た目が気になるとは思いますが、生まれも育ちも浜綴なのでどうか、お気遣い無く……以上です」


 彼女は動揺しながらも、要点を簡潔に話して次へと話題を渡した。


「駒喰隊二番機砲手、そして副隊長を務める森岡敬一郎だ。部隊として隊長に用があって居ないときは、俺に話してくれ。以上だ」

「二番機の操縦手をしている今泉(いまいずみ) (ただす)です。よろしくお願いします」


 二番機の二人は副隊長の自己紹介から同機の操縦手の紹介まで速やかに済ませた。


「駒喰隊三番機砲手の栂多(とがた) 美木(みき)や。よろしゅうなぁ。ま、この師団にあるヘリ部隊の中で最も戦場を潜り抜けてきた駒喰隊に入ったっちゅうことはつまりバシバシ扱きに扱かれてボロ雑巾のようになっちまうっちゅうワケなん――ガッ!?」

「済まない。コイツは多少フザケ過ぎる節があるんだ。許してやってくれ」


 三番機の砲手の栂多は前線では冷静な対応をし、その方言も全く表に出ないのだが緊張感があまり無い場所では基本的にお茶らけて飄々としている男だった。愛乃が驚いていた先ほどの挨拶も彼が一番の大声を出していたと言って良いほどだった。


「俺は栂多と同じく三番機に乗っていて、操縦手を担当している石津川(いしつがわ) (みなと)だ。よろしく頼む」


 そしてそんな栂多の機体で操縦手をしている石津川という男、フザケる栂多の頭を思い切り叩いたように、栂多と他少数人の場合は栂多のフザケに指摘を入れる淡々とした男のように思える。が、中身は栂多以上にフザケた男であり、先ほどの挨拶で栂多の次に大声を出していたヤツだ。そのときも真顔であったため一見すると真面目そうな男のようにも見えるのだが、関われば関わるほど真顔でフザケ倒す男であることがよく分かる。フザケ倒して真顔ですっとぼけているという冷静なところが前線で役に立っているのかも知れない。……栂多にしても石津川にしても、いくら平時だからといってボケ倒すのは止めて欲しいが。


「親睦を深めるのは後で個々に深めてもらうとして……ああ、他にも整備員とか管制員もいるが、彼らとの紹介は施設の案内をしているときにでも」


 部隊の前線に立つ者同士の自己紹介を終え、施設の案内へと移った。


「そう言えば……聞きたいことがあるのですが、良いでしょうか?」

「良いぞ。何だ?」


 施設を巡っていると、峰高少尉から質問があった。


「隊長は、どうしてヘリコプター乗りになったんですか?」


 それはある意味、ありきたりな質問だった。


 ヘリコプター乗りには良く聞かれる質問第一位と言っても差し支えないほどだろう。空に夢を見る人は大体固定翼機の方を乗るし、民間で空の高さへ目指す人の中には熱気球に乗ろうとする人もいる。少なくともヘリコプターに乗ろうとするのは多くが新しい物好きの興味本位であることが多い。


「俺も他の皆とそんなに変わらないよ。物珍しさからヘリコプター乗りになりたくなったってだけだ。峰高少尉や入坂少尉もその辺りは変わらないでしょ?」

「それはまぁ、そうですけど。それにしても若いな、と」

「それはたまたま……ってだけで、ヘリが制式採用されたのがいつだったかってだけの違いだと思うが……」

「それにしてもまだ二十も過ぎて無いですよね、隊長?」

「そうだが……それを言うなら白伏木中尉も過ぎてないが」

「そういえば、そうですね。では白伏木中尉はまた何故?」


 質問して良いって言ったけど、よく聞いてくるなぁ、この人。あと周りが年上ばかりだということも何気に思い出された。峰高少尉もそうだし愛乃以外は皆、俺よりも年上だ。二番機操縦手の今泉中尉は辛うじて同年代といえるが、それでも年上であることに変わりはない。年上の部下を持つというのは何とも言えない重圧というか、やりづらさというものがある。


「え? 私、ですか……? それは……えぇっと……」


 返答に窮した愛乃が、こちらに目で助けを求めてきた。


「彼女は、というか彼女の親がヘリコプターの研究に携わってるのもあって、それで興味を持ってヘリコプター乗りになったようだ」

「あー……大体隊長の言う通り、です……」

「……何か言い忘れとか、間違いとかあったか?」

「えぇ!? いえ! お構いなく!」

「……? そうか……」


 愛乃は何か言いたげではあったのだが、訂正を促しても特にそこまで重要な問題は無かったようだ。


「ふーん……なるほど」

「何か……?」

「いえ、何も」


 峰高少尉は意味深長な笑みを浮かべて多くを語らなかった。暫く話の外にいた入坂少尉は苦笑だけして、我関せずと一歩引いた位置に立ってこちらを見ていた。


「それで他に、質問などは?」

「いえ、お答え頂きありがとうございました」

「あー……じゃあ私から」


 今度は入坂少尉が挙手して質問を投げかけてきた。


「第一〇〇飛行師団や駒喰隊の共通認識として持っているべき現在の部隊の課題や懸念点などはありますか?」


 入坂少尉からの質問はある種結構実用的なものだった。


「うーん……現在進められている計画の一つに、高砂島での経験を活かしたより実戦的な対処が可能で且つ生存性の高い機体……ヘリコプターに更新される可能性がある。他の汎用ヘリコプターだけを使う場面なら兎も角、第一〇〇飛行師団は実験部隊と柔軟性や戦略的な機動力の高さを重要視された部隊を兼ねる師団だ。だからその更新が計画されている戦闘型の機体が制式採用された際には、特に実戦経験のある俺達駒喰隊などにイの一番に更新の声が掛かる可能性が高い。折角月桂二型に搭乗してもらって悪いけど、機種転換してもらう可能性もあるので、訓練の中で現行機種に捕らわれない応用の利く操縦法、射撃法についても訓練してもらえると後の対応に順応しやすい……はずだ。だから日常的な訓練で一定の熟達、余裕が見られたら個人的にその訓練にも力を入れておいて欲しい。今の懸念点はこれくらいだな。他には?」

「いえ。ありがとうございます。質問は以上です」

「そうか。それでは施設の案内を続けるぞ」


 その後、恙なく施設案内と整備員などの紹介を済ませ、通常業務へと移ったのだった。

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