プロローグ
「起きて下さい、兄さん」
言われて、薄目を開ける。
俺の瞳に映るのは、美しい絹のような銀色の髪と、吸い込まれそうな深みのある青色の瞳を持った異邦人の顔。
異邦人の顔と述べたが、彼女のこの国の国籍を持っている。この国が基本的に遺伝子的に近い2-3種類の人種が9割9分を構成しているので、こういう表現をした。
そんな彼女がこの国の言葉を流暢に扱えるのは、彼女の生まれがこの国であり、ルーツの国に戻ったりも特にしてないらしく、日常的にこの国の言葉を使ってきた為だ。
「……起きてますよね? 兄さん」
俺を「兄さん」と呼ぶこの少女は、別に兄妹でも義理の家族という訳でもない。幼馴染であり、同じ学年だが生まれた月日が長く離れているので俺のことを昔から兄扱いしてくる、らしい。
「もうすぐ合格発表ですよ」
彼女が懐中時計を見てそう告げた。
「ん……おはよう」
「おはようございます。……起きてましたよね?」
「『起きてますよね?』の声で起きたよ」
「……そうですか。では、行きましょう」
ほんの少しだけ嘘を吐いて立ち上がる。
「受かってるかな」
「開発者を除いては、きっと兄さんより詳しい人なんていませんよ。大丈夫です、受かってますよ」
「多分俺よりも愛乃の方が詳しいだろ?」
「そうかな?」
「そうだろ。俺も他の人より『アレ』に接する機会は多いけど、愛乃ほどじゃないと思うし」
「私もそこまで接する機会は兄さんよりもそこまで多いってほどでもないよ。たまにしか研究所に行かないのは私も同じだよ。例えそれで私が兄さんよりも詳しくても、兄さんが詳しい人の上位数人の中に入っていることに変わりありませんよ。自信を持って大丈夫です」
「そんなもんか」
「そうです」
そんな話をしながら俺達の所属している基地へと向かう。
新兵器である、回転翼機の搭乗員の合否を示す発表会場へと。