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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3.5th Season 恋愛戦争編

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#54‐1 【独占インタビュー】巷で話題! 魔王天使の素顔に迫る! ①


 ——どうしてこうなった。

 僕は心の底で慟哭し……ているのをおくびにも出さないような素振りをしながら微笑む。

 白っぽい灰色をベースに薄い青を差し色にした短めのドレスは、僕の選ぶはずのない華美なデザイン。新聞や雑誌に映える『衣装』。

 映像記録魔道具(カメラ)越しに映る僕は、濃いめの化粧で彩られている。

 口端をひくつかせる僕に、目の前の女性記者は柔和に笑いながら「それじゃあ、始めましょうか」なんて言ってくる。

 何を始めるのか。息を呑んだ僕に、彼女はにこやかに宣言した。


「巷で話題の魔王天使、独占インタビュー!」


 どうして、こうなった……。


    *


 時は一日ほど遡り。


「取材、よろしいですか?」

 放課後。屋上。決闘を終えた僕らの前に、記者の女性が立ちはだかってカメラを構えていた。

 ……なにもよろしくないのだが?

 口を半開きにして固まる僕——の後ろから、声がした。

「はい、よろしいですっ!」

「グレイス!?」

 君の取材じゃないよ?

 驚いて声が出る僕の後ろから。

「これはソーヤお嬢様の存在を世界に知らしめるチャンスですっ!」

 彼女はまくし立ててくる。

「お嬢様の存在は世界を救う鍵となるのです。その圧倒的な力、優しさ、そして均整の取れた肢体の構造美、果てしなく可憐な御姿。世界は救済される日を待ち望んでいる……!」

「ちょ、やめ……」

 慌てて止めようとする僕の耳元に、グレイスは囁いた。


「あと、あなたの地位向上にも繋がるかもしれませんしね」


 僕は息を呑んだ。

「え、どうしたのよ。というか何が起こってるの? そのメイドっぽいヤツ誰?」

 僕の横からクリスが尋ねる。言い淀む僕の前に、そのメイドは躍り出た。

「私、ソーヤお嬢様の侍女にして教育係を引き受けておりました、グレイスと申します」

 柔和な笑みを浮かべる彼女。

「……噂に聞いてたより案外おしとやかで良いお姉さんじゃない」

 そのクリスの言葉に、僕は半笑いになった。このあとの展開が容易に想像できたから。


「以後、お見知り置きを」

 グレイスは優雅にカーテシーでお辞儀しようとして——。

「……へぶりゃあっ!?」

 ——前につんのめってコケた。

 ずべたーん、と見事に地面に突っ伏した自分のメイドの姿に、僕は軽く嘆息した。

「ほらね。……僕のメイドは、すっごくドジなんだ」

「前評判通りで安心したわ」


「いったた……」

 立ち上がる彼女に近寄って、僕はこっそり話しかける。

「……地位向上って」

「そのままの意味ですよ、お坊ちゃま。——これで存在と実力を示せば、きっとお父様にも」

「冗談じゃない。……僕はこの生活を守れればそれでいいんだよ。だから——」

 家族(あいつら)に、僕の噂を知らせる必要なんてない。そう断じようとする。けど。


「まあ、もう逃げられなさそうなんですけどねっ」


 後ろから柔らかい質感がした。

「ちょ、ソーヤ!?」

「つーかまーえた。……取材、させていただきますからね?」

 女性記者が耳元で囁いた。ぞわっとした。

「ちなみに、うちの会社には身につけると魔法が使えなくなる不思議な手錠があったりするんですよね。あなたみたいな方に魔法で抵抗されると、私たち死んじゃいますから。

 本当は使いたくないんですけどね?」

 言外の圧力に僕は息を呑む。僕は魔法がなければ何もできない。

 詰んだ。これ以上動くと本当に何もできなくなる。もうチェックメイトと言っても過言ではないだろう。

 僕は控えめに笑った。そして、カクカクと仲間たちの方を向いて、小さく手を振った。


「……行ってくるよ」


「ソーヤァァァァ————っ!」


    *


 ということがあった翌日なのである。

 連れてかれたのは学園都市の中でも商業区にほど近い高層ビルの中。新聞や雑誌などの出版のみならず、映像やラジオも手掛ける総合エンタメ会社なのだと説明された。

 その日はもう遅いからと仮眠室と名付けられた部屋の長椅子のような簡易ベッドで寝かされた翌朝、学園のチャイムが鳴る中で着替えやメイクをさせられ、もうだいぶ日も高くなったところで今に至る。

 ……ほんと、どうしてこうなった。経緯はわかっても、その理由はよくわからない。なんでこうも僕を追っかけるのか。

 深呼吸して、僕は腹をくくった。


「……よろしくお願いします」

「そんなに固くならないでくださいよー、魔王天使さんっ」

「その呼び方やめてくださいって、昨日から言ってるじゃないですか」

「じゃあなんとお呼びすれば?」

「ソーヤって、名前で呼んでくだされば」

「はい、わかりました。ソーヤさん!」

 この茶髪を雑にひとつ結びにした若い記者の元気さに、すこし辟易した。……なんか初見でやたらと馴れ馴れしいの、僕はすこし苦手かなぁ。

「……ちなみに、あなたはなんとお呼びすれば?」

 僕が尋ねると、彼女はやたらと無邪気そうに笑って答えた。

「カノンです。カノン・カメタニ。……あっ、名刺!」

 言いつつ彼女は傍らにぶら下げたポシェットから小さな紙を取り出し、僕に渡した。……大丈夫かなこの人。


 名刺を渡されすこし息をついた僕に、彼女はふふっと笑って「それじゃあ、今度こそインタビューを始めましょうか」なんて言ってきた。

「よ、よろしくお願いします」

「えーっと。……まず初めに自己紹介をお願いします」

 そう言われても。僕はすこし考えて。

「あっ、ゆっくりでいいですよっ」

「は、はい」

 返事をして、すこし考え。

「……僕は、ソーヤ・イノセンス。魔法学園中等部一年。魔法が好きなだけの、普通の女の子です。本日はよろしくお願いします」

 自分で女の子っていうの、ちょっと恥ずかしいな……。

「はい、ありがとうございます!」

 カノンさんはにこやかに笑って、それから「えー、次は……」と原稿らしき紙を片手に質問を進めた。


 それから何問かの質問に答えていった。

「友達との関係はどうですか?」とか「天使事件についてどう思いますか?」とか。

 ……友達とは変わらず仲良く過ごしてるし、天使事件って呼ばれてるやつについては起きたことが全てだ。カロンを救えて仲直りもできて満足である。

 そういった質問が何問か続いて、すこし油断したときのことだった。


「——ご家族のことについて、聞かせていただけますか?」

 急な質問に、僕は目をしばたかせた。

「……どうして、そんなことを聞くのです?」

「いえ……ちょっと気になっちゃったもので。たしか名字(ファミリーネーム)の『イノセンス』って、結構有名なお貴族様でしたよね?」

「え、あの……知りません」

「自分のご家族のことなのに?」

「あっ……あの」

 話せば話すほど墓穴を掘るような気がして、声が出せなくなる。

 口をつぐんだ僕に、カノンさんはすこし息をついて。


「……話したくなかったら、話さなくてもいいですよ。話したとして、それを全部記事にするわけじゃないです。希望があれば、オフレコ——この場だけの話にもできます。

 私はなにも、あなたを傷つけるために取材してるわけじゃないんです。読者が楽しむことが一番なので。取材相手を傷つけて笑いを取るのは、少なくとも私は好きじゃないです。

 ——あなたの不利益になるようなことは、私としても本意じゃないんです」


 そう告げた。僕の目をまっすぐに見て。

「だから、嫌だったら言ってください。……話は聞きたいけど……言いたくないことを言わせて取材相手を泣かせるのは、記者としての流儀に反するので」

 ……この人、なんというかとても真っ直ぐだ。不器用で、でも不器用ながらに誠実に、この仕事に向き合っている。

 僕はマスコミというものを甘く見ていたのかもしれない。

 ——どんなものにでも、裏で情熱を燃やしている人がいる。その事実に、ようやく気づけたような気がした。

 なんとなく感じた。——この人なら信頼できる。


 だからこそ。

「……いまからの話は、オフレコでお願いします」

 すこしだけ、自分の過去を振り返れるような気がしたのだ。


    *


 一方その頃。

「ソーヤのやつ、おっそいわね……どうしたのかしら」

 彼が連れ去られた翌日。昼もとうに過ぎ、放課後。

 私——クリスはいつも通りに寮に帰り、自室のドアを開けた。そして固まった。


「すーはーすーはー……ソーヤきゅん……んふふ……くっさぁ……っ。

 あ、おかえりなさいクリスさん。一緒に嗅ぎませんか? ソーヤくんのブリーフ」

「は?」

 何を言ってるの、この変態。

 変態(アリア)のしていた理解の及ばぬ奇行——全裸でのパンツ吸いに、私はただ白い目を向けることしかできなかった。


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