#51 レーネのパーフェクトれんあい教室
「ねぇ、ソーヤさんって『恋』とか興味あります?」
休み時間。教室。金髪くるくるツインテールの少女が突然告げた言葉に、僕は吹き出した。
「なに言ってるのさ、カロン! え、魚の鯉のことだよね?」
「恋愛の方ですわ! だってそうでしょう? ——ルームメイトの子たちとはただならぬ関係だと聞き及んでますわよ?」
赤面する僕にささやきかけるカロン。そんなことないってば……。
「誰が流したの? そんな噂……」
「レーネさんたちが喋っておりましたわ」
「どうして……」
額を抑えため息を吐きながら。
「あと僕たち(いちおう)女の子同士なのに……」
そんな事を言うと、彼女は少し頬を染めた。
「……女の子同士でも、そういう感情を抱くことってありますわよね?」
「うん?」
「えっと、その……女の子から告白されちゃうのも、実際ある話ではありますのよ?」
ものすごい照れながら告げる彼女。僕はつい尋ねてしまう。
「……されたの?」
なにを、とは言わない。けど、彼女は一層頬を熱くして、恥ずかしそうに告げた。
「…………グレンダから……返事はまだしてませんけども……」
本当にそういうのってあるんだ……。
目を逸らしつつ、僕は思い返す。昨日までの——週末の出来事を。
*
「……ねぇ、ソーヤくん」
「アリア……?」
「うふふ。……だーいすき、です」
隣にべったりしている少女。甘くささやきかけられ、僕は思わず目をそらす。
——彼女の「好き」には、どんな意味があるんだろう。
少し息苦しくなりつつも、僕は。
「あの……これから予定があって」
「ついていってもいいですか?」
「だ、だめ!」
「えー? なんでですかぁ?」
「なんでも!」
すこし一人になりたかった。その口実に、アリアは唇を尖らして「はーい……」と離れていった。
部屋着のまま、寮の部屋を抜ける。
同じ寮の、二つ隣の部屋。レーネとアインの部屋。
——この前「今度の週末に来て」と言われていた。なんだかんだで有耶無耶になっていたが、この際部屋を抜ける口実に使わせてもらおう。
コンコンとノックすると、「んぁ……はーい」と小さく声が聞こえ。
ドアが開いた。——白いシャツ一枚の姿をした薄い青の髪をした少女。
「……あ、ソーヤちゃんだ……はぇえっ!?」
彼女——レーネはかあっと顔を赤くした。
すこし時間が経って。
「もう、来るなら先に言ってよぉ……です」
ぎこちない敬語で、レーネは唇を尖らせた。しっかりシャツの下に下着をつけて、きちんとスカートも着た状態で。
……外よりかはマシだけどそれでも十分に寒い寮の廊下で着替えを待った僕を、すこしは褒めてほしい。
「あはは、ごめんごめん」
笑ってみると、彼女も「まあいいですけど」と笑った。
部屋は僕らのものと同じ四人部屋。けど内装は結構カスタマイズされていて、まず部屋の大部分を占領する二つの二段ベッドのうち片方の下段は本棚になっていた。
上段は普通のベッドだけど、下は大量の本がところ狭しと置かれていて人が寝られるスペースはない。
もう片方のベッドも、上は普通だけど下にはカーテンがつけられている。黒いカーテンの向こうを覗いてみると、中には四角い大きな箱が置かれていた。
「……これは?」
「テレビです。映画を見る時は暗いほうが雰囲気出るので」
「えっと……ルームメイトは?」
「アインだけです。……ほか二人は入学して程なくして退学しちゃって」
「あー……それはご愁傷さま」
「いえいえ、あんまり気にしてはいないので。今日はアインもどっか散歩に行っちゃったし」
言いながら、レーネはベッドの下段の本棚を軽くあさり。
「あった。ふふ、見たいんですよね? これ!」
ピンクの箱を取り出した。
ぶ厚めの本と同じくらいの大きさ。樹脂製と思われる箱の表面には、男女が見つめ合っているような絵。
「……なにこれ」
「知らないんですか!? 片恋リフレインラブ!」
本当に知らない。
首を縦に振ると、彼女は額を抑えた。
「恋愛ドラマの大名作だよ……? 女の子の必修科目じゃん……」
「え、そんなに有名なんだ?」
「うん。すっごくロマンチックな恋物語で、女の子みんなの憧れ! ……本当にこういうのに触れてこなかったんですねぇ、ソーヤさん」
レーネは驚いたような目で僕を見る。どうやら僕はこういうことにはとことん無知だったらしい。
目をそらす僕に、彼女はふふっと笑った。
「これからわたし色に染めていくのが楽しみですっ」
……僕はこれから、どうなってしまうんだろう。
数時間後。
結論としてはなにも変わらなかったと思う。
恋愛という用語について、すこしは理解できたかもしれない。けど、それ以上でもそれ以下でもないと思う。
「どうですか? すこしは恋愛についてわかりましたか?」
そう言われても。
ずいっと迫ってくるレーネに、きょとんとして目を逸らし。
「……まあ、すこしは?」
かろうじてひねり出した答えに、彼女は「やったぁ!」と嬉しそうに笑った。
「疲れたから部屋戻る……」
すこしあくびをしながら立ち上がった僕に、彼女は「また来てくださいね! 今度はこのゲームやりましょ!」とピンクの箱を見せてくる。女の子が何人も並んでる絵がパッケージになってた。
苦笑して「まあ、また今度ね」と言って、そそくさと部屋を出た。
*
といった出来事を思い出し。
目の前の金髪くるくるツインテールの少女のなんというかまんざらでもなさそうな赤面を見て、僕は理解した。
……これが「恋する乙女の顔」かぁ……。
ドラマに出てきた女の子と似たような顔で照れている彼女に、僕は目を逸らしつつ。
「まあ、いいんじゃない? 君が幸せなら」
一般論じみた答えで返すしかなく。
けど、彼女はすこしだけ息を呑んだ素振りを見せたあとに、目を細め。
「ふふ、背中を押されましたわ。さすが魔王天使。三股ハーレムの主は器が違いますわね」
「え?」
いまなんていった?
頭が真っ白になった僕を横目に、彼女は花の咲いたような笑みで。
「お返事してきますわ! ありがとうございます、ソーヤさんっ!」
告げて、廊下を走っていった。
……どうやら、アインとレーネにはじっくり話を聞かなくてはならないようだ。
事実無根の噂に、気が重くなった。
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