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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3rd Season 武闘大会編

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#48 カロン・リスターと因縁の終わり/怪人二千面相


 薄ら目を開ける。

 白い天井。そして、泣き出しそうな少女の顔。

「ソーヤさんっ!」

 僕を呼ぶ声。……この毛先がくるくるした金髪は。

「……カロン?」

 呼びかけると、彼女は目に涙をためたまま、ぱあっと花が咲いたように笑った。


 上体を起こす。クラスメイトの大半、いやほぼ全員が、僕の様子をじっと見ていた。

「……やあ、おはよう」

 微笑んで挨拶をしてみる。ベッドの周りでギュウギュウ詰めになってた少女たちは、互いに顔を見合わせ。


「ソーヤっ!」

 金髪、というかブロンズでストレートの髪をした少女が、ベッドに飛び込んできた。

「クリスちゃん。ソーヤちゃんは病み上がりなんだよ?」

 諌める白髪の少女。マーキュリーの言葉に賛同するように。

「そうですよ? のしかかるのはいけません。……もうちょっと休ませてあげましょうよ」

 提案するのはピンク髪の少女、アリア。僕は苦笑しつつ。

「もう平気だよ。……みんな、ありがと」

 笑いかけてみると、クラスメイトたちは嬉しそうに僕に詰め寄った——。


 それからはもう大変だった。いろんなことを聞かれて、話せることは話して……とにかく、みんなをなだめるのに手一杯で何も手につかなかった。

「もう……心配しました」

 黒髪ショートの長身な女子——グレンダが嘆息する。

「グレンダたちこそ、大丈夫? えっと、その……」

「『怪人』にされていた件ですか? それは、まあ」

「大丈夫! ピンピンしてますわよ!」

 自信満々に答えるカロンの頭に、グレンダはぽんと手をおいて。

「……では、このあとの取り調べも大丈夫ですね」

「うぐぅ」

 鳴き声を出して涙目になるカロン。少し来まづくなった雰囲気を誤魔化すように、「……冗談。私もこれから取り調べですし」なんて告げる。


「そっか、よかった」

 雰囲気がだいぶ軟化した彼女らに、笑いかけた僕。ふたりは互いに顔を見合わせて。

「だって、あなたに助けられたんですもの!」

 はにかむカロンに、胸が暖かくなるのを感じた。


 そして彼女はそのまま、ベッドの反対側に立つアリアに顔を向ける。

 少しだけもじもじと指先をこすり合わせて——それから、意を決したように。

「アリアさん」

 呼んだ少女の目を見た。

「……なんですか?」

 アリアは僅かに目を逸らし——しかし、次の言葉に目を見開いた。


「いままで貴女方に失礼を働いていたこと、お詫び申し上げますわ」


「…………」

 僕には心を読み取る魔法なんて使えない。それはアリアの専売特許だ。

 けど、そんなことをしなくてもわかった。

 ——きっと、そんなことを言われるなんて思っていなかった……なんて顔をしていた。

「こんな一言で許してもらえるだなんて、そんな甘いことは思っておりませんわ。

 けれど——私達は、貴女たちに命を救われた。こんな私達(かがいしゃ)でさえも助けてくださるような優しい人たちに、私は——」


「もう、いいんです」

 カロンは泣きじゃくっていた。その頬に、アリアは手を伸ばしていた。

「わたしたちはクラスメイト。対等な立場なのですから。……顔を上げて」

 僕を挟んで向かい合う二人。顔をくしゃくしゃに歪めて涙を流すカロンに、アリアは慈愛を湛えた微笑みを浮かべた。


「あとで、一緒にお茶でもしましょうか。……できれば、友達として」

「ええ……お誘い、ありがとうございますわっ」


    *


 ——コンクリート打ちっぱなしの薄暗い部屋。

「およ? ……ここは——」

 光の帯に絡め取られた、仮面の少女——怪人二千面相に、黒髪の少女——スミカは木製の簡素なテーブル越しに微笑みかけた。

「ここは、王宮の地下牢獄。一応拷問設備もあるわよ?」

「おお、趣味がお惡ヒ」

 おひょひょ、と不気味に笑う怪人二千面相に、スミカは一つため息をついた。

「流石にしないけどね。……ご希望ならやるけど」

「ワタクシはマゾヒストではござゐませぬよ?」

「そんな言葉使えるんだ……ってかその歴史的仮名遣い(しゃべりかた)やめてって言ったじゃん」

「すみませんねぇ。設定(へん)更つて意外と大變なもので。それに、演出としても『良い』でせう?」

「演出過多でうざい。あと旧字体使うのもやめてくれない? すごく読みにくいから」

「考へておきませう」


 互いに呑気な笑い声を響かせ——それから。

「で、だうしてこんなにも物騷なところにワタクシを()れて參つたのですかい、英雄殿」

 怪人二千面相の目は鋭く光る。

「不気味だね。……あんた、何処まで知ってるの」

 スミカの問いかけに、少女の姿をした怪人は仮面を一枚落とし——笑みを深めた。


「なんでも、でござゐますよ」


「……お前、何者だ?」

「おひよひよ。……アナタなら、ご存知でせう?」

「生憎と、私は何でもは知らないんだ」

「さうですかい。ワタクシはアナタのことをよく知つてゐるといふのに」

「……そろそろ質問に答えてほしいんだけど」

「ええ、解りました」

 怪人二千面相が、にたりと笑ったように見えた。


「ワタクシの夲性(ほんしょう)は、『智慧の龍』。悠久の時を生き、知を司る(カミ)とも(しょう)された——たゞ物識りなだけの老いぼれでござゐます」


「はは……ご謙遜を、センパイ。……確かに聞いたことあったわ」

「さうでせう。神話には稀に名が載つておりますからねぇ」

「それだけじゃない。個人的にも聞いたことあってさ。——特異点の一人なんだっけ」

「よくご存知で」

 ——知識を司る原初の魔獣。悠久の時を生き知識を得続ける、並外れた『知識欲』の怪物。

 その欲望のために、蓄えた知識を活用し、己の存在を書き換え、この世の理から脱した——まさしく、古代からひっそりと存在し続ける特異点の一柱。

 それが、スミカの知り得る目の前の存在に対する情報であった。


「ああ、此の場でワタクシを殺しても特に意味はござゐませぬのであしからず。——此の(からだ)はあくまで端末でしかありませぬので」

「そんなマネはしないから安心してほしい。……ちなみに本体は何処に?」

「世界中、それこそ宇宙を含めた幾つか——凡そ陌を超える程度の場所に分散配置しております。もちろんバツクアツプも取つておりますので、最惡(ひと)つでも(のこ)つていれば半日もかからない程度で完全復舊(ふっきゅう)できますねぇ」

「自分の弱点であっても饒舌に知識をひけらかす辺り、やっぱり智慧の龍で間違いはなさそうか……」

「ちなみに端末は死骸を活用しております。姿はあくまで變化(へんげ)の術を使つてゐるに過ぎないので、アナタの愛妻の姿を取ることもできますよ?」

 姿を変えようとした怪人をスミカは静止した。

「冗談も大概にしろ。——うちの嫁(アリス)を愚弄すんな」


 睨み付け——スミカは嘆息する。

「……てかやっぱお前バケモンじゃねえか」

「アナタが言ゐますか、英雄殿」

 睨み合う二人。

「もう時間がないから単刀直入に聞くが——何故、人間を魔獣にするなんておぞましいことをした」

 低い声で唸るように訊くスミカに、怪人二千面相は飄々とした態度を崩さずに。


「ソーヤ・イノセンス少年の、捕縛の為にござゐます」


「……やっぱりか」

 答えた怪人に手を構えるスミカ。「ああ、勘違ひなさらないでくださひ」と少女の姿をした怪人は手を振る。

「勘違い? 何がだ」

「ワタクシは彼に何ら恨みなどはござゐません。否、恨みどころか()つたことすらござゐません。——特別な感情など、抱く餘地(よち)すらありませぬ」

「……ハナから感情論だなんて思っちゃあいない。——裏に手引きしている存在がいる。そうだろう?」

「御冗談を。たゞ、その推測は正解でござゐます」

 笑う怪人に、スミカは魔法を放とうとしながら尋ねる。


「答えろ。黒幕の正体を」

「おお、趣味がお惡ヒ。——そんなことをせずとも、答えて差し上げませう」

 おひょひょと怪人は空虚な笑い声を出して——仮面をまた一枚落とし。

 素顔を見せぬまま、笑うことをやめた。


「——その名は、名無し(ネームレス)でござゐます」


    *


「——魔王天使だ!」

「姿をお見せになった! 今度こそ、あの天使の輪の正体を——」

 世間は「天使事件」のことで持ちきりになっていた。

 商業区に遊びに行こうと校門を出たら、新聞記者が待ち構えていた。

 僕は少し顔をしかめ——。


「逃げたぞ! 追え!」

 魔力で作った自律人形。十分程度したら煙を出して消滅するようにした。

 ……あんな雑な人形を僕と間違えて追っかけてくの、一周回って面白いな。すごく滑稽で。

 ため息を吐きつつ、光学迷彩魔法を使って身を隠した僕はさっさと寮の方に踵を返すことにした。


「外に出る時は変装しようよ……」

 寮の自室に帰ると、マーキュリーがいた。

「あはは……そうだね」

 言いながら、僕は制服を脱ぎ、着替える。

 白いシャツに、茶色いチェックのワンピース。同じ模様のベレー帽に、メガネ。

 入学してからいろんな私服を着るようになったが、この格好はその中でもだいぶ地味な部類だ。

 メガネは度の入っていない伊達メガネで、武闘大会が終わったあと——記者が僕のことを執拗に「取材」しようとし始めた頃に買った。本当はサングラスにしたかったが、アリアとマーキュリーに猛反対されてやめた。

 ——あれから二週間。時間が経つのは早いものだ。


 二人だけしかいない部屋。少しの間、沈黙。

「……アリアとクリスは?」

 尋ねると、「ごめん、わからない」と答えられ。

「そっか」と返すと、また部屋は静かになった。


「…………もうすぐ、冬だね」

 マーキュリーはぽつんと呟く。

 ——冬。たしか、異世界由来の季節を表す単語で、前に聞いた「夏」の対義語。

 息を吐くと、白いモヤになる。肌寒さに身震いして。

「暖房魔法、使う?」

「なにそれ」

「周囲の気温を上げる魔法。温度を下げる魔法の応用だよ」

「へぇ……」

 今度覚えてやってみよう。


 部屋の中は少しだけ暖かくなる。

 窓から外を見ると、あいも変わらない風景。しかし、数ヶ月前よりくすんだ色合いの景色。

 ——これが、冬か。

 暗くて鬱屈とした、寒い季節。そこに、僕らはいつの間にか踏み込んでいる。

 実感し、ほうっと息を吐いた。


「——わたしの夢って、なんだろ」


 マーキュリーが不意に放った言葉。僕はただ、息を吐いて——緩慢に、彼女を見た。

「わたしの個性ってなんだろ。……どうしたら、みんなに……ソーヤくんに好かれるのかなぁ……なんて」

 そういえば、今まで彼女と二人きりになる場面ってそう多くはなかった気がする。クリスやアリアと比べると、断然。

 冗談めかして彼女はくすりと笑う。

「まあ、いま考えることじゃないかもしれないけどね。……なんでもない、ただの……うん。弱音みたいなこと言って、ごめん。……なんでもない」

「その割には、声が震えてる気がするけど?」

「……だいじょうぶ、だから」

 呟いた彼女に、少しだけ思案する。——やがて、一つ思いついて、思わず口にした。


「……一緒に探さない? 将来の夢」


3rd Season「武闘大会編」・完


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