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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3rd Season 武闘大会編

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#43‐2 黒い魔力


 ——嫌な予感がした。

「あの黒い仮面。なんなんでしょうか……?」

 観客席最前列。アリアの溢した問いに、息をつまらせる。

 カロンたちがつけている、目の周りを覆うような形の黒い仮面。その意味は、なにか。


 戦慄する間に——戦闘開始の宣言が出された。


 エクスカリバーを名乗るチームは、先手必勝と言わんばかりに剣を振りかざす。しかし——黒い魔力がほとばしった。

 バチン。そんな音が聞こえたかと思いきや——次の瞬間、相手の喉元に黒い魔法の矢が突き刺さっていて。

「勝負あり! 勝者、チーム・ウルヴェンハント」

 宣言が出た。しかし、カロンは相手に近づく。

 握手をすると思ったのだろう。相手のリーダーと思しき青年は手を握ろうとして——。


 次の瞬間、手首が切り落とされた。


 青年は目を丸くし……なにが起きたかを理解すると、悲鳴を上げる。

 カロンは手を振りかざし、空中に大量の矢を浮かべ——「ストップ! 止まってください! もう試合は——」審判の静止も虚しく。


 スタジアムに、黒い魔法の矢が降り注ぐ。

「——ッ!」

 僕は呼吸をし、刹那。


 金属音がした。

「……ハァ、はぁ……」

 息を切らす僕。……なんとか防御魔法が間に合った。

 ——僕らの周りに、黒い泥が浮いていた。魔法の残滓だ。

 同じように相手チームの青年たちにも、泥がついている。どうやらあの腕輪には「命を奪うような攻撃」を防ぐ魔法仕掛けが施されているらしい。

 致命傷を免れたチーム・エクスカリバーの面々は、走って退散……というより避難をする。

 それを見て、僕は呼吸した。


「……逃げよう。ここは危険だ」

 仲間たちに促した。

 観客席に張られた大規模防御魔法。それを貫通しかけたあの黒い魔法。その矛先は、間違いなく僕らに向いていた。


 彼女らは、僕らを殺そうとしてきたのだ。


「……ここにいたほうが安全じゃないの? 結界魔法もあるし」

 クリスの言葉に、しかし僕は深呼吸で平静を保とうとしつつ答える。

「その結界をくぐり抜けようとしてきた。僕の防御がなければ、今頃死んでたかも」

「それだったらもう何処に逃げても無駄な気がするけど」

 反論できなかった。しかし。


「……少なくとも、いまのカロンたちとは絶対に対面しちゃだめだ。どうなるか、わからない」

 そう告げると、三人は顔を見合わせ。


 スタジアムの下から、視線を感じた。


 カロンが、仮面越しに僕を睨んでいた。

 言いしれぬ恐怖に、息が詰まるのを感じ。

「……ここにいちゃだめだ」

 告げるが早いか、僕はその場をあとにした。


    *


 混乱で第三回戦の開始は遅れたらしい。

 らしい、というのは、その報告を聞いたときには三回戦はすでに終了していたからだ。


 僕はトイレにこもっていた。

「うっ……んぇ……」

 吐き気を催すほど、醜悪な魔力。脳内に響く高周波音が、未だに頭から離れない。

 ひどい頭痛に、僕は頭を抱えた。

 回復魔法を何重にもかけて、体力を回復しようとする。しかし、上手く治らない。そのうち周囲の魔力が薄くなっていくのを感じ、魔法を使うのをやめた。

 口で呼吸をして、また額を抑える。昼までに治れば……。


 そんなときだった。

 こんこん、と個室に二回のノックが響く。

 流石に使いすぎたか。「はーい、いま出ます……」と答えると、ノックの主は「いや、出なくていい。辛いんだろ?」と答えた。

 ……声音からして、ヴィクトリアさんだ。

「どう、して……」

 かろうじて尋ねると、彼女は「あんたの仲間たちから聞いたんだよ」と答えた。

「さっき襲撃されかけたあと、具合を悪くしたって? 大変だったな」

「……別に」

「強がんなよ。さっき三回戦が終わったばっかだから、まだ休んでてもいい。というか休まないと保健室にもいけないだろ?」

「…………」

 そのとおりだった。

「少し動けるようになったら保健室に行きな。魔法以外の用意もあるから、少しはマシになるかもしれねぇ」

「……ありがとう、ございます。でも、どうしてここまで?」

 尋ねると、彼女はヘヘッと笑った。

「お前らと再戦したいからさ」

「そりゃ、どうも」

「んじゃ、予選行ってくるわ。準決勝も頑張れよー」

 その言葉の後、足音が去っていく。


 ……心があったかくなったような気がして、少しだけ息をつく。

 よし、元気出た。

 もう一度深呼吸をして、僕は立ち上がった。


 なお、保健室で聞こえた中継によると、第四回戦はヴィクトリアが単独で出陣し相手を瞬殺したようである。

 ……やっぱあの人化け物だったんじゃないかな。


    *


「ソーヤ。大丈夫?」

 昼。スタジアムの地下に設けられた臨時の保健室にて。

 試合を見終えたのであろうクリスが真っ先に駆け寄って訊く。

「あはは……多分大丈夫」

 養護教諭は、おそらく体質に合わない質の魔力にあてられて酔ってしまったのだろうと推測していた。酔い止めの薬を飲んで少し休んだので、確かに少しはマシになった。

「そう……ならいいけど。午後の試合は休んでていいわよ?」

 提案されるが、しかし「でも、できるなら四人で勝ちたいだろう?」なんて格好をつけてみる。……クリスは呆れた表情で僕を見ていた。


「すぐにアリアたちも来るはずだから。お弁当、一緒に食べましょ」

 言われ、僕はコクリと頷く。


 ……食べ終わったら、少し肩慣らしに魔法の練習でもしておくか。

 そんなふうに考えていた。そのときだった。

「——……」

 その存在に気づいたのは。


「……なにをしに来たの? カロン」

 尋ねると、呼ばれた彼女は黒い仮面をつけたまま、なにも言わずに——黒い閃光が視界をよぎった。


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