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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3rd Season 武闘大会編

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43/56

#40 恋って、なに?


「ソーヤさん。ソーヤさん!」


 呼びかけられて、僕はハッとした。

「……そんなにぼーっとして、どうしたんです? ソーヤさん」

「ああ、うん。なんでもないよ、レーネ」

 そうやって笑って誤魔化す僕に、目の前の少女は少しだけ怪訝な目を向けた。


 ——武闘大会まで、気がつけば一週間を切っていた。

「教室の準備はだいたい順調ね。調理班のアインはどう? コーヒーとか紅茶とか、作り方覚えた?」

「覚えた。でもまだもうちょっと練習したいかなぁ。レーネも一応できるようになりたいって言ってたし……」

「まあまだあと六日あるもの。いっぱい練習しましょ!」

 文化祭の準備は、だいたいうまくいっているようだ。

 ……クラスメイトの大半がカロン陣営についたので、僕らの出店はたった六人。いつもの四人と、アイン、あとレーネ。

「服飾班のアリアとマーキュリーは、確か寮で衣装を作ってるんだったわよね」

「そうだね。校舎の被服室は使われてるからって」

「……妨害かしら。まあ、細かいこと考えてても仕方ないんだけど」

「あたしたちはあたしたちのできることをやろう。できることはそれだけだ」


 そんな会話を繰り広げる二人をぼうっと見ていたら、不意に肩を叩かれた。

「あのぉ、食べます? さっき練習で作ったクッキー」

「あ、ありがと。レーネ。とりあえずお茶にでもしようか」


 普通の教室をそれっぽくセットしただけの簡易な喫茶室。その一角を仕切ってできた厨房には、一口の魔導コンロと小型ケトル。その他、ティーポットなどの各種道具が並べられている。使い捨ての食器類を除けば、ほとんどが僕の私物だ。

「……予算がほとんどカロンさんのほうに回っちゃったのに、こんなに本格的にできるなんて……まるで夢みたいです」

「あはは……制約もだいぶ大きいけどね。全ては工夫の賜物だ」

「その工夫がすごいんですよぉ。はぁ……紅茶も美味しいですっ」

 自分で作ったクッキーをはむはむとかじるレーネ。少し硬めのクッキーは、柔らかい香りの紅茶とよくあっていて美味しい。

 けれど——僕は、小さくため息を吐く。

「えっと、その、うまくできてなかったです?」

「そんなことはないよ。とっても美味しい」

「じゃあ……なんで、そんな浮かない顔をしてるんですか?」

 そう言われて、はっとした。たしかに少し上の空になってた気がして。

「あ、ああ……なんでもないよ」

「もしかして、恋でもしました?」

「ゲホッゲホッ」

 思わず紅茶を吹きそうになった。


「えっ、本当に恋を……?」

「なんで嬉しそうなの!?」

 驚く僕に、レーネはぱあっと花が咲いたかのように笑った。

「だって……女の子なんですもん」

「そういうものなんだ……」

「で、相手は誰です!?」

 身を乗り出すレーネに、僕は「その……」と目を逸らし、答えた。


「そもそも、恋って……なに?」


「……そうきたか……です」

 レーネは唇を尖らせた。

「ドラマとか見たことないんですか?」

「ないなぁ……。寮にはテレビとかないし」

「家にもなかったんだ……?」

「屋敷にはあったかもしれないけど、僕の住んでたのは座敷牢だったから」

「え……じゃ、じゃあ少女漫画とかは?」

「あいにく、漫画には興味がなくって」

「見たことないだけなんじゃ……え、さすがに恋愛小説はあるよね?」

「たまに読む新聞の広告でまれに見るけど、面白いの?」

「うっそ……箱入り娘すぎない……?」

 膝をつく彼女。きょとんとした僕に、彼女は大きめのため息を吐きながら両手を僕の肩において。

「……今度の休み、わたしたちの部屋に来てください。恋愛の何たるかを教えて差し上げますよ」

 そう告げたレーネに、僕は軽い苦笑いで「あ、はぁ」と答えるしかなかった。


    *


 武闘大会と文化祭の準備は、着々と進んでいた。

「そこ! ぼーっとしない!」

「ああもう、茶器の準備はまだか!」

「くっそだりぃな……いまやってるよッ!」

 教室内は罵声が飛び交っていた。


「はぁ……これで、本当に喫茶店なんてできるの……?」

 休憩するカロンに、その友達は「大丈夫ですよ」と疲れた声。

「ほんと? グレンダ」

「……為せば成る。為さねば成らぬ。何事も」

「どういうこと?」

「やってみなければ、できることもないのですよ」

「うぐぅ……はぁい」

 そうカロンは唇を尖らし、軽く体を伸ばして。


「……何故私達は、こんなことをやっているのでしょう」


 グレンダが、ふと口にした。

「どうして、私達はこんなにも彼女たちに張り合って、勉強する時間を無駄にして、このようなことをしているのでしょう」

「ハッ、今更なにを言い出すじゃと思えば」

 カロンは、そんな彼女を鼻で笑って。

「いい? あいつらは、敵なのよ? ……わたしたちとは相容れない、獣なのよ」

 言い放った。


「…………そう、ですか」

「そうよ。……決まってるでしょ」

「しかし……」

 なおも反論しようとするグレンダに、しかしカロンは。

「バカを言わないで」

 魔法で刃を作り——グレンダの頬をかすめた。


「あの獣たちに与するものは、同じく敵とみなすわ。……最後通牒よ」


 少しの沈黙。その後、グレンダは「……参りました」と息をついて自分の持ち場に戻る。

「彼女たちも同じ人間であることを、お忘れなきよう」

 そんな言葉を、カロンの耳元に残しつつ。


「……ばっかじゃないの」

 ——どうせ、わたしたちが勝つに決まっているのに。

 カロンの揺るぎない確信は、しかし掴む間もなく心の闇に溶けていった。


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