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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3rd Season 武闘大会編

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#39 ソーヤくんが、いけないんですよ?


「ソーヤくんが、いけないんですよ?」


 ピンクの髪が僕の頬を撫でた。

「アリア……?」

 名前を呼んだ彼女のよくわからない行動に、僕の脳内は疑問符で埋め尽くされた。


「……なんでハダカで、僕に覆いかぶさってんの……?」


 現在の様子。下着姿(無論女物の、ピンクのブラとショーツ)の僕に、一切の衣服を身にまとっていないピンク髪のヘンタイ……もといアリア。

 ——女の子の裸なんて、ほとんど見てこなかった。正確には、大浴場で一回。不可抗力だし、最低限タオルで隠してくれていたので完全な全裸ではない。

 しかも、こんなに近くになんて……たぶん、幼い頃に母乳を飲んだとき以来だろう。もちろん物心ついてからは一切ない。

「んふふ。……心臓、バクバクいってる。まったく、かわいいですねぇ。ソーヤくんは」

 僕の反応を見てニヤニヤする彼女。言い返そうと口を開こうとして——胸が高鳴った。

 ……いい匂い、する。

 シャワールームに置いてある、共用のシャンプーとボディーソープ。僕も同じ匂いのはずなのに、何故かアリアからする匂いはすごく甘くて。

「……胸、当たってる」

 誤魔化そうとした僕に、しかし彼女はむしろ、もっと体を密着させて。

「あててんですよ。……あなたの可愛い顔が見たいから」

 そう言って、僕の股間に手を当てた。

「ひゃ……んっ……なに、して」

「今日の私、どうですか?」

「どう、って……」

 そんな事言われても。というか、それどころじゃ……。

 頬を染める僕に、彼女は目を細める。

「はやく、言ってください」

 心を読める魔法だって使えるくせに。でも、僕は彼女から目を背けながら答えた。


「……その、いい匂い、する」

「体は、どうですか?」

「…………柔らかくて、あったかい」

「顔は?」

「………………すっごく、かわいい」


「それだけ、ですか?」

「……………………」


 何も言えなくなった僕に、彼女は「ふふっ」と笑みをこぼした。

「やっぱりかわいいですねぇ、ソーヤくんは」

「んぅぅ……」

 抱きしめてくる彼女に、僕はただ赤面するしかなくて。

「普段は冷静沈着で、でもいざとなったらわたしたちを助けられる強さもあって。かっこよくて、でも姿はとっても可愛くて。——なのに、こんなにウブなんですね」

「……っ」

「そんなところも、かわいいですよ?」

 思わず目を逸らした。

「どこ、見てるんですか?」

「……どこも見てない」

 唇を尖らすと、彼女は小さく息を吐いて、ようやく僕の真上から退いた。

 そのまま隣に横たわる彼女に、僕は背を向けたまま。

「……どうして、こんなことしたの」

 訊くと、彼女はほうっとまた息をついた。

「まだ、わかんないんですか?」

 一瞬だけ、脳内に金切り音が響く。

「…………言わないと、わかんないか」

 ——心を読まれたらしい。

 小さく呟くアリア。胸を走るきゅっとした感覚。……なんなんだろう。魔法も使われていないのに。

 心臓が高鳴る中で、彼女は僕に優しく触れて、耳元で囁いた。


「好き、です。ソーヤくん」


 なんで今更、そんな事を言うんだ。

 ——僕も好きに決まっている。アリアも、クリスも、マーキュリーも、僕にとって大切な——。


 耳鳴りがした。

「そう、ですか。あなたにとって、私は……私たちは」

 背中に、小さく濡れた感覚がした。


 ——僕にとって、大切な友達だから。


「……ソーヤくんって、とても純真無垢なんですね。まだ恋も穢れも一切知らない、まっさらな子供」

 再び一瞬の耳鳴りが聞こえる。しかし、僕に効くことはなかった。

「そんなあなたに、私は恋をしてしまったんです。……魅了魔法も、あなたにだけは使えなくなっちゃいました」

 彼女の告白。いや、独白、告解とも言うべきだろうか。

 僕はただ、理解が及ばないまま。

「穢れてしまった私を、今更赦してほしいとは言いません。……ただ、いまだけ……この気持ちを吐き出すことだけ、許してください」

 しかし、その言葉に、僕は思わずアリアの方を向いて。

 無言で、小さく頭を撫でた。

「…………好きです。あなたの全てが。

 クールなところも、かっこいいところも、かわいいところも……やさしいところも。

 ……みんな、大好きです。あなたが、だいすきです」


    *


 食事を終えて、深夜。僕が布団で寝息を立てたのを見計らったかのように、話し声が聞こえた。


「……クリスさん。告白、うまくいきましたか?」

「だめだったわよ……。変なクマの魔獣に邪魔された。マーキュリーはソーヤとちょっとは近づけたかしら?」

「うん。手取り足取り魔法のこと教えてもらっちゃった。でも、二人みたいにコクハクとかはまだかなぁって。アリアちゃんはどう?」

「…………しました」

「え?」

「しました! ええ。やっちゃいましたよ、告白っ!」

「うそ! よくも抜け駆けしたわね! 覚悟なさい。いまからアンタにアイアンクロー食らわせて——」

「やめなよふたりともっ。もう、ソーヤちゃんが起きちゃうよ?」

「……そうね。落ち着きましょう。スー、ハーッ」

「クリスちゃん、えらい。……で、アリアちゃん。どうだった?」

「あはは……惨敗でした」

「アンタが? 魅了の魔法使えるのに?」

「あの魔法は、恋した相手には使えないんですよ。どうでもいい相手には簡単に使えるのに……皮肉なもんです。しかも、ここで残念なニュースです」

「……なによ」

「ソーヤくん、私たちを『ずっと友達』としか思ってないようです」

「なんでそれが残念なの?」

「わからないんですか、マーキュリーさん。……ずっと友達、ということは」

「私たちが恋人になる余地はない、ってこと……?」

「残念、正解ですクリスさん。……このままでは、ですが」

「このままでは、って……アリア、何をする気?」

「ふっふっふ。それはですねー……」

「あっ、もしかして、ソーヤちゃんに恋心を教え込むとか?」

「…………マーキュリーさんって、時々すごく鋭いですよね」

「もしかして、話の腰を折っちゃった?」

「いいんですよ。まさにそれを言おうとしてたので」

「つまりは、ソーヤに私たちを『恋人』として好きになってもらうってこと?」

「……クリスさん、飲み込みが早いですね」

「ありがとっ! でも、それじゃあ結局、ソーヤの取り合いになっちゃうじゃない」

「飲み込み早すぎじゃないですか? でもまあ、たしかにそうなっちゃいますね……。うーん……」

「…………」


 しばらく続いた会話が途切れ、少しの間の静寂。僕は寝息を立てるふりをする。

 彼女たちはこれまでも、稀にこうやって話し合っていたのだろう。女子会というやつだろうか。

 よく聞こえたわけではなかったけど、たぶん僕のことを話している。そしてきっと、僕が割り込むのは野暮な話なんだろう。本来は聞き耳を立てるべきでもない。そう直感していた。


 やがて。

「だけど、これだけは変わんないよね」

 マーキュリーの優しい声がした。

「……わたしたち三人は、ずっと友達だってことっ」

 少しの沈黙の後、三人の小さな笑い声。

「そうですね。……たとえ、誰がソーヤくんに愛してもらったとしても、私達は」

「ええ。……ずっと、友達。いや、親友!」


 笑い声が止んで、三人がそれぞれ「おやすみ」を言い合ったあと。

 僕は小さく息をついて、考えた。


 ——恋って、なんだろう。


 そんな問いの答えは実を結ぶことなく、意識は闇に沈んでいった。


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