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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3rd Season 武闘大会編

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#37 デート、しましょっ!


「ちょっと付き合いなさい!」

 クリスは、その長い金髪と滅多に着ないはずのスカートをはためかせて、胸を張って僕に言った。

「デート、しましょっ!」


 というわけで。

「デートって、何処行くのさ」

 僕が尋ねると、彼女は「いいでしょ? どこでも!」なんて言って笑う。

 すごく晴れやかで楽しそうな笑みだ。

「……いま、放課後だけど」

「いいじゃない! 夕日に照らされた街もキレイなものよ」

「それはそうだけど……」

 あのまま寮で休んでたかった、とはとても言いにくい。こんなにスキップしてるクリスに、僕は嘆息する。

「でも、そう言いながらきちんと着替えてるじゃない」

 言われて、少し赤面した。

 ピンクのフリルスカートに、白いブラウス。最近覚えた簡単なメイクまでしてみたりして。

 ……デート、なんて言われたから、ちょっと浮かれてしまったのかもしれない。

「このくらいしないと、キミには釣り合わないでしょ?」

 そんなふうに言い返すと、彼女は花柄のロングスカートを翻しつつ、髪の毛の先を少しいじって頬を染めた。

「……ばーか」


 こうして散策中。

「そういえば、さ」

 僕は口を開いた。

「なによ」

 唇を尖らせたクリスに、問いかける。

「魔法の発動、遅いなって思ったことない?」

「ないわよそんなの。たしかにちょっとのタイムラグはあるけど、一瞬じゃない」

「その一瞬が命取りになることだってあるじゃないか。そして、生身が出せる魔法には限界がある」

「……まあ、当たり前のことではあるわよね」

「そこで、僕は考えたんだ。夏休みの自由研究として、ね」

「…………なにを?」

 ものすごい間が空いたのはなんでだろう。ともかく、僕はその構想を語り出した。

「僕が考えてるのは、魔法の外部コントローラだ」

「何を言って」

「魔法の発動を外部のもっと高速なスイッチに置き換えるのさ。あらかじめ決めたルールどおりに、高速で魔法の発動を行う装置」

「だから一体何を言ってんの?」

「簡単な発動プロセスなら、毎秒数万回は出せるはずさ。机上の空論だけどね」

「なんか恐ろしい兵器のこと話してる?」

「構造はね——」

「少なくともデート中にする話ではなさそうね」


 こうしてたどり着いたのは、夕日が射す山の中腹。

 神社の手前にある小さな広場。夏休み中、アリアが足繁く通って掃除していたところ。

「……すごい」

 街を高台から見下ろせる木々の隙間。学園都市を一望できるそこで、僕は声を溢した。

「そうでしょ。ここ、普段は誰も来ないから、こんな景色も見放題なのよ!」

「へぇ……」

 関心しつつ見る景色。オレンジ色に染まった建物の数々。とてもきれいだ。


 背筋を伸ばし、僕は笑った。

「で、どうして僕をここに招いたのさ」

「なんでもないわよ。ただ、お気に入りの景色を……好きな人と見たかっただけ」

 そう彼女は頬を赤く染める。

 ……今日のクリス、なんか変だ。いつもよりなんか、妙に可愛らしいというか。普段はそんなこと思わないのに。

 もじもじとした彼女の態度に、僕も何も言うことができずに。

 生まれた沈黙。その中で、クリスは。

「……ねぇ」

 口を開いた。

「今日の服、かわいい?」

「……すっごくよく似合ってる」

「なら、よかったわ。マーキュリーに選んでもらったの。……好きな人と、デートするならって仮定してね」

 普段はサバサバしてて一種の格好良ささえある彼女の、らしくない言葉。その裏の意味を、僕は推し量れなかった。

「……あのね、私——あんたのことが、好」


 推し量る猶予などなかった。それは何故か。

「ヴェアアアアアッ!」

 突如、クマ型の魔獣が雄叫びを上げたからだ。


「……」

「……」

「……」


 見合う三者。僕。クリス。そしてその僕らの身長を合わせたくらいの体長があるだいぶ大型のクマ型魔獣。

 沈黙があたりを支配した頃。


「ムードぶち壊しにしてんじゃないわよクソ熊ァ——ッ!」

 クリスが叫びながら光の矢を大量にクマ型魔獣に放った。ムードってなに?

 しかし、そのクマ魔獣はその強い魔法に身じろぎすらせず、すべて受け止める。そして、無傷だ。

「……え、なんか異様に強くないかしらこのクマ」

「まあ、魔獣だし」

「犬とか狼っぽいやつはこんなに強くなかったわよ!?」

 魔獣にもランク的なものがあるというのは周知の事実だ。一部の例外はあれど、基本は体の大きさが大きければ大きいほど強い。

 まあつまり、目の前のクマ魔獣はやたらと強い部類だ。

「逃げるわよソーヤ! 学園の駆除部隊に任せて——」

 そうまくしたてるクリスを横目に、軽く腕を伸ばす。

「……ちょっと何をしてるか聞いていいかしら?」

「こいつを倒そうかと」

「正気?」

 僕は正気だ。何もおかしくはない。

「まあ、普通に倒してもいいけど……うん。ちょうどいい実験台ができた」

「……何をする気?」

「さっき言った、外部コントローラの実験」

「できてたんだ、あの恐ろしそうな兵器……」

 恐ろしそうとは人聞きの悪い。まあ、誰も聞いてないから別にいいんだけど。

 深呼吸して、術式を脳内で構築。仮で設定した発動呪文を唱えた。


「展開・エンジェルハイロゥ」


 瞬間、脳天が急に熱くなる感覚。——いま、頭の上に金色の輪っかが展開されているはずだ。

 体中を熱が駆け巡る感覚。約コンマ三秒。その後に——僕は、目の前の脅威に手を伸ばした。


 発動。瞬閃光矢。風壁展開。防御結界。——押し潰せ。


 その指示を出し終わるが早いか——おそらく、魔獣は何をされたのかを理解する暇もなかっただろう。

「……魔獣が、捻り潰された……?」

 クリスの言葉。ベチャッと血で汚れた結界魔法から順番に解除していき——ドサドサと、かつて魔獣だったものが地面に落ちた。

 約一秒。それが、「魔法外部コントローラ器官・エンジェルハイロゥ」試作一号の初稼働時間である。


 魔獣が空気中に溶けていく中、僕はふっと息をついて。

「流石に疲れるな、これ」

 そんな感想を述べた。


「……何が起きたの?」

 言葉を漏らしたクリスに、僕は軽くめまいを起こしながら、千鳥足で彼女の下へ歩き、答えた。

「閃光の矢をだいたい五千本、ほぼ同時にぶち込んだ。それと臓物が飛び散らないように風の壁と防御魔法を張って押しつぶした」

「無数の魔法を複数種類同時に展開するって、大魔法使いでも簡単にはできない技よ……?」

「並列動作には限界はあるけどね。でも、発動展開のタイムラグをだいぶ減らせたから、肉眼では同時に見えるのも無理はないか」

「話が微妙に噛み合ってないわ……」

 嘆息するクリス。僕はというと。

「でも、ラグはもうちょっと減らせるな。並列動作ももうちょっと突き詰められる。動作コアを増やすか……。あと発動者のリソースもだいぶ使うし、展開までの準備時間も長かった。もうちょっとどうにかできればな……」

 考察を続けていた。

「……何言ってんのか、理解できないわ」

「あっ、そもそも発動だけじゃなくて全てのことをハイロゥ任せにして重要な部分だけを僕の方でやるとか」

「人の話聞きなさいよ!」

 そのツッコミで、僕ははっと我に返った。


「ああ、ごめんごめん」

「もう。……今日はお預けね」

 クリスのそんな独り言。よく聞こえなくて。

「なんて?」

 聞き返すと、クリスは大きなため息をついて、快活に笑った。

「もういいわ! 帰りましょ、ばーか!」


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