#36‐2 秘密組織定例会議
「それじゃあ、始めましょう。『ミスフィッツ・ゴースト』定例会議。——今日の議題は、武闘大会のことです」
アリアが宣言した。場の空気は、少しばかり引き締まったように感じる。
ピンク髪の彼女はスカートを揺らしながらベンチの間の赤い絨毯を進んで、祭壇の前に立つ。
「武闘大会、参加を決定しました!」
ぱちぱちぱち、と控えめな拍手。と同時に小さな歓声もちらほら聞こえた。
「私はルームメイトのソーヤさん、クリスさん、マーキュリーさんと一緒に出場します。私自身は正直あまり乗り気ではありませんが……宣戦布告、されちゃったので」
そこまで語ると、一人の手が上がった。——さっきの学ランの男だ。
「はい、アルさん」
指された男は「はっ」と起立して、ビシッと敬礼し、答えた。
「宣戦布告とは、どういったものでしょうか」
「……恥ずかしながら、私、どうやらいじめを受けているようでして。話の流れで、ケンカのようになってしまって……その決着を、武闘大会でつけようといった話になったんです」
「なるほど……」
アルと呼ばれた青年は嘆息して。
「その『いじめ』の主犯格の名をいただけますか?」
「カロン・リスターで……」
アリアが言うが早いか、被せ気味に答えた。
「只今から寝首を掻いて参ります」
「やめてくださいね?」
どうやらこのアルという青年は、非常に危険らしい。主に思想とかが。
「貴方様の危険となりうる人物はすぐに消すべきです」
「大丈夫ですよ。彼女は私の危険にはなり得ません」
「その根拠は」
「女の勘です。彼女はきっと、大事なところで躊躇するタイプです。——あと、いざというときは貴方達が守ってくれると信じてますので」
そこまで言われて、アルはようやく着席した。
「……承知いたしました。寝首を掻くのはやめておきましょう。いまは」
できれば今だけじゃなくずっとやらないでほしいところだ。話が色々とややこしくなる。
「で、アリアちゃんはどうしたいんすかー?」
警備員だった少女が手を上げながら問いかけた。
「……サムさん」
「だって、それがわかんないと何もやりようがないじゃん。……目的がなきゃ、何も始まらないよ?」
そんな言葉に、僕は息を呑む。——確かに、なんの目的もないんじゃ、どう動こうという指針も立てられない。
アリアは少し悩む素振りをして。
「……武闘大会で、勝ちたいです」
「その先は?」
「できるなら……和解したいです。あの子達と、また仲良くしたいです」
そんな事を言った。
「……その心は?」
「教室の空気が悪いのは、私も嫌なので。……あと、友達は多いに越したことないので」
少し照れつつも告げられた言葉に、サムは大きく伸びをして、答えた。
「よく言ったねっ! その方向で頑張っていこー!」
明るいその声に、僕らは顔を見合わせて。
「でも、どうやってやるんだ。サム」
「アルくん、話の腰を折らないのー」
教会の中は笑いに包まれた。
こうして作戦会議が始まった。
「まず出る人は頑張って鍛えなきゃだよねー」
「ああ、はい……まあ、たぶんそれは前提ですね」
「あとチームワークも鍛えとくべきじゃないです?」
「確かに……」
「あとは……相手のチームメイトを籠絡しておくとか」
「……ちょっと汚くないですかその手段」
「盤外戦術です。相手チームの飲み物に毒を盛りましょう」
「却下です。今日のアルさん殺意高くないですか?」
あまり目立った進展もなく、しばらくの時間が過ぎ。
頭を捻らす僕ら。そこで、一人の手が上がった。
「マーキュリーさん?」
「盤外戦術、いいと思う」
「何を言ってるんです? 毒は流石にやり過ぎで——」
「そうじゃないよっ。——武闘大会の前の日、文化祭があるでしょ?」
そういえば、完全に忘れていた。
武闘大会は一年に一度行われる、学園都市全土を巻き込む大イベントである。
そのイベントは例年二日か三日にわたって行われ——その一日目は、武闘大会文化の部、通称文化祭が行われるのだ。
「あれって確か、希望者だけが出場する武闘大会本戦とは違って、ほとんど全校生徒が参加するんだよね」
「……そうですね」
「だからさ、その文化祭でもカロンちゃんたちと競争してみるってのはどうかなっ」
なかば一息で言い切ったマーキュリーに、アリアは少し考える素振りをして。
「ええ、いいんじゃないかしら」
そんなアリアの隣から、クリスが声を上げた。
「……なんでこっちに出てるんです?」
「文化祭での勝負なら、きっと誰も傷つかないわ。平和的解決。なんていい言葉っ!」
「話を聞いてください。だいいち、文化祭で勝負なんて、どうやって——」
そこまで言ったアリア。しかし、すぐに固まった。
「いけます。これ、いけるかもです」
うわ言のように口にしたアリアに、周囲の注目が集まる。
日が僅かにさしてきた。白む空。澄んだ空気の中で、アリアの目は輝いた。
「やりましょう! 文化祭っ! ——喫茶店勝負っ!」
「え、なんで喫茶店なの?」
クリスの問いかけに、アリアは鼻息荒く答える。
「ソーヤくんって、コーヒーとか淹れるのすごく上手いでしょう? それを活用するんですよ。コーヒーやドリンクと軽食なら、簡単な設備でもできないことはないでしょう、ソーヤくん?」
「え、あ、はぁ」
突然話を振られた僕は、曖昧に相槌を打つ。……まあ、設備は最悪なくても自室から呼び寄せられるし、料理はいつでもどこでも作れるから問題はないんだけど。
戸惑う僕を尻目に、アリアは更にまくしたてる。
「それにです。可愛らしい制服を着た美少女が接客する喫茶店って、なんというかロマンじゃないですか!」
何を言っているのかわからなかった。
しかし周囲の面々はこくこくと頷いていた。なんかわかったらしい。
「じゃあ、わたしたちからカロンちゃんたちに提案してみますね! 文化祭喫茶店勝負!」
レーネが元気よく手を上げて言った。
「あたしも教室とか設備とかの貸し出しとか、掛け合ってみるわ」
アインも控えめに手を上げて。
「お願いしますね、ふたりとも!」
あれよあれよという間に色々決まっていき。
「それじゃあ、頑張りましょうね、皆さんっ!」
アリアの掛け声に、教会内は歓声に包まれた。
「おーっ!」
拳を上げて決起する。……僕自身は、この流れについていけていなかった。
こうして後日、カロンたちもこの提案を呑んだらしいと伝えられ。
武闘大会前哨戦・文化祭喫茶店勝負が決定したのだった。
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