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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
3rd Season 武闘大会編

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#34 独白:魔王天使の降臨


 ——私はその日、目撃したのです。天使の降臨を。


 武闘大会。有志数人で組まれたチーム同士で模擬戦闘を行う、由緒正しき歴史ある大会。

 その会場は、混迷を極めました。

「怪人」。人間を核にした魔獣のようなものをそう呼ぶらしい、とは後に聞いた話。

 私もその日、怪人にされていました。——否、怪人と呼ぶにはあまりにも巨大にして強大な、まさに怪獣王と呼ぶべき怪人と化していました。

「力がほしい。自分を馬鹿にした奴らを粉微塵にできるような力が」

 そんな甘ったるく自分勝手で他力本願な願いが招いた結果でした。

 ——私は、巨大化して人ならざるものとなった私自身が、目の前の全てを粉微塵に蹂躙していくさまを、眺めていることしかできませんでした。

 止めようとしても、身体はいうことを聞くことなく……もはやだれにも止めることができないのだと悟り、己の愚行を恥じました。

 何故、彼女に「勝負」を挑もうとしたのか。

 何故、無駄な敵愾心を過剰に燃やしてしまったのか。

 何故、こんなにも力を求めてしまったのか。

 ——何故、「それ」を受け取ってしまったのか。

 後悔に苛まれつつも、私は目の前に展開されていく惨状を眺めることしかできませんでした。

 このまま自責と後悔に苛まれて死ぬ。そんな抗えないはずの結末に、しかし私は「このまま死ねるなら本望だ」とすら思いました。

 ——それが贖罪になるとすら思い込んで。


 しかし——そのとき、天使が目の前に舞い降りたのです。


 天使は圧倒的な暴力で、あっという間に私を救い出しました。その暴虐的な魔力を以て、しかし私は無傷で。

 彼女は目を細めて、笑いかけておりました。まるで、すべてを赦すかのように。

 これが私の話せる、俗に「天使事件」と呼ばれる事件の全容です。


 思えば、それがすべての始まりだったのかもしれません。

 魔王の如き圧倒的強力無比な魔法を使い、あたかも天使のような姿で微笑む怪物。

 ——「魔王天使」ソーヤ・イノセンスの武勇伝は、きっとここが始まりだったのでしょう。


 そんなことを話し終わると、目の前の赤髪の上級生——高等部二年のヴィクトリア先輩は、大きなため息をついた。

「……カロン・リスター。お前があの坊っちゃ……嬢ちゃんにご執心って事はわかった」

「え、じゃあ」

「だが、故意でなくとも罪は罪だ。しっかりと償ってもらう」

 屹然と言い放つ彼女に、私は息を呑んだ。

「……死刑、ですか?」

 そう尋ねると、彼女は目を丸くして——大きなため息をついて告げた。

「んなわけないだろ。だれも殺してないんだからさ」

「……っ」

「ちゃんと生きて償え。——あんたの嫌ってた、アリア嬢のようにな」

 私は息をつまらせ、しかし目を細めたのだった。

「はいっ」


    *


 ——夏休み終了直後、二学期二日目。武闘大会がおよそ一ヶ月後に迫った日のこと。

「…………」

「……………………」

 教室の雰囲気は、これ以上なくギスギスしていた。


 授業中は誰ひとり話すことなく進んでいく。

 別にそれ自体は悪いことではないだろう。けれど、今までにないほどに静まり返った教室内は、もはや不気味だった。


「ソーヤちゃん?」

「……ああ、なんでもない」

 口だけで取り繕いつつ、僕は冷や汗をかく。

 休み時間は、一見和気あいあいとしているように見える。

 しかし、不気味なほどに殺伐としているように感じた。

 何故なのか。いや、それはわからない。けれど——クラスの雰囲気を決めるような中心人物のグループは、わざと僕らを視界から外しているように感じる。


 こうして放課後。

「あ、わたしはちょっと行くところがあるので……」

 そう言って僕らから距離を取るアリア。

 ——アリアの奉仕活動は終わった。そう本人から聞いたのは、三日前のこと。夏休み終了直前のことである。

 なので、彼女はもう神社掃除にはいかなくていいはずだ。……そのはずなのに、行くところがあるってどういうことなんだろう。

 別れていくアリアを訝しむ僕。手を振ったクリスは、笑って、笑いながら。


「さーて、ついていきましょ。アリアに」

 そんな事を言った。

「ええ!? いいの、そんなこと……」

 たじろぐマーキュリーに「いいのよ! なにもないんなら引き返せばいいし!」と言い返すクリス。

「えぇ……」

 マーキュリーはドン引きするが、クリスは目を鋭くして告げる。


「……あいつ、何かを隠しているわ」


 だろうな、とは思った。

 オロオロするマーキュリーに、僕は頷いて。

「行こう」

「決断早すぎない……?」

 ツッコミを意に介さず、僕は一言。

「……なんか、嫌な予感がするんだ」


 気配を消す魔法を使って、アリアを尾行する僕ら。

「いいのかなぁ……こんなことして」

 困り眉のマーキュリーに、クリスはニコっと笑って告げる。

「バレなきゃいいのよ。バレなきゃ」

「その考えはまずいよぉ……」


 こうしてついて行った先は。

「……講堂の、裏?」

 クリスが小さく口にした。

 草と苔だらけの薄暗い場所。建物と建物の間で手入れも行き届いていないようなところで。

 こんな場所になんの用があるのか。——ここに呼びつけたのは。

「来ましたよ、カロンさん」

 教室の空気を支配する、中心人物——カロン・リスターたちだった。


「ふふっ。よくこんなところに来てくれたわね。淫売の娘(サノバビッチ)



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