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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
2nd Season 皇女育成編

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34/43

#32 ドラゴンスレイヤー


 僕は、怒っていた。

「……ドラゴン。最強の魔獣、だっけか」

 この惨状。僕らが闘技場に降りるまでのたった数分の間に呼び出された、地獄絵図。

 ——燃える地面。死に体の先輩方。圧倒的な巨躯は、僕らを見下ろし、嗤い。

 シャーロットは、涙を流していた。

 自分で気づいているのかは、わからない。泣きそうな顔で、それでもその体には見合わない武器を構え、震えていた。

「よくも、シャルを——僕の友達を、泣かしたな」

 ドラゴンの巨躯を睨みつけた。奴の光る目は、僕を睨み返していた。


「ソーヤさんたち! その子を連れて早く逃げるのです!」

 観客席から初老の女性が叫ぶ。——ソフィー校長だ。

 きっと、シャルのことが心配だったのだろう。だけど、当の少女は一歩も退こうとしない。退かせるつもりもない。

 そもそも僕の仮説が正しければ、シャルがいなければ一切の勝ち目がない。

 彼女がただのか弱い少女であれば、逃げる以外の選択肢はなかっただろう。けれど。


「わたくしは、ただ守られるだけの皇女様じゃないのですわっ! ——さあ、かかってきなさい。哀れな怪物よ」


 シャルの言葉に反応したのか——ドラゴンは、唸りを上げた。


 爆音が圧力となり、僕らを吹き飛ばそうとする。

 しかし——打ち消せる。

「ノイズキャンセリング、とでも名付けようか」

 降りかかる音の波。それと全く同じものを魔力を使って作りぶつけることで、波が中和される。

 ゼロになるわけではないが——それでも、遮音魔法で打ち消せる程度には低減できた。……うまくいってよかった。

 ほうっと息をつき——。


「——行くよ。反撃開始だ」


 僕らは一斉に動き出す。

 アリアとマーキュリーが、揃って宙を舞った。ドラゴンはそれに狙いを定め、叩き落とそうと翼を動かし——閃光が、その翼を射抜く。

「こっちを見ろ、バカッ!」

 クリスが攻撃で気を引き——ドラゴンが、吠えた。

 目があっていたらしい。——精神干渉魔法は、魔獣にも効くらしい。

「バーカ。こんな簡単な挑発に乗るなんて、本当にばかみたいね、バ——カッ!」

 水を得た魚のようにバカバカ言って挑発するクリスをよそに、僕はシャルの手を引く。


 閃光が舞う。時々目をつぶりながら、僕らは闘技場を走る。

「何処に向かってますの!?」

 シャルの叫びに、僕は叫び返した。

「隙を、伺っているんだ」


 そう。隙を待っている。いや、作っている。というより作らせている。

 クリスが、強力な魔法で攻撃し気を引いている。奥の手も、用意してある。

「これでいいのよね、ソーヤ!」

「うん。——よそ見しないで」

 呼びかけるクリスに、叫び返す僕。——予兆が出ていた。

 舌打ちし、怒鳴った。


「避けてッ! 来る。——ブレスっ」

 ドラゴンの喉元が煌々と光っていた。……おそらく、魔力(エネルギー)が溜まっている。とてつもない量の、エネルギーが。

 ——さっき地獄を生み出したときも、そうだった。

 ドラゴンは大きく息を吸い込む。およそ三秒の猶予。固まりそうになるのをこらえ、必死に頭を働かせた。

 防御魔法。一、二、三四五——十。それを、二重にしたものを、観客席の校長とアリアたちの前に。そして大規模な防御——結界魔法を、ドラゴンの周りに。熱と魔法対策を忘れずに。そして。


「スミカさん、起きて——」


 瞬間、轟音が響いた。

 ……大丈夫、少しの毒も漏らしていない。熱は流石に溢れるが、観客席までは届いていないだろう。

 吐き散らした毒が自身にどのくらい効くのかは知らないが——ドラゴンのブレスはすぐに止まった。

 奴はゴフゴフと咳き込むような素振りをして——それから結界魔法にたいして、鉤爪を振りかざし——喉に細い閃光が突き刺さる。


「こうしてみると、意外と隙が大きいわね。——喉がガラ空きだ」


 黒髪ロングの女性は、柔和な笑みで——しかし、巨大な怪物を強く睨みつけていた。

 ——解毒魔法は作ろうとすれば作れる。しかし、目の前にもっと簡単な方法がある。

 シャルの異能。魔力のつながりを断ち、魔法を崩す能力。

 そして、魔法毒は魔力で組成された毒のようなものだ——と、学校の授業で耳にしたことがある。

 すなわち——魔法毒は、この異能で壊せる。

 何故シャルが『ドラゴンのブレスを食らっても立っていられた』のか。それが答えだ。

「ありがとう、皇女様。——やって頂戴」

「ええ、スミカ先生。——託されましたわ」


 より暴れ出す——否、もがき苦しみだすドラゴン。

 射抜かれたのは、逆鱗。一枚だけ逆さに生えた鱗。——ドラゴン最大の弱点と言われる部分。

 その僅かな部分は、いわばドラゴンにとっての魔力弁。口のような部分。常に開閉しなくてはならない部分であり——破壊されれば、魔力の交換ができなくなる。

 人間で例えると、呼吸ができなくなるようなものだ。当然、攻撃などままならないだろう。


 無我夢中で暴れ狂うドラゴン。その直下に、僕らはいた。

 その致死の尾が、僕らに襲いかかる。しかし……慌てることはなかった。


「ごめんなさい、苦しませてしまって」

 シャルは、目を細めて告げた。

 ドラゴンの尾は、止まることなく僕らの方に落ちていく。もう、止められない。

「せめて、安らかにお眠りなさい」

 彼女は祈るように、両手を握り——目を閉じた。


 瞬間、光が弾けた。

 尾の質量が僕らを押しつぶすことはなかった。なぜなら、衝突する瞬間、消し飛んだからだ。

 ——魔獣はいわば、魔力の塊だ。空中の魔力が何らかの核を中心として固まることで現れるとされている怪物。

 故に、魔力を分解するシャルは、存在そのものが致命的な一撃になりうる——いわば、天敵そのもの。

 ドラゴンが吠えた。瞬間、固まる。

 その顔は、観客席のアリアに向いていた。


「最強の魔獣が、か弱い少女一人にやられるなんて……なんというか皮肉ですね。——せいぜい、悪夢でも見ながら逝ってください」

 魅了魔法はアリアの十八番だ。体の操作権を一瞬でも奪い取ることで全身の筋肉を硬直させる——金縛りを起こすことすら、造作でもない。例え相手が、最強の魔獣であろうとも。

 硬直したのは一瞬。しかしてそれが、トドメだった。


 ドラゴンは、爆発的に消滅を始めた。

 地響きを立てながら地面に倒れ伏し、全身が崩れていく姿は、まるで燃え盛り灰になっていくようで。


「……燃えてる」

 アリアの横で、マーキュリーが呟くのが聞こえた。

 おそらく自分の身を守れないであろうアリアの護衛。ドラゴンの攻撃の余波からなんとかアリアを守りきってくれたおかげで、こうしてドラゴンが倒せたのだ。

 余談はさておき。

「終わった……のです?」

 呆然とするシャルに、「そう、みたい……」と答える僕。


 そこに、ぱちぱちぱちと一つの拍手が聞こえた。

「いやー、やったね。やってくれたねー」

 笑いながらこっちに歩いてくるのは、スミカさん。

 守ろうと前に立つ僕に「そんな身構えないでよ。もう何もするつもりもないから」と彼女は目を細める。

「まさか、コレ倒しちゃうなんてねー。やるかとは思ったけどまさか本当にやっちゃうとは思わなかったよ」

 言いながら、彼女は僕らの背後でごうごうと消えていくドラゴンの亡骸を眺めていた。

 ……いや、僕も本当に倒せるとは思わなかった。まだ半ば今の状況が信じられていない。

 口の端をピクピクさせながら苦笑いする僕に、スミカさんはその笑みを向けて。

「なんでそんな顔してるの? ——皇女様を見てみなさいよ」

 言われた通り、僕は横を向く。隣りに並び立つ少女の顔を見る。

 その顔は、とても晴れやかで、自信に満ちていて……諦めの影は、消え去っているように見えた。


「こりゃ、『一本取られた』わ」

 スミカさんは細めた目をさらに細めて、一呼吸おいて——告げた。


「おめでとう。——試験、合格よ」


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