#25 再来、ショッピングモール
「ふわぁー! すごいですわぁーっ!」
シャルが大声を上げた。
ここはしばらく前に訪れた商業区。巨大な通りに幾多もの専門店が並ぶ建物内には、とんでもない人数がひしめき合っていた。
「さすが夏休みですねぇ。学生がいっぱい来てます」
アリアの驚いたような言葉に、僕はため息をついた。
「ほら、さっさと買おうよ。——シャルの生活用品」
ここに来たのは、他でもないシャル——シャーロット皇女殿下のためだ。
彼女が学生寮で暮らすにあたって、最初にぶち当たった壁は生活用品不足だった。
来客用の布団なんてなかったので、毎晩誰かがシャルにベッドを貸して床で寝ている。
持参した洋服もすごい高級感を漂わせたドレスばっかりで、とても外に着ていけるようなものではなかった。いまは体型が近かったクリスや僕が私服を貸しているが、ちょっと大きめなようで少し不格好だ。
他にも歯ブラシや下着なんかも買い足しが必要だった。それに——。
「水着、買わなきゃいけませんし、ねっ!」
はしゃぐアリアに、僕はまたもため息をつく。
「……海、行くんだもんね。僕ら」
そう、海。
僕らは数日後、海に行くことを決めていた。
普通は出来ない大規模な魔法の実験。僕はそのつもりだが。
「普段の息抜き、大事だよねー」
海で遊ぶのも目的に含まれているらしい。
息をついた僕に、シャーロットは微笑んだ。
「お買い物、行きましょっ! お兄さまっ!」
「……お兄さまはやめて」
「じゃあ、にぃに? お兄ちゃん?」
「僕、一応外では女の子ってことになってるから……」
「ふふっ。わかりましたわ、ソーヤお姉さまっ」
「……それでお願い」
こうして、僕らはブティックに入る。
「かわいいー!」
「わかるっ! この白ワンピとか清楚系でめちゃかわだよねー!」
アリアとマーキュリーが盛り上がりつつ、シャルを着せ替え人形にしていた。
「これが、庶民のおしゃれですの!?」
大興奮のシャルに。
「ええ、そうよ! 庶民もやるでしょっ!」
何故か嬉しそうなクリス。よかったね。
ちなみにシャルはガーリーでフェミニンな感じがよく似合っていた。
買った服を着せたまま次に見に行ったのは。
「これが噂に聞く……フードコート……っ!」
目をキラキラさせて広い空間を見やるシャル。いい匂いが漂う。
「なに食べる?」
僕が尋ねると、シャルは「えーっと……」と周囲を見て。「あっ、あれ! なんですの!?」
指さしたのは——ハンバーガーショップ。
「学園創始者の地元が由来の、ジャンクフードって言われてるやつだ」
「どこの文化よ」
「えーっとね……たしか、異世界のとある大国だとか噂されてるよ?」
「……本当は?」
「ほんとだってぇ!」
というわけで。
「おいしいですわーっ!」
ハンバーガーにかぶりつくシャル。
たぶん皇族故に、今まで食べたことなかったのだろう。彼女は口元を緩め、無邪気に、かつ嬉しそうにハンバーガーにむしゃぶりついていた。
「すごく美味しそうに食べるの、かわいいですね……」
呟くアリアに、僕はこくこくと頷いた。
実際、この子は連日僕が作る昼の弁当をとっても美味しそうに食べてくれる。作り甲斐があってすごく嬉しい。
ポテトと飲み物がついた定食をぺろりと食べきって、僕らは歩き出す。
「ソーヤくん、さすが男の子だねぇ……。あのセットを一瞬で一気に食べきるなんて……」
「……マーキュリーの胃袋がちっちゃいだけだって」
ちっちゃいハンバーガー一個で物足りてしまうのが逆に羨ましい。エネルギーのコスパが良くて。
さて。
「つきましたー! 水着のショップです!」
アリアが笑う。僕は目を逸らした。
「……まだ恥ずかしいんだけど。こういうところ」
「恥ずかしがらないでくださいよぉ。——女の子なら、普通は恥ずかしがらないものですよ?」
耳打ちするアリアに、僕は頬を赤くする。
そう。ここは水着の専門店だ。
そのあとはめっちゃ試着させてもらったりした。
「クリスさんはフリルのセパレートなのが似合いますねぇ!」
「……ちょ、ガン見すんな! バカ!」
「あは、アリアちゃんはビキニがよく似合ってるね。おっぱいおっきいから……」
「うふふっ! ありがとうございますっ」
「そういうマーキュリーこそ、だいぶ大きいじゃない。その、下着みたいなのがよく似合ってるわよ」
「えへへ……。照れちゃうなぁ」
「ソーヤお姉さま……その、なんていうか」
「子供っぽいのはわかってるんだよ……。白いレオタードみたいなやつ……っ!」
「シャルちゃんはやっぱり可愛い系がよく似合うねぇ……」
「ふふっ。……たしかに着てみるとちょっと恥ずかしいですわね、水着って」
というわけで。
「買い物、楽しかったですわね!」
笑うシャルに、僕はうなづく。
嬉しそうで良かった。だいたい買うものは買ったし、これで明日からの勉強も頑張ってくれる……といいんだけど。
「じゃあ、帰ろうか」
そう言うと、彼女はコクリと頷いた。
で、翌日。
「……また商業区行きたいですわー!」
「だめだよシャル! 勉強してから! こら、逃げないでよっ! 待って! 待って——!」
授業がより大変になったのだった。
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