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オトメマジカル  作者: 沼米 さくら
1st Season 革命動乱編

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21/42

第21話 夏が始まった合図がした


 こうして、学園に平和が戻った。

「…………」

 キンコンカンコンとチャイムが鳴る。

 騒がしくなる教室。意味もないような会話に興じるクラスメイトの中、彼女は一人俯く。


「なんとか言いなさいよ、テロリスト」

「なんでこんな子がここに来れてるの?」

 ピンク髪の少女は、数人の女子に囲まれていた。

 囲んで棒で叩くように、アリアを取り囲む数人は暴言を吐いていた。

 机の上には落書きと花瓶。


 ——アリアが久々に登校した。そのニュースは、校内を騒がしくする。

 未遂に終わったものの、学校を壊そうとした彼女に向けられる視線は、あまりにも悲惨だった。

 侮蔑と軽蔑。当然、彼女は学校中の嫌われ者になっていた。


「あたしたちが構ってあげてるんだから、感謝しなさいよ」

 そう高圧的な態度で告げる女子に、アリアは何も言えず。

「何か言えよ、淫売の娘(サノバビッチ)ッ!」

 倒れた花瓶。アリアに水がかかる。

 顔をしかめた僕。けれど、何か行動を起こすような胆力もなくて……長く伸びた白い髪をハーフアップにした少女、マーキュリーと顔を見合わせるばかりだった。

 が、しかし。


 ダンッ、と机を鳴らす者がいた。

「あんたたち、いい加減にしなさいよ」

 長い金髪をなびかせアリアの前に立つのは——クリス。

「いい加減に? あたしはただ、トモダチとして構ってあげてるだけですけどぉ?」

 そう睨む女子を、しかしクリスは「ハァ?」と一蹴した。

「さっきの何処が、友達に対する態度なのよ。周りの子たちにも同じ態度で接しているわけ?」

「このテロリストを同じ態度で扱うわけないじゃんかよ」

「バーカ! ……それをいじめって言うのよ」

「チッ。ちょっと成績が良いからって調子に乗りやがって! ぶちのめして——」

 女子がクリスに手を構えた。が。

 瞬間、周囲に火花が散った。

 バチバチと、稲妻のようなものが周囲をちらつく。時々それがぶつかって、火花が散る。

 ——高濃度の魔力を高速で飛ばして、空気とぶつけて強い静電気を起こしている。要は雷を自力で起こして威嚇している。もちろん当たったら危険だ。

 アリアの机の周りから、怯えた女子たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「なんで、ですか?」

 アリアがクリスの着るカーディガンの裾を掴んで聞く。クリスは当然のように笑って告げた。

「友達を守るのは、当たり前のことでしょ」

 それは強さがあってのことじゃないのかなぁ。苦笑する僕を、彼女は手で呼んだ。


「もうすぐ夏休みだね」

 マーキュリーの言葉に、クリスは驚いたような顔をする。

「そういえばそうだったわね」

「いろいろあって忘れかけてたけどね」

 ……本当にいろいろあった。というかありすぎた。ここ数日で一年くらい経っていた気がするくらいには。

 入学から大体三ヶ月。そろそろ学園は夏期休暇——いわゆる夏休みというものに入る。

 誰か曰く、学園の創始者の故郷でやっていた慣例を取り入れたのだという。

「夏休みの『夏』ってなんなんでしょうかね」

「異世界ではこの時期のことをそう呼ぶらしいよ?」

「へぇ……」

 僕はもっと魔法を学びたいんだけどなぁ。閑話休題。

「夏休み、なにしよっか」

 マーキュリーの言葉に、アリアは「海行きたいです! 海っ!」と元気に手を上げる。

「急に元気になったわね」

「だって海ですよ! 海と言えば水着! おっぱい!」

「うっわぁ……」

「引かないでくださいよぉ!」

 涙目になったアリアの頭を撫でながら、マーキュリーは微笑む。

「ソーヤく……ちゃんは、どうしたい?」

「え、僕?」

「うん。きみ」

 ほとんど黙ってた僕。いきなり話を振られて少し戸惑う。

 じっと見つめられ、僕は苦笑いしつつ考える。

 魔法の実験? それとも図書館に入り浸って魔法学の本を読みあさるとか? 夢が広がるなぁ……。

「……せっかくの休みにやることがそれですか」

 アリアに白い目で見られて、僕はびくりとした。……耳鳴りが聞こえる。心を読まれてるっぽい。

「普段は出来ない魔法の試運転とかしたくない?」

「したい!」

 クリスが即答した。「ふたりとも、女子学生の自覚が足りませんよ」と唇を尖らせるアリア。マーキュリーは苦笑いして、言った。

「じゃあ、新しい魔法の実験のために海行くとか、どう?」

「それいいですねっ!」

 食いつくアリア。クリスもニヤッと笑った。

「決まりね」

「僕の意志は!?」

 戸惑う僕。三人は大きく笑った。


 そんなとき。

「ちょっといいかな?」

 後ろから声をかけてきたのは、子供のような体躯の先生だった。


    *


「ここって……」

 連れてこられたのは、校長室と書かれたデカい扉の前。

 こんこん、とそれを叩く先生。すると、その扉は小さな地響きを立てて開いた。

「すっご……」

 どうやって動いてんだろ、これ。

 感嘆して声を漏らす僕に、扉の奥の女は優しく微笑みかけた。

「あなたたちが、一年生の問題児たちね?」

 背筋がぞくりとした。あまりのプレッシャーと、魔力の圧に。

「貴女は——」

 大きな机。その横には、ヴィクトリアさんとスミカさんが控えていて。

 その机の上に、少女が座っていた。

 年の頃は、僕と大体同じか少し下くらい。小柄な背丈に、豪奢な白いドレス。琥珀色の目。ミルクティーのような色合いのつやつやした髪の頂点には。

「ティアラをつけている。……ということは」

 僕は息を呑んで、すぐさま跪き、(こうべ)を垂れた。マーキュリーも同じようにして。

「え、どういうこと!?」

 クリスは戸惑い、アリアは硬直する。

「とりあえずわたしを真似して。——この方は」

 マーキュリーの言葉を遮って、その少女は告げた。

「頭を上げよ」

 幼さの滲む声に、僕は顔を少し上げる。……少女は、笑っていて。

「ひとまず、落ち着きなさいな」

 机の後ろから、もう一人の人影。見覚えがあった。

 六十代ほどのご婦人。そのしわの刻まれた顔で笑う彼女は——この魔法学校の校長で。

「シャーロット、そう偉そうに振る舞うのはいい加減になさい」

「だってだって、ソフィーおばさまぁ」

「でももだってもありません」

 机から降りて地団駄を踏む、シャーロットと呼ばれた少女。ソフィー校長は、余裕そうに笑いながら僕たちに視線を向けた。

「で、あなたたちが一年生の中でも特に、何かと話題の四人組ね?」

「は、はぁ……」

 苦笑いする僕。「私たちってそんなに有名なの?」「さぁ……」クリスとアリアのひそひそ話を聞いてか、校長は口元を手で覆って上品に笑った。

「平民上がりの優等生に、吸血鬼の先祖返り。そして、ある名家の突然現れた娘。あと一人は、最近学園を危機にさらしたそうですね?」

「え、あっ……」

 全部心当たりがあった。

 冷や汗で少し寒い。深呼吸する僕に、校長は。

「あまり緊張なさらないでくださいな。——悪い話ではありませんから」

 そう言って笑う。

 何を言われるのだろうか。緊張で何も言えなくなった僕に、彼女は笑ったまま告げた。

「あなたたちには、奉仕活動をやっていただきます」

「え、なんでですか」

 口をついて出たのであろうクリスの言葉に、しかし校長は余裕そうな笑みを崩さず。

「あなたたちが、適任だからです」

 なんて言う。

 顔を見合わせる僕たちのもとに、さっきシャーロットと呼ばれていた少女がトコトコと近づいてきて——目を細めて、笑った。

「——おばさま。決めましたわっ」

 嫌な予感がした。その答え合わせは、直後のこと。


「あなたたち。わたしに魔法を教えて頂戴っ! ——第三皇女、シャーロット・アレスの命令ですわ!」

 少女が指を差して告げた言葉——否、命令に、僕は息を詰まらせた。

「……賑やかになりそうね」

 クリスの溢した呟き。僕は首を縦に振った。——夏休みは、僕らを休ませてはくれないようだった。


ファーストシーズン・完


 ひとまず完結……?

 面白かったら、ぜひ下の星マークやハートマークをクリックしてくださると作者が喜びます。ブックマークや感想もお待ちしております。


 セカンドシーズン、制作決定。


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