表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アザライの民の裔

作者: 瓶八

 魔術師アザライは、青き衣の一族に生まれた。

 一説には、奴隷に生ませた子であったと言われる。

 彼は働ける年頃になると、駱駝の糞を拾い、それに火をつける仕事を教わった。

 落ちたそばから干からびる糞は、大変軽く、よく燃えた。


 火は、茶を沸かすために使われた。

 沸かした茶に、男たちは入れられるだけの砂糖を入れた。

 彼らはその茶を回し飲み、過酷な旅の疲れを癒した。


 一族の男たちは、四百頭の駱駝を率いて、砂漠の南北を行き来した。

 三月かけて北へ奴隷を運び、三月かけて南へ岩塩を運んだ。

 灼熱の午後も、凍える夜明けも、男たちは茶を飲み、アザライは糞を拾った。


 歌うことも糞拾いの仕事だった。

 歌うのは駱駝のためだった。

 年寄りたちが言うように、駱駝は歌の良し悪しを判断した。

 良い歌に機嫌を良くし、悪い歌に体調を悪くした。

 老人たちは古い歌を、奴隷たちは異国の歌を、駱駝たちは歌い方をアザライに教えた。


 ある夜。

 火を抱いて歌を歌っていたアザライは、火を操るすべとして、偶然魔術を発見した。

 その不思議な力は、盗賊から財産を守り、大砂虫から人命を守った。

 彼は、何かあるごとに、隊商の中に、地位を得ていった。

 青き衣の一族は、たちまち、アザライの民と呼ばれた。

 アザライは、そのわざを正しく使った。

 またそのちからを子孫に伝えることに成功したので、アザライの民はよく栄えた。


 砂漠の民にとって族長とは、一族を守る武勇を持つ者を意味する。

 アザライに地位を譲った元族長の子ナデフは、掟に従い、砂漠を出た。

 彼は、地縁を頼るのを恥として、遠き国を求めた。

 新しい生活はうまくゆかず、神もナデフを助けなかった。

 彼の高貴な血は、奴隷の首輪をつけることを拒んだ。

 その結果、坂道を転がるように、ならず者に身を落としていった。

 食べるために罪を犯すことは、ナデフの良心を傷つけ、彼を日陰に縛りつけた。

 尊き出自を示す、父の形見の宝刀は、手下の盗人に持ち去られた。

 報復すれども、宝は帰ってこなかった。

 ナデフの死後、彼の子孫はナデフの境遇を語り伝えた。

 ナデフの宝刀と自称する彼らは、数代を経て、怒りをアザライとその民に向けた。

 薄暗い闇の中で恨みを確かめ合い、ついに彼らのやり方で復讐を果たした。


 二人の強大な王が、砂漠の塩鉱とアザライの民の秘術を求めた。

 二度の戦争と大きな犠牲の果てに、勝利した方が帝国を打ち立てた。

 アザライの民は殺し尽くされ、魔術だけが残された。

 帝国だけが魔術を持ち、帝国だけが富み栄えた。


 アザライの民の裔の最後の一人は姫で、従者の老婆を従えていた。

 暗殺者が、二人をいよいよ追い詰めた時、その従者は荷物から一振りの刀を取り出し地面に置いた。


 見事なり。ナデフの子らよ。

 これを持ちゆけ。

 これなるは、ナデフの宝刀。

 ナデフの忠臣が、ナデフより持ち去りしものなり。

 かの者はナデフの窮状を我々に伝えんとして盗みを働いたのだ。

 彼は主を救おうとしたが、掟がそれを叶えなかった。

 彼の名誉を我らは保証する。


 その者の名は、と暗殺者が問えば。

 ラムアダ、と従者は答えた。

 心臓が四つ打つ間、二人は見つめ合った。


 信じよう。


 暗殺者は、受け合って、剣を閃かせた。


 老婆はうなずいて、事切れた。

 美しい姫も老婆を抱いて死んだ。


 ラムアダ。

 二人を斬った男は刀を拾うと、そう呟いて、その場を去った。

 そこここに潜んでいた男たちが、何も言う事なく、それに続いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ