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古めかしい板で…金魚鉢は蓋をされた

作者: 黒楓

その日常は金魚鉢に置かれた蓋のように


視界を覆う…

クリスマスイヴの亡霊に、寝た子を起こされたのか、節句よりも長い周期の夫が突然、求めて来た。


「ちょっと! 和希が勉強してるのよ!」


「だからアイツには部屋をあてがってやってんじゃねえか」

言いながら夫は、私の髪をかき上げ、耳を噛む。


「夜食だって、出さなきゃ!」


「さっきチキンだのケーキだの、散々食べさせただろ!?」


「だから眠気覚ましも兼ねて、コーヒーとか出さなきゃいけないの」


小6の子にこんなにカフェインを摂らせて良いのかと正直思う。 しかし今は受験まであと1か月余りの正念場、それなのに…


腹立たしさが表に出ないよう夫を振り切り、寝室を出て夜食を用意し、和希の元へ向かう…


ノックをしても返事がない。


昔やったように、お盆を指で支えて、空いた右手でドアを開けると


和希が机の前に蹲って(うずくまって)いる。


「…寝てたの?」


和希は両手をひざ掛けの中に入れたまま、こちらを見上げ曖昧に頷く。


「いくら部屋が冷えるからって! 暖め過ぎて眠くなったら何にもならないでしょ! 今日はもう十分遊んだんだから! しっかりしなさい!! この瞬間に他の子は頑張っているのよ!!」


声を荒げるのは、この環境への八つ当たりだけでは無い。


この子はきっと、寝てはいなかった…


それは数日前、この子の下着に残された残骸…

思わず下着に顔をくっつけ、臭いまで確認してしまった私…

何となく、覚悟はしていたけれど…

まだ小6の!

しかもこんな大切な時期に!!…


それが私の語気に火を点けている。


さっきの夫の顔がダブる。


まだイヴイヴが休日だった頃


二人して青いビーチの楽園へ逃避行した。


高い天井に据えられたゆっくりと回る天井扇を眺めながら…


私はカレの優しい重みに、いっぱいの幸せを感じていた。


迂闊だった…


その逃避行の果てが…


義父母との同居になり…


そこから逃れても、安普請で深々と冷え込む社宅のこんな情景だなんて…


目の前に置かれた電卓と和希の学費、そして安住の地の為の頭金…今日のお昼も、実は暗澹たる気持ちに打ちのめされていた。


それなのに…


同じフレーズが口をつく。


出張帰りの夫の下着の間に滑り込まされていた謎解きのジクソーパズルは、お菓子でも薬でもない、真ん中に丸いふくらみを残したパッケージのかけら。


寝室に出しっぱなしになっている集合写真は夫の社員旅行の時の物…一番かわいい女子社員の顔を意味もなく睨むのも疲れた…


私と夫の物が積み置かれた寝室に戻ると、


夫は諦めてはいなかった。


押し倒されて、もどかしくパジャマのボタンを外され、()()()()をたくし上げられる。


「寒い!!」


私の言葉に、夫は唸りながらエアコンのリモコンを掴む。


反応の悪い古いエアコンがようやく動き出した頃には、私はまるで調理される前の、今朝の丸鶏。

冷え切ったカラダを、そのままオスの臭いのする冷たいボウルに入れられている…


私を扱う夫の()()はルーティンワーク。


しかし冷たいボウルには上下左右から聞き耳をたてられていて…


リア充を装う私は、夫のびちゃびちゃの舌使いに作り物の声をあげる…


エアコンからは吐き出されたホコリの臭い…


私はそれにも塗れて(まみれて)しまうのだろうか…


イヤだ!


私は、あの逃避行の時に着た水着をクローゼットの中に持っている。

着れないのではない。着ないだけなんだ。


だって今年の夏も、

パート先の従業員やお客達に、散々不躾に見られた。


今、このカラダに擦り付けられている、すっかりハリを失った肉体とは違う。


だから私は今、心に秘めた人を想う…


その人は、カサブランカの画の人…


私は夢想する…


その人の瞳はきっと

あのビーチの空を映した海の…優しく深いエメラルドたるブルー


その瞳を見つめて


優しく抱き、抱かれたい


あの人ならきっと


このオトコが『メロン』だとなじった

おなかの歴史も理解し

キスをしてくれる…


私の夢想は現実に溶けて


作りごとの声に色を差す


そして()()を…受け入れる


なのに


ジャリ!っとした顎が私の二の腕をかすめて


私は引き戻される。


それは、彼女にはない物だから…


そう、0時を過ぎた今はもう、クリスマス


彼女もきっと、誰かの腕の中で…


私のガラスの靴は

忘れ去られている


口から洩れる動物の喘ぎとは裏腹の涙が

私の頬を伝う。


「オレもイイ!!」

と、

唸り喋るオトコにそれ以上見られたくなくて


私は顔をそむけた。


そむけた視線の先は、


シミの拡がる古びた板の天井


!!


鮫皮おろしのような殺意が私の心の中に浮かび上がる


このオトコと


私自身への




。。。。。。。。。。。。。。。


イラストは本作品とは違う『こんな故郷の片隅で 終点とその後』の第9部分の“思い悩む”

冴ちゃんです。


イラスト①


挿絵(By みてみん)


イラスト②


挿絵(By みてみん)




①はお絵かきアプリで手を加えたもの


②はカメラで元画を撮影した物 面白い雰囲気で写ったのでUPしました。



コホン!


楓は夫を持っておりません。恋人も居ません。

まごうことない、リア充から100㎞離れた輩です(^^;)


しろかえでの淡い恋ごごろをエサに、リア充の輩へのヤキモチを書き表したのがこの作品です。


お陰でしろかえでは…膝を抱えたままずっと泣いています。


可哀想なことをしました…


なので、あえて

カノジョの描いた“思い悩む冴ちゃんのラフ画”をUPしました。


この本編のお話が流れる間だけは、こんな風な(もちろん可愛くはありませんが)“しろかえで”で居させてやって下さい<m(__)m>



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― 新着の感想 ―
[良い点] >高い天井に据えられたゆっくりと回る天井扇 バカンスの解放感を感じる天井と、現在の >シミの拡がる古びた板の天井 この対比があまりに鮮明で残酷で、主人公の昔からの「逃避行癖」と、また…
[良い点] >節句よりも長い周期 何が?(笑) っていうかこれ掴みバッチリですね(๑•̀ㅂ•́)و✧ 加えて小6息子も変なところから参加して、ああもう、なんだこれ。昔、母が、寝ている私を起こして「…
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