卒業パーティーで自称ヒロインが冤罪作ってハーレムエンド目指す事にちゃんと理由がある話
卒業パーティーのいつものアレ、皆様は不思議に思った事はありませんか?
自称ヒロインが悪役令嬢に階段から突き落とされたと嘘をつくアレです。
こんな嘘をついた時点でゲーム本編とズレが生じているのは誰にでもわかります。
それなのにこんな事をする転生ヒロイン達は何を考えているのか?
今作はそれへの答えの一つとして作りました。
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<事件の始まり>
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私は佐藤節子。乙女ゲーム開発に関わっている以外はどこにでもいる普通の会社員だ。ここ最近は新作ゲームの開発の為にずっと残業だったけど、ようやく製品版が完成した。
これでようやく休める、そう思った時テストプレイヤーの山田君が大慌てで走ってきた。嫌な予感しかしない。
「佐藤主任!バグ発見です!」
はい、残業確定。
「あーやっぱソレ?オーケー。で、どんなバグよ?」
「一定の条件を満たすと、フラグを全部無視してハーレムエンドになってしまいます!」
「何ソレ、超やばいじゃない。オーケー。それで、その条件って何なの?」
「それは皆で調査中なんでまだなんとも」
その後、私もバグ探しに参加し三時間経った頃にどうにかバグ発生の条件が見えてきた。
このゲームには『包帯』というアイテムがある。学園内の売店で購入できるこのアイテムは、普段は体力回復に使う消費アイテムなのだが、ハーレムルート終盤ヒロインが悪役令嬢によって階段から突き落とされた直後には包帯がアクセサリーとして装備される。
そして、今回見つかったバグの原因はこの包帯にあった。エンディング分岐点である卒業パーティーの日は包帯がアクセサリーとして装備可能になっていたのだ。ハーレムエンドのフラグは包帯を装備しているかどうかで判断され、さらにハーレムエンドは他エンドよりも優先度が高いので、メニュー画面を開き包帯を装備さえすればそれまでの状況を無視してハーレムエンドに突入するのだ。
「佐藤主任、手伝ってくれてありがとうございます。じゃあ、原因も分かったんで後はプログラマーさんにお願いして」
「待って」
バグの修整作業に移ろうとする山田君達を私は止める。
「え?何でです?もしかして、まだ他に問題が見つかったんですか?」
「そうじゃないわ。えっとね、思ったんだけど、このバグこのままにして発売できないかなって。勿論、部長やプログラマーさん達にも説明するから。オーケー?」
私がこのバグを残そうと思った理由、それはその方が絶対面白くなりそうだからだ。このバグを使えば最低ステータスのヒロインや攻略対象と初対面のヒロインがハーレムを率いたり、王子達が何の悪事も働いてない悪役令嬢を断罪したりという面白い絵面が出来上がるのだ。これは間違いなくバズる!私の説明を聞いた皆はすぐに意図を理解し、バグを残す方向で意見はまとまった。その後、上からもOKが出て無事(?)バグを残したままゲームは発売された。
それから数カ月後、ユーザーが包帯バグを発見し、数々のウルトラCハーレムエンド動画がネットに挙がった。これにより、このゲームだけでなく会社や私自身の知名度まで急上昇。完全に私の目論見通りである。
ただ、ヒロインが魅了の魔眼持ちだとか自作自演お花畑だとか腹の子は外で作ったとか友達ゼロ人令嬢とかの酷いあだ名がネット上に広まってしまったのは想定外。まあ、普通に本編をプレイする限りにおいてはちゃんとヒロインしているので問題ないだろう。
そう、こんなものゲーム発売直後に山田君がトラックに轢かれた事に比べたら些細な問題だ。
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<そして時は流れ世界も移り>
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「なんでぇーっ!私はヒロインなのに!ゲームの通りにやったのに何でこうなるのよ!こんなのバグよ!」
とある王国の卒業パーティーで珍事件が発生した。腕に包帯を巻いた男爵令嬢が公爵令嬢により階段から突き落とされたと訴え、その直後王太子に向かってハグしようとしたのだ。王太子はとっさに身をかわし男爵令嬢はその場に転倒。間もなくやってきた衛兵によって取り押さえられた。
その後、男爵令嬢を尋問したのだが返ってくるのは意味不明な言葉ばかり。
「王太子とは初対面、だけど私は彼の子を妊娠している。そういう事になるの」
「学校には入学式と卒業パーティー以外行ってない。行っても無駄だから。ずっと町で遊んでた」
「私はこの国を救った光の聖女の再来なのよ!一年生の時に騎士団長の息子と一緒に四天王を倒し、二年生の時に賢者様と一緒に邪神や魔王を倒したわ!全部嘘だけど、私が王妃になれば本当になるの!だからここから出しなさい!」
「私は貴方達よりもずーっとこの世の中を知ってるのよ。いえ、違うわね。私は神!この世界は私が生み出したと言っても過言ではないわ」
こんな風に訳のわからない事を繰り返していた。さらに恐ろしい事に、自白・嘘感知・洗脳解除等の魔術を使っても全く変化が無かった。つまり、彼女は完全に正気のまま上記の言葉を言っていたという事になる。完全に打つ手が無くなり尋問係が匙を投げかけた時、公爵令嬢がやって来て状況は一変した。
「残念だけど、この世界は貴女が思っている様なゲームの世界じゃないの。ここは旧版の発売から二十年後に発売されたリマスター版の世界。だから包帯バグは使えないのよ。オーケー?」
公爵令嬢がこう言った途端、男爵令嬢の顔は青ざめ震えだした。やがて、三年間を無駄にした後悔をブツブツと呟いた後、大量の涙を流し大声で謝罪した。
「迷惑かけてすみませんでしたぁぁぁぁ!!!ってかリマスター版出てたんですね主任!」
人人人人人
<感動の再会>
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「え…?や、山田君なの!?うわ、久しぶりー!!でも私生前の最終役職は専務だったから主任はやめてオーケー?」
「はいっ、主任!!」
男爵令嬢はわんわんと泣き続けた後笑い出した。公爵令嬢はうんうんと頷いていた。ぜんぜん状況が理解できない尋問係はどうでもいいから早く帰りたかった。
「いやー、トラックが突っ込んできて気がついたらゲームの世界でヒロインになってですねー、これは生死の境さまよってる最中だなって思い、早くクリアして帰らなきゃって考えてこんな事しちゃったんですよー」
「馬鹿ね、山田君即死だったのよ?君も私も異世界転生してるの。ちなみに、私は120歳まで生きたわ」
「マジですか!俺に帰る場所なんて無かったんですね!うわあ、これからどうしよっかなー」
「断罪失敗だから修道院エンドよ。でも安心して。山田君が普通に暮らせる様にしておくわ。オーケー?」
「オーケーです!主任のお手紙待ってます!」
その後、男爵令嬢は修道院に送られたが、以前とは打って変わって真面目に働くようになった。たまにラグがどうとか言うが、おかしな行動をする事もなく一生を終えた。
一方、令嬢二人の会話を横で聞いていた尋問係は生涯をかけて彼女達の会話の意味を考えていたが、答えを得る事は出来ず「なるほどわからん」と言い残し息を引き取った。
人人人人
<おしまい>
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最後まで読んでくれてありがとうございます。
以下は物語の補足。
・二人が死んだ時期が全く違うのに同じ時代に転生した訳
この世界を管理する神様は死人の魂を一旦ゴミ箱的な場所に置き、そのゴミ箱が一杯になったらリサイクル業者(転生女神)に纏めて引き取ってもらってました。
主人公達はゴミ箱に入った日は別ですが、同じゴミ回収日に出されたから同じ日にリサイクルされたのです。
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<人間の数十年は神様の数日>
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・佐藤主任は面白さ重視でバグを残していたのに、リマスター版でバグエンドを無くした理由。
リマスター版を作る際、佐藤さんはこう考えました。包帯バグは有名になってるから絶対皆やろうとする。それを逆手に取ったイベントを作れないかと。そうして出来たのが、『卒業パーティーの日に包帯を装備可能な所までは旧版のままだが、それを実行するとお粗末な冤罪で公爵令嬢を陥れようとした罪人として捕まる』という仕様です。そうです、本編でのやりとりは令嬢達の中身が発覚するまでは完全にゲーム通りの流れでした。
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<包帯エンド比較動画はミリオン再生>
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ではではまたいつか〜。