第8話
かなり端折って話を進めてきたので、ここいらでじっくり描写に変更します。
物語自体の展開は、のんびりになるかも。
夜なべして、そのまま朝になる。セリカちゃんが頑張っているのだ。俺なりにより完璧に近づけるのは当然ではないだろうか?
何かが足りないと、悶々とする日々を送っていたのだが、昨晩その原因に気付き徹夜で修正していたのだ。
下着姿のまま井戸水で顔を洗うセリカちゃん。
(これが現代日本ならば誘拐の事案発生間違いなし!!)
何故下着なのかと問い詰めれば、「だって朝ご飯食べたら出発の準備で鎧着るでしょ?」とのことだ。何と言う効率重視! 恥じらいのあるレディが至高なのだよ? このままオバちゃん化は許されることではないのだ。ブツブツと説教する俺に対して、「ハイハイ」と空返事をするセリカちゃん…。
セリカちゃんが、初の魔物討伐ということで、豪華な朝食がテーブルを彩る。石臼の削りかすが入っているようなパンではなく、街の貴族が食する不純物の少ない高級パン。恐らく生まれて初めて食べるであろう燻製のベーコン。5年に一度の誕生日にしかでない目玉焼き。騎士団のエレリックスから差し入れられた南国のバナナ。そして羊ではなく牛のミルク。
「並べてみると、やっぱり凄いね! 食べるのが勿体無いよ! いただきま〜す」
フォークで香ばしく焼けたベーコンを口の中に放り込み「美味しさのあまりほっぺたが痛い」と、両手で押さえる。そしてパンを千切りベーコンの入っているお口へ追加投入する。まるでリスが口いっぱいにどんぐりを頬張っているようだ。
両親もベーコンとパンを食べると「貴族様は、こんなお食事をしているのね」と感想を漏らす。
俺? 睡眠欲も、食欲も、性欲もない。いや、美少女好きは性欲なのか? 兎に角、三人がモグモグパクパクと食事をしていることろを、悔しいが見ているしか出来ない。
豪華な食事に満足したセリカちゃんは、後片付けも手伝わずに、ソファーと呼んで良いのかわからぬ布をかけた長椅子に、ぷっくりと膨らんだお腹を出して横になった。
「私…。お母さんに農婦にしかなれないって言われて怒ったでしょ? だから神様が罰を与えて、勇者にされてと思ってたけど、こんなに美味しい物を食べられるんだもん。罰じゃなかったかも」
俺をポンポンと叩きながら、笑顔で語るセリカちゃん。
(罰などではありません!! これは…俺のセカンドライフです!!)
「…もう、マナポ黙らないでよ、恥ずかしいでしょ」
「それよりも、セリカ、こっちへおいで。そろそろ鎧を身に着けないと」
父親に引っ張られ立ち上がる。皮の鎧を着せ、しっかりとベルトを固定していく。
「危なくなったら騎士様の後ろに隠れるんだよ?」
「はい」
「怖くなっても、目を瞑ってはいけないよ。余計に危ないからね」
「…はい」
ぐすんっ。と、堰を切ったように泣き出し父親に抱きつくセリカちゃん。やはり勇者で良かったというのは、強がりだったのかも。
そして、親子のスキンシップで笑顔を回復させたセリカちゃんは、「勇者、セリカ、行ってきます!!」と、騎士団が待つ玄関先へ出ていくのであった。