第6話
勇者フォームは、ピンクのモノキニ水着。つまり前からはワンピース、後ろからビキニに見えるハイブリッドな水着だ。しかし、「恥ずかしい!! もう死にたい!!」と泣き叫ぶので、不本意ながら胸と腰にフリルの付いた布? を一周させ露出を少なくした。そして、皮膚に密着しない形で、背中には大きな天使の翼が浮かんでいる。また足には白の夏用ロングブーツ。手には白のフィンガーレスのウェディンググローブ? を装備している。
(今は絶壁で幼児体型だが、今後の発展に期待しよう。まぁ、このままでも全然OKだけどね!)
「この勇者フォームは、体力と筋力を10倍にしてくれるんだよ。そして、物理攻撃、魔法攻撃、精神攻撃を全部カットして、剣術をLv10にするの!! でも、使用時間は10分…」
防御主体の戦闘フォームだ。どちらかと言えば、ぶっちゃけ衣服などただの飾りであり、恥じらうセリカちゃんを楽しむためのものである。
「あとね、気を付けて欲しいのが、10分になる前に、必ず自分でフォームを解いて欲しいの。じゃないと、変身の反動でフラフラになって動けなくなるよ」
「何で? 自動で解いてくれても良いのに…」
「だって、戦闘中に突然解除したら危ないでしょ? 10分経過しても、しばらくは勇者フォームは持続するけど、ガリガリと体力が削られていくから、気を付けてね」
これもほぼ無敵のセリカちゃんの戦闘にメリハリを付けるための仕様である。またフラフラして弱ったセリカちゃんも見てみたいではないか!?
変身アクションが完成に近付いたある日。街から離れた草原で、次の課題をセリカちゃんに言い渡す。
「それとね。セリカちゃんは、魔法が使えないから、魔法を詠唱すると、僕が代行して魔法を発動させることになるの。そのときの詠唱のセリフを覚えてね」
「盟約と契約に縛られし灼熱の下僕よ。顕現し抗う敵を焼き尽くせ。オーバー・フレイム!!」
「無理よ! それって…大人になりきれない子供が、本気で言うセリフよね…」
あーっ。この異世界にも中二病的なものがあるのか…。しかもこの異世界。魔法を直接発動できる人間はいないのだ。魔導具に魔力を注ぎ発動させるタイプか、精霊を呼び出し発動させるタイプの二種類のみだ。
「ちなみにこれは変身していなくても使えるからね」
(ムフフ。詠唱のセリフは、中二病系とファンシー系を用意しているのだ…。クックックッ)
「うん…」
「さぁ、何事も練習だよ!? あの岩に向って、魔法を放ってみて、やってみて、みて!」
「け、盟約と契約に縛られししゃ、いてっ!」
詠唱中に舌を噛むなんて、何という可愛さ。もう満点だな。ちなみに俺も、感情と魔素が勝手にリンクしないように修行中である。
物覚えが悪いセリカちゃんは、1時間後、ようやく魔法を発動させることに成功した。
ドゴーーーーンッ!! と大爆発を起こし、直径1kmの巨大クレーターを作り出した。
爆炎と振動には、少し離れた街でも観測できたため、街の騎士団が緊急出動する事態なったのだが、
「こ、こんな危険な魔法使えないよ!!」と泣き叫ぶセリカちゃんを納得させるのに精一杯な俺は、
何事かと騎士団に囲まれるまで、過ちに気が付かなかった。
「えっと…勇者の修行です…」
「は、はぁ…。し、しかしですね、そういう危険な練習は、騎士団に相談の上、山岳地帯でお願いします…」