第3話
勇者の誕生なのか、聖女の誕生なのか、神の代弁者なのか、街の人々も混乱する中、兎に角、誕生祭と銘打って出入りの禁止されたアルデンという比較的大きな街は、馬鹿騒ぎを続けていた。
寝る間もないぐらいに、神殿やら貴族様やらと引きずり回されていたセリカちゃんが、街を治めるカール・ヘイツ子爵から呼び出されたのは、洗練式の3日後のことである。
そして、子爵との謁見中に事件は起きた。
謁見用のドレスに着替えされられた美少女のセリカちゃんは、100点満点中160点という高得点をマークしているのだが、執務室から続く子爵専用の応接間でヘイツ子爵を待つ間に、チクチクと小言を家宰の小男に言われて、豪華な部屋の飾りを楽しむ余裕などなかった。
(あっ? セリカちゃんに文句あるなら…)
「待たせたな」
ヘイツ子爵は、穏やかだが何処か緊張した様子でソファーにどっしりと座ると、セリカちゃんにニコリと微笑みかけた。
家宰の小男は、セリカちゃんがヘイツ子爵に、立ち上がり挨拶もしないので怒り沸騰である。
「よい。怖がっているではないか、全員部屋の外で待機していなさい」
(やったぜ! 家宰、ざまぁ!! このまま嫌がらせが続いたら、子爵の城塞を半壊コースだったぜ)
「慣れないことをさせて、すまぬ。これからは、両親と話していると思ってくれれば良い。大事なのは礼儀作法ではなく、君自身のことなのだから」
「はい。ありがとうございます…」
拳を膝の上に置いて、置物の様に固まっていたセリカちゃんの様子を見たヘイツ子爵は、テーブルに置かれた、赤、青、白のベルのうち、青色のベルを鳴らす。すると部屋に、先程ドレスの着替えを指揮していた女性が入って来た。
「コルセットを緩めてあげなさい。気分が優れないようだ」
ヘイツ子爵の洞察力が、ずば抜けて高いのか、俺が間抜けなのか、セリカちゃんの体調変化に全く気が付かなかった。「ここで調整しなさい」と言い残し、ヘイツ子爵は席を外す。
改めて、席に付いた二人に、お茶とお菓子が運ばれてくる。いよいよ本題に入るヘイツ子爵。
「君は、創造神に選ばれた…ということで良いのかな?」
「は、はい…。理由はわかりません。再度、神父様に『鑑定水晶』に触れさせて頂き、職業が『勇者』であること、『創造神シンフォシアの代弁者』という加護が付与されていることを確認いたしました。私のような者が、神様に選ばれたことで、皆様にご迷惑をおかけしいると思うと…」
大変申し訳無さそうに、美しいルビーの瞳の目を閉じる。
「心配するな。で、その後、代行者様は、君に何かを言ってきたかい?」
「はい。こちらを…」
革の袋から、ゴツゴツとした魔石を取り出し、テーブルに山積みにした。
「こ、これは!?」
「確か、古竜の魔石と同等の価値があるとか…。契約魔法の触媒代の足しにして欲しいと言っておりました」
「実にありがたい。詳しい価値は鑑定しないとわからぬが、恐らく触媒代以上の価値があるだろう」
白色のベルを鳴らす。青色よりも高く透き通った音だ。今度は、あの家宰が入って来た。