第2話
神殿へ連なる列に並ぶこと30分。いよいよ神殿前に設置された洗礼式用の特別ステージに、セリカが立つ。セリカは緊張と興奮を隠しながら、神父の説明を聞き、両手を『鑑定水晶』に乗せた。
(よし! ハッキングだぜ!!)
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・名前:セリカ(人間・女性7歳)
・職業:農婦(Lv1/10)、スキルポイント:0
・体力:13 ・筋力:11 ・魔力:7
・習得:農作Lv1
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(恐らく最低に近いステータス値だろうが、全く問題なし。ここからが魔素である俺の腕の見せ所であろう)
「神父様、ありがとうございました…」
ペコリとお辞儀したセリカは、先に洗練式を終えた友達を見つけ走り出した。少女同士が抱き合い涙する姿は、ご褒美以外のなにものでもない。同じく親の職業を受け継いで少し沈んでいる友達と共感できたのか、吹っ切れた様子のセリカちゃんは、友達と別れ母親の元にまた走り出す。
そんな幼気な姿に、つい興奮してしまったのが間違いの始まりだ。
感情が…魔素にリンクすると、空気中の魔素がキラキラと輝き出した!? しかも輝く魔素を、よりはっきりと強く表現させるように街の全体が暗闇に包まれる。
広場にいた親子も、家の中にいた老人も、商談中の商人と客も…驚き、家の窓や開いたドアから差し込む神々しい光りに導かれるように…ある一点を見つめる。
遠くにいた住民も、天からキラキラした光の粒子が、神殿前の広場に降り注ぐのを目撃し、広場にいた人々は、神々しいキラキラした光の粒子が降り注ぐ少女に注目していた。
そう、神殿前の広場にいた全員が、光の祝福を受けるセリカちゃんの目撃者になったのだ。
(あれ? 暴走した? どうしよう…やべぇかも??)
「おおっ! 数百年前に一度あったという聖女の誕生のアレか!?」
「いやいや、聖女なら…洗礼式が終わっても神殿に残るだろ?」
「おい、見ろよ、あの子、体中が光ってるぞ!?」
「やっぱり、どう考えても聖女だろ?」
「あの子は誰の娘だ?」
「俺知ってるぞ!!」
セリカちゃんは驚き、集まってくる人から逃げようとするが、周囲を囲まれて逃げるに逃げられない。
「お。お母さん!! どこ!?」
必死に叫ぶセリカちゃんを助けるべく、俺は魔素をかき集め、野球ボール程度の大きさの光源となり、セリカちゃんの頭上、遥か上空に現れる。
『心して聞くがよい。私は、この世から秘匿された神、創造神シンフォシア様の神使であり、神の代行者として、この地上に使わされた者である。
セリカよ。お前は創造神シンフォシア様に選ばれた存在である。今より、セリカ・シンフォシアを名乗ることを許す。
そして、14となるとき、東の大陸へ旅立つのだ。
言い忘れたが…。このことは決して街の外に漏らしてはならぬ。街の民にはセリカへの支援のため教えたに過ぎぬ。
このことが悪に連なる者に知れれば、まだ幼く弱い勇者は失われ、世界の希望は尽きるものと知れ…』
静かで厳かに語る声は、周囲の魔素とリンクして街中に響く。そして、大サービスとばかりに、セリカちゃんを中心として作った光の柱を空高くまで放ち、魔素である俺が消えると同時に、暗闇も消え去り青空が広がる。
ちなみに、こんな感じでステータスを変えてみた。身体的な体力・筋力・魔力は変えられなかったが、職業やスキルは変更できた。でも、剣術も光の精霊も…本人の実力的に見合わないスキルであり、使い熟せるか心配である。
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・名前:セリカ・シンフォシア(人間・女性7歳)
・職業:勇者(Lv1/999)、スキルポイント:0
・体力:13 ・筋力:11 ・魔力:7
・習得:剣術Lv1、光の精霊Lv1
・加護:創造神シンフォシアの代弁者
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セリカちゃんは、大慌てで飛び出してきた神父に手を引っ張られ、再び『鑑定水晶』で、ステータスを調べられた。そして、母親が神父に呼び出されると、自分の娘がどれほどの奇跡を起こしたのかを熱く語られ、信徒に呼び出された父親も絶叫した。
そして、街は、降って湧いた勇者の誕生に、大騒ぎとなるのだ。
しかし、代行者の言葉に従い、勇者隠蔽を図るべく情報統制のため、街の民2万8千人に口止めの契約魔法をかけるはめになったアルデンの経済的損失は大きく、財政を立て直すためには増税を検討するが、セリカ・シンフォシアと子爵の謁見により、問題は解消されるのだった。