第16話
「これは、最終防衛用のゴーガイル!?」後を追ってきたエレリックスは、襲ってくる魔物の正体にいち早く気付いた。
このゴーガイルは、城塞の壁に飾られた高さ3mほどの石像だが、ヘイツ子爵の命令があれば起動し、敵を駆逐するのだ。その強さは1体で騎士10騎とも言われている。しかし、ヘイツ子爵が自分の娘を襲うはずがない…。一体誰が!?
「エレリックス隊長! レイナをお守りください!!」
変身用ステッキの先端にあるハート部分から、光の剣身を伸ばし武器にしたセリカは、上空から強襲するガーゴイルに向けてひと振りすると、究極と言われる剣術Lv10だから成し得る斬撃を飛ばす…正確には衝撃波をゴーガイルに叩きつけた。
元々石像であるゴーガイルは、空中でバラバラになり砕け散った。残り60体以上いるゴーガイルの群れに、唯一の魔法を放つ。
(お願い!! マナポ!! マナポがいないけど…成功して!!)
「盟約と契約に縛られし灼熱の下僕よ。顕現し抗う敵を焼き尽くせ。オーバー・フレイム!!」
マナポがいるときの半分程度の威力だが、セリカの魔力を考えれば、7体も倒せたのだ…。十分な程の威力だろう。
「セリカ!? 君は魔法まで!? しかも…何という威力なんだ!!」
エレリックスは驚いているが、一発で打ち止めになる少ない魔力にセリカの表情は硬かった。
騒ぎを聞きつけた城塞の騎士団たちが駆け付けてきた。運が良いことに、騎士団の第一部隊がフルメンバーで屋上に駆け付け、レイラとセリカを守るように陣取った。
「エレリックスは中に入れ。そして、ヘイツ様にゴーガイルを停止させてくれ!!」
第一部隊隊長フィレスト・ヘルガーハは、稲妻の魔剣を抜きゴーガイルと退治しながら、撤退するように指示してきた。この男は…間違いなく味方だろうと、エレリックスは微笑み、場を任せた。
「行くぞ!! レイラ、セリカ。早くゴーガイルを止めなければ、街にも被害が出る」
「エレリックス隊長とレイナは行ってください。私は、ここでゴーガイルを止めます!!」
セリカは、10m以上も跳躍すると、光の剣を数度振り払い、8体のゴーガイルを粉砕した。
それを見た騎士団たちは「おぉぉぉっ!! 流石は勇者!!」と興奮し、士気も上がった。しかし、残念ながら強力なゴーガイルに押され、騎士団は劣勢になる。それでもセリカは、必死に立ち向かった。
(もう…残り時間がない…)
いや、実際には変身時間のリミットである10分を過ぎていたのだ…。突如、セリカの変身が解け、倒れるところを真横で戦っていたヘルガーハに抱きかかえられる。撤退するにも出口がゴーガイルに防がれ、自力で歩けない仲間が多すぎる。しかし、突破するしか…道はない!!
「撤退だ!! 一旦、城塞の中に入れ!! 怪我人は…」
見捨てろ…。そう言いかけた時、ゴーガイルたちは…停止し…ただの石像に戻った。
「やってくれたか…。エレリックス…」