第10話
「マ、マナポ嫌よ。絶対に嫌!! こんなに人が見てる前で、あんな姿になれるわけないじゃない!!」
盗賊団から身を隠していた商人たちも騎士団が戦い始めると、街道に舞い戻ってきて戦いを見物していた。そのため、最も安全と思われる騎士団長の周囲には、特に人だかりが出来ていたのである。
「セリカちゃん。我儘を言わないの! 皆が困ってるでしょ!」
一応、勇者としての自覚に芽生えつつあるセリカちゃんは、強く言われると拒否できないのだ。
「うっ。マナポの馬鹿…」
半泣きのセリカちゃんが、腰から変身用のステッキを取り出し、天に掲げる。
すると今までと違って、変身のリズムに合わせて、テケテケテ・テ・テ・テン♪ テケテケテ・テ・テ・テン♪ と、小馬鹿にしたような明るく弾ける電子音が鳴り響く。
さらに回転やジャンプ、ウィンクに合わせ効果音と、光り輝くエフェクトが追加されていたのだ。
(ふふふっ。どうだ? これぞ変身の真髄だ!! 夜なべした甲斐があったぜ!!)
だが、流石はセリカちゃん。追加されたミュージックや追加音に惑わされることもなく、完璧に変身アクションをこなしていた。
ぽか〜んと、騎士団も商人たちも旅人も、驚きを通り越して呆れていた。誰が、このチンチクリンな少女を、神に選ばれし勇者だと思うのか? いや、誰も思わないだろう…。
そして、皮の鎧の少女は、多少エロチズムな衣装に変わったのである。
「これは…大道芸か、マジックショーですかな?」周囲の無言に耐えきれず、年老いた商人が尋ねた。
「なんたる破廉恥。いや、しかし、あるいは…」
「この子は、例の…モグモグモグ…」と口止めの契約魔法により話せない者もいた。
エレリックス隊長は、人払いをすると、セリカちゃんを街道から少し離れた場所に移動させた。
「エレリックス隊長。現在セリカちゃんは最強モードなので、魔神が来ようが火龍が来ようが問題ナッシングです!!」と俺は告げる。
「だ、代行者様が言うのであれば…。よし、護衛4名は、引き続きここでセリカ様を護衛だ」
(ふっ。背信者め!! 勇者モードのセリカちゃんの性能に恐れ戦くが良い!!)
エレリックス隊長が商人たちと合流して、護衛達のセリカちゃんに対する意識が薄れた頃を狙って、護衛の一人がこっそりと抜く。
その護衛の体に纏わり付くのは闇の魔力。身体強化やバーサーク化のバフがかかり、騎士は変貌を遂げる。
そして、護衛達に気付かれぬようにセリカちゃんの背後に周り、セリカちゃんの首に剣を叩きつけた!!
ガキィィィン!! と、騎士の剣は弾かれる!?
驚愕する暗殺者の騎士とセリカちゃん。周囲の騎士たちは、咄嗟に…剣を抜いている騎士が暗殺者だと判断し、セリカちゃんの前に体を入れ割って入り、セリカちゃんを背に守りの体勢に入る。
しかし、人外な力を得ている騎士のひと振りによって、三人まとめて斬り伏せせられてしまった。
街道からセリカちゃんを眺めていたロリコン共の商人や旅人は、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、遠く離れたエレリックス隊長も、セリカちゃんの異変に気が付く。
牽制するように暗殺者の騎士の目の前を飛び、セリカちゃんに指示を出す。
「セリカちゃん、ステッキを剣に変えて、戦うんだ。商人や旅人を守れるのは、セリカちゃんしかいないよ!!」
(まぁ、嘘なんだけどね。だって、狙われているのはセリカちゃんだし…)
セリカちゃんは、コクリと頷き緊張した様子で、変身用ステッキの先端にあるハート部分から、光の剣身を伸ばし武器にすると、両手で構えた。
俺は暗殺者の視界を遮るように、強く発行し更に激しく飛び回った。
光の剣を上段に構え、「てい!!」と、ジャンプしたセリカちゃんから振り下ろされる渾身の一撃が、人外の力を持つ暗殺者の騎士に襲いかかる!!
しかし、迎え撃つ人外の力を持つ暗殺者の騎士は、笑いながらセリカちゃんの光の剣を、片手握る剣で防ごうとする。
が、剣ごと体を真っ二つに切られ、暗殺者の騎士は一撃で沈んだ…。