第9話
セリカちゃんが玄関を開けると、20名余の白銀の鎧の騎士たちが左右に剣を掲げて並び、剣でトンネルが出来ていた。セリカちゃんは、驚きながらもトンネルをくぐり、跪いて待つ第三部隊隊長エレフェンス・エレリックスのもとにたどり着く。
「セリカ・シンフォシア様。お待ちしておりました。只今よりゴブリン討伐に向け、ブラッドウッド大森林へ出発いたします」
エレリックスは立ち上がり、白馬に乗馬すると、セリカちゃんに手を差し伸べる。その手をセリカちゃんが、しっかりと掴むと、ヒョイッとエレリックスの前に座らされた。
当たり前だが、セリカちゃんは、乗馬など出来ないのだ。
二人の騎士を先行させると、エレリックスの白馬が駆け出した。セリカちゃんは、上下する馬の振動に驚くが、楽しそうに笑っていた。
「セリカ様。乗馬中は舌を噛みますので、何かあれば軽く手で合図してください」
セリカちゃんはコクリと頷く。かなりの速度が出ている騎士団一行の背後には、既に街が小さく地平線の奥へ消えかけていた。
俺は念の為に魔素をリンクさせると、魔物や盗賊などセリカちゃんに害をなしそうな不届き者をリストアップしていく。
移動は順調で、街の外の草原を横断するよう整備された綺麗な街道を行く。天気は良好。このままセリカちゃんと、ピクニックしたい気分だ。街道を先行する二人の騎士は、行き来する商人や旅人に、騎士団が通ることを告げ、街道の端に避けるように警告していた。
(騎士団って、えげつねぇな…。だが、そろそろ騎士団も盗賊団に気が付く頃か…)
案の定、先行していた二人の騎士が、エレリックスの白馬まで下がってきた。
「エレリックス隊長。600m先に盗賊団に襲われている商人たちがいます」
「よし、護衛の騎士4名を残し、全員突撃しろ!!」
エレリックス隊長が剣を抜き、指示を与えると、怒涛の如く騎馬隊は速度を更に上げ、盗賊団を強襲する。エレリックス隊長と護衛の4名は、この場に残り盗賊団が討伐されるのを待つ。
セリカちゃんは、不安そうにエレリックス隊長の小手をギュッと掴む。
「大丈夫ですよ。セリカ様。騎士団の強さをとくとご覧ください」
エレリックス隊長の目線が、戦場となる商人たちの馬車に向くと、セリカちゃんもつられて見る。
(盗賊団vs騎士団なんて、本気のファンタジーじゃないか! 魔法もすげーと思ったけど、こっちは迫力が違うな)
しかし、騎士団が盗賊たちを斬り伏せるのを見て、セリカちゃんは目を逸らした。その後、劣勢の盗賊団は、降伏するが問答無用で騎士団に殲滅された。
「エレリックス隊長。商人と共に、アルビエール男爵の子息エデルフェン様がいらっしゃいまして、お礼を言いたいと申しておりますが…」
「ふむ。セリカ様の護衛中なのに、正直言って面倒だな」
「しかし…」
(なるほど。商人たちの周囲には、盗賊たちのスプラッターな遺体が散乱しているから、セリカちゃんに見せたくないのか。気遣いの出来る男、それがエレリックス隊長!!)
「セリカちゃんが、勇者フォームを使えば問題ない」
俺の声に、セリカちゃんがギョッとした顔になったのは言うまでもない。