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第3話 この世界のこと

「みーなさん!これからアヤ名物のシャボン飛行やっちゃいます!」


 そう言った直後、今度は風船ではなくアヤ本人がゆっくりと浮かんでいた。

 高度はどんどんと上がっていき、気づけば、先ほどのシャボン玉のようなものの横にいた。


「はーい、到着しました!それじゃあ、早速私の得意なシャボン飛行をしたいと思いまーす...て、言いたんですけど、実は舞台はまだ完成していないんですよ!はい、そうです、舞台を完成させるために、みなさんの力を分けてもらいたいんです!そのためにみなさん、どうかこのシャボンに魔力を注いでください」


 アヤがそう言うと、ファンは待っていたかのように即座に手を挙げ、あのシャボンと呼ばれた球に手を向けていた。

 もちろん、隣の女の子もノリノリで同じことをしている。


 アヤの言い方。ファンの手を挙げる姿。

 元気玉かよ。

 思わず心の中で突っ込んでしまった。


 しばらくすると、さっきまで停止していたシャボンが、小刻みに振動し、表面が輝き始めた。

 徐々にその振動は大きくなっていき、今では空を縦横無尽に駆けまわっている。

 その動きは、規則性がなくランダムに進んでおり、速度は人が歩くくらいのものだ。


 風景に合わせてキラキラと光りながら空中を動いているシャボンの姿は、昼にも関わらず、山の中で見た美しい夜景を想起させる。


「でっは、いっきますよ!」


 この美しい光景に似合うような綺麗な声でアヤはそう言う。

 はっとし、シャボンからアヤのいる方向に目線を移した瞬間、アヤは消えていた...


 バン、バッン、バン、バン


 同時に上空からは謎の音が鳴り響き始めた。

 そして、シャボンは先ほどと比べ、まるで何かにぶつかっているかのように空中大きく動き始めた。


 何が起きているのか理解できない。

 いや、本当は何をしているか推測はつくが、それが実現できるとは到底考えられなかった。


 アヤが消え、先ほど違って球が激しく動いている。


 つまり


 あの空に浮いてる球を蹴りながら、高速に移動している


 そう推測できる。


 だけど、ありえない。

 そう大きな声で叫びたい。

 もしこれが事実なら、不規則な動きをしている球を、文字通り目にも留まらない速さで触っているんだぞ。

 そんなの人間業じゃない。

 しかも、超人コンテストに出ているような人間ならまだしも、これをやっているのはただのアイドルだぞ。

 この世界ではこれがデフォルトなのか...


「__やっぱ、フォロワー100万越えの人間はすごいよね!」


 自分のあまりに驚愕している顔を見たからかわからないが、隣の女の子が急に奇妙なことを言い出した。


 フォロワー?

 彼女は突然何を言い出したんだ。

 明らかに今言うような台詞ではない。

 何故急にフォローワーなんて言葉を言い出したんだ。


「えっと...なんでフォロワーが100万超えてるとすごいの?」


「えっ、何いってるのお兄さん。そんなの当たり前じゃん。」


 冷たい返事をもらってしまった。


 その後も上空で大きな音は鳴り続き、ポンと言う音を鳴らしながら、一つ、また、一つとシャボンの数が減理だした。

 そして、最後のシャボンが消え、突然ドカンと言う物凄い音ともにアヤはステージの上に立っていた。

 目では何をしているのかが見えなかったが恐らく、蹴って戻ってきたんだろう。


「はーい!見てくれて、ありがとうございました!みなさんどうでした?楽しめましたか?」

 少し苦しそうな顔をしながらアヤはそう言う。


(楽しめはしなかったな...何もわからなかったから。)


「それでは、ライブの続き...といきたいんですけど、次の準備のためにちょっと着替える必要があるので待ってください♪」


 そう言うと、彼女はそのままステージの脇に走り、消えていった。


 次のライブの衣装といっていたが、全身汗まみれだったので、それもあって着替えにいったのだろう。

 こう思うのは少々デリカシーに欠けるが。


「そう言えば、お兄さん名前なんていうの?」


 アヤがいなくなり、気が抜けていたところに横の女の子からの突然質問だった。


「___俺の名前、えと、タムだよ。」


 あまりに思いがけないタイミングだったので、思わずSNSで使っていたユーザーネームを名乗ってしまった。


「タムさんか!へへ、私はミライって言うんだ!よろしくね!」


「..ミライちゃんね。よろしく。それで、さっきの言葉ってどう言う意味?」


「さっきのって...フォロワーの話のこと?タムさんそれ本気で言ってんの?」


「うん、本気だよ」


(この世界ではフォロワーがそんなに大事なのか?)

 ミライハはまるで異星人を見るかのように奇妙な目でこちらを見ている。


「えっと、とりあえず、タムさんのフォロワー何人かちょっと見せてくれない。」


 彼女は、そう言うと自分の腕を突然触ってきた。

 そして、その時にある一つのことに気づいた。


 腕にリングのようなものが付いているのだ。

 しかも、そのリングにはいくつかのボタンがあるらしく、ミライは一つのボタンを押した。

 すると、スクリーンのようなものが目の前に現れそこには大きくこう書いてあった。


 -------------------------------------

 フォロー数:0

 フォロワー数:0

 -------------------------------------


 ミライはそれを見ると大きく口を開けてぽかんとしている。

 まるでさっき俺がアヤのシャボン飛行を見たのと同じような顔だ。


「えええええええ、フォロワー数0ってどう言うこと????」


 彼女はアヤの歌声にも負けないくらい大きな声でそう叫んだ。


「タムさんこれまでどうやって生きてきたの?」


 よほどこの事実に驚いたのか、少女の呼吸は激しくなっている。


「................」

 ただただ沈黙の時間が流れる。

 この質問に俺が応えない、いやむしろ、応えられないかったためそのような状況になっている。


 もし、ここで自分は異世界から来たといってもこの子に信じてもらえるのだろうか。

 仮に信じられたとしても、この子が周りに言いふらすなどして、変に目立つかもしれない。

 酷い場合だったら、腫れ物扱いされ、差別されたり、牢屋に入れられたりする可能性もある。

 それに信じられずに頭おかしい扱いやつと認定されたなら、それはそれで精神的にくるものがある。


 そう考えると、本当のことを言うのを躊躇う。


 そうして時間が過ぎていくうちに、ミライは痺れを切らしたのか、


「ねえ、タムさん教えてよ??」


 再度同じ質問を投げかける。


 仕方ない、自分は遂に諦めた。

 そして、


「実は何もわからないんだ。最近記憶を失ってしまって...」


 記憶喪失と嘘を言うことにした。


「ええええ、そうだったんだ!?ごめんねわかんないのに質問しちゃって...」


 女の子が反省した様子でこちらを見つめる。

 そんな顔をされるとこっちの方が申し訳ない気持ちになってしまう。


「それじゃあ、タムさんフォロワーの重要性がわかんないよね」


「うん、そうなんだよ。だからそれについて教えてくれないかな。」


「いいよ!」


 爽やかな笑顔でそう返答してくれる。


「えっとね、簡単に言えば


 キャー、ワー


 突然、周りから大きな歓声が上がり始めた。

 ステージを見るとアヤが戻ってきていた。


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