リュウとの再会
「リュウ!」
3人の言葉が示し合わせたように揃った。当然3人にはユウの姿が見えないから、リュウが一人でボートに乗っているように見える。リュウは長い棒で水の深さを確認しながら、こちらへ向かってくる。突然の再会にはにかみながら、リュウとケンのボートはだんだんと距離を短くしていき、ついに船首が触れる位置まで来たとき、リュウがこちらのボートに乗り込んだ。
「リュウ、あなたどこへ行っていたのよ」
マナが生徒を叱る先生のように言ったので、リュウは照れたように笑った。
「勝手な行動をとって悪かったよ。こっちもいろいろ収穫があったぞ」
リュウはケンたちと別れてからの出来事を話し、ユウを紹介した。ビー玉に入った魚姿がユウだとは当初は誰も信じなかったが、ユウが饒舌に話すので、信じない訳にもいかなかった。
「近くにいると、普通に会話ができるのに、私たちが住んでいる世界では、紙を持った人としか通じ合えないなんて、不便ね」
「拾われた相手がトモというのが運の尽きだったな」
自分の家にあったビー玉の正体がユウだったことにもっと早く気づいておけば、ヒロを救えたのではないかと後悔して、ユウに謝った。
「それはあんたでなくても、気づくのは無理だったぜ。それにしてもあんたの弟、俺をお湯に入れたり、水槽に入れたり、やりたい放題だよ。お陰で俺は魚嫌いになった」
ユウは狭いビー玉の中、大きな動きをして自分の悲惨さを語っていた。当初は申し訳なく聞いていたケンも、途中からおかしくなり、拾われた相手が自分の弟で、真夜中に訪れたリュウをよくぞ家に招き入れたと、トモを褒めてやりたい気持ちになったのだ。
「という訳で俺たちはタクシー運転手と一緒だったのだけれど、あいつ、自分が誰なのかがわからないから、手掛かりを探しに家の近くへ行ってしまった。俺はこの姿を何とかしてもらいたくて、とりあえず湖の番人であるじさんの元へ向かっていた、という訳さ」
ユウが発した「じいさん」の言葉で、じいじが危険な状態になっているかもしれないということを思い出した。
「大変だ、とりあえず戻らなくては」
自分の発言にケンは自分で驚いた。リュウに会うまでは、じいじが危険なら自分たちも同じ目に遭うのでは、と危惧していたからだ。しかしリュウとユウという仲間を得て、気持ちが大きくなったのか、勝てる気がしたのか、じいじの元へ戻るという選択肢しかなかったことを再確認したのだ。
「じいさんに何かあったら、俺はずっとこのままかもしれない。それは困る、行くぞ!」
ユウの掛け声と共に、リンリンとロンロンがボートを押し、先ほどとは比べ物にならないくらいのスピードで引き返した。湖に向かう間にも、ユウは自分が何回もリュウと逸れ、その度に再会できたことを語っていた。
「という訳で、今までは地上だったからよかったものの、こんな水の中に落ちたら、ひとたまりもない。俺はもう水中はこりごりだ。どこかに安全な場所はないかな」
「仕方がないだろ、入れ物がないのだから」
リュウがぶっきらぼうに言うと、マナはポケットのネックレスを取り出した。じいじからもらったネックレスは、先が入れ物のようになっており、いつもミノを隠していたネックレスだった。
「よかったらここに入る?ここなら落ちる心配もないし。ちょうどいい大きさよ」
「それはいい。ここなら安全だし、女の子なら頭にきて俺を投げつけるなんてことはしないだろう」
ユウは喜んでネックレスの中に入ると、蓋を少しだけ開けて辺りを見回していた。やっと落ち着ける場所を得た安心感で喜んでいたが、ユウの軽い嫌味にリュウは無視をしていた。リンリンの立派なネックレスと比較してからは隠していたが、今となってはどちらが豪華など関係なく、それよりも誰かの役に立つほうが、マナには嬉しかったのだ。




