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監獄館からの脱出

 脱出用の窓は、以前よりも小さくなっているような気がした。少し前は体を乗り出せる位の大きさだったはずなのに、目の前にある窓は、顔がやっと出るくらいの大きさだ。リュウは窓に顔を突っ込んでみたが、やはり窓枠に阻まれ、それ以上は頭が圧迫されるだけで、前に進もうという気にはならないし、進みようもない。しかも地面までが遠く、階は変わらないはずなのに、明らかに高い場所にいる。

「なぜだ!これでは出られない」

 リュウは苛立ちを抑えきれず、壁を叩いた。姿の見えない恐怖に駆られ、一刻も早く、この建物から出たいのだ。リュウは絶望感と共に窓から離れた。窓というよりは岩窟にできた穴、といった方がより正確だが、その穴が段々と小さくなっていくように見える。

 遠近感も薄れ、もはや自分が遠ざかっているのか、穴が小さくなっているのもわからない。もしかするとこれは元々、小さな穴だったのかもしれない。自分が変に期待して窓だと勘違いしていただけで、糠喜びをしていたのだ。そう思うと絶望感と共に、妙な安心感も出てきて、自分が捉えられた動物で、その穴が生存を確保するだけの空気孔にも思えた。そうか俺は結局、ここに居ることになっているのだ。生きるために少しだけ、錯覚を見せてくれたのだ。そこにも感謝しなければならないな・・・。

「リュウ!俺を握って前へ進め!」

 ユウが足元で叫んだので、リュウはゆっくりとした動きでユウを手の中へ入れた。

「前へ進んでも仕方がないよ。どうせ出られない」

「俺に景色を見せてくれ、俺には届かないから」

 少し間を置いてからの言葉に、リュウは反応した。ユウが景色を見るのなら、小さな窓でも問題がないだろうと思い、窓に向かって歩み始めると、穴が小さくなるスピードが弱まり、やがて止まった。逆に今度は少しずつ、広がっている気がする。どうした?何が起こった?何が起きているのか知りたくて、リュウが歩くスピードを早めると、今度はそのスピードに呼応するかのように、窓が広がっていく。リュウは窓枠を掴むと、無意識に横に押し広げた。

 すると壁が襖のようにストンと広がり、勢い余って落ちそうになるほどだ。なぜだ?先程まで、あんなにも小さく、硬い窓枠だったではないか。それがなぜ今、水飴のように簡単に伸びたり縮んだりするのだ?そして今、こんなにも心が晴れた感じがするのはなぜだろう?


 リュウは大きく開いた窓から、体を乗り出してみた。意外にも地面が近く見える。目を閉じて、思い切って飛び降りても、怪我程度で済むのではないかと思うほどだ。

 改めて遠くまで景色を見渡していると、坂の上を登る車がある。緑色のタクシーだ。もしかしたら迎えに来たのかもしれない。仲間が来たのかもしれないと思うと、少し前までの鬱蒼とした気持ちが嘘のように、ここから飛び出していきたい気持ちが湧いてきた。リュウがタクシーに夢中になっている間に、窓は両手を横に伸ばしても縁に当たらないほど、広がっていた。

「ユウ、タクシーだ」

「ああ、行こう」

 リュウは急いで階段を下りたところで気がついた。入口には鉄格子の扉があり、鍵かかけられている。鍵はイチが閉めて持ち去ったため、開けることができない。そう思うと降りるスピードが徐々に下がってきたが、ユウに急かされ、何とか扉の前までやってきた。

「しっかりしろ。これが最後の関門だ」

「関門?」

「そうだ、この家はお前の心次第で形を変える。部屋のドアと、廊下の窓を見てもわかっただろう。お前がダメだと思えば、ドアは開かないし、窓も小さくなる。でもお前が出られると思えば、必ず出られる。ぐずぐずするなよ、この家はお前を閉じ込めておくためにネガティブを演出するから、それに乗るな。出て、友人に会うことだけを考えろ。」

「そう言ったって、カギがないと出られない」

 リュウは試しに鉄格子の扉を開けようとしたが、ビクともしない。重厚な造りの扉は、横にスライドする作りだが、先に錠前がついている。

「リュウ、鍵らしきものを渡されなかったか?」

「もらうにはもらったけど、これは部屋の鍵だよ」

「一応試してみろ」

 ユウがいつになく真剣な声でいうものがから、首にかけた鍵を取り出して錠前に合わせたが、やはり合わない。無理やり入れようとするが、合わないものは入らない。

「ダメだ」

「リュウ、この鍵は生きている」 


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