リュウの部屋
「ではトモに呼びかけることも可能というわけか?」
「ああ。彼が楽しんでいれば、の話だが」
「では無事かどうか、問いかけてくれ」
「そうしたいのはヤマヤマだが、無駄に使いたくない。他に誰が聞いているかもわからないし、すぐにチケットの寿命が尽きて使えなくなってしまう。それよりも効率のいい、役に立つ奴がいるじゃないか。俺をお前の耳元へ連れて行ってくれ」
ユウはそう言うと、小さな口を上に向けてパクパクさせた。口笛でも吹いているつもりなのだろうか、それとも話しすぎて呼吸困難になったのか。飛び跳ねたり転げまわったりして自由に動けるようだが、中は窮屈ではないのだろうか。リュウは今更ながらにユウの環境を思いやったが、口に出すことはしなかった。なぜならばユウから不満を聞いたこともなければ、どう見ても不自由そうではないからだ。そんなことを考えながらユウを耳元へ連れて行くと、ビー玉から二人の声が聞こえてきた。
「よう、運転手。今どこだ?」
「はい、いつものローターりでお客様を待っております。ええとどちら様ですか?え?この声はどこから?」
慌てふためく運転手の声と共に、大きな目を見開いて当たりを見回す姿が容易に想像できた。今頃、姿の見えない客を探していいることだろう。
「専用のトランシーバーだよ、優秀な運転手には搭載されているのさ。知らなかったのかい?ところで迎えに行ってくれ。ネイチャー・キャッスルで一番高い山、『灰色の山』の麓だ。場所がわからなくなったら、とりあえず声に出してみろ。応答するから」
またユウが適当なことを言っている・・・と思いながら聞いていたが、運転手の『了解しました』の嬉しそうな声とエンジン音が、リュウの耳元に届いた。
「仲間が来てくれるぞ。そういえばこの部屋は誰の部屋だ?」
「俺専用の部屋らしい。なぜだかわからないが、ここに閉じ込められた」
「閉じ込められた?」
「ああ、鉄格子の扉が閉められて、外に出られない」
「いや、問題はこの部屋にありそうだ」
「どういうことだ?」
リュウはユウの言うことが理解できなかった。
「この部屋はお前自身だ。早く出ないと、出られなくなるぞ」
そう言ったきり疲れたのか、動かなくなった。リュウはユウを見ながら、先ほど言っていた葉っぱのことを思い出した。ポケットのチケットはシワシワになっているが、まだ赤色が残っている。使ううちに色が薄くなり、透明になると寿命らしい。
「誰か聞こえますか?」
リュウは小さな声で呼びかけてみたが、反応はない。ユウが言っていたように、喜びの感情がない状態では、誰とも繋がらないようだ。暇になったリュウは、ユウを置いて部屋を出て階段を上った。あの小さな窓からユウの言っていた木を探してみようと思ったのだ。あまりに高い場所だから、用意に見つかるはずのないと思っていたが、今回は村の様子がはっきりと見える。明らかに下層階の景色だ。
リュウは階段を下り、自分の部屋の前まで来ると、再び窓へ行き景色を眺めたが、やはり先ほどと同じで、近くがよく見える。
「どうなっている?」
首をかしげて考えてみたが、理由がわかるはずもない。ユウが起きたら聞いてみようと思い、木を探すべく、身を乗り出した。すると今度は狭かったはずの窓枠が広がり、窓から落ちそうになる。慌てて体勢を立て直し、恐る恐る窓から身を出してみた。
目の前に広がる光景は、低くレンガ色の街並みが並んでおり、所々生えている木は、赤、黄、青、そして葉のない木だ。ユウが管理している木なのだろう。
建物が立っている山は確かに灰色だった。雪が降っているわけではなく、火山灰でもなく、ただ岩が灰色の山だった。その中の建物は山と同化し、村からは気づきにくいだろう。運転手は迷わず来てくれるのだろうか。
「待てよ」
リュウはもう一度、窓から身を乗り出してみた。体を圧迫する窓枠は感じられず、腰のあたりまで乗り出すことができた。しかも地面まではそう高くない。この窓から出られる、そう思ったとき背後に人の気配を感じた。
「誰だ?」
振り向いた先には誰もいなかった。
「気のせいか」
わざと大きめの声で、周囲や廊下の様子を伺いながら歩いたが、誰もいない。しかしどうしても気になり、再び後ろを振り返ったが、やはり誰もいなかった。誰もいないことがいいのか悪いのか、自分でも区別がつかなくなったリュウは部屋へと足を急がせた。




