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レイを探す

 マナはじいさんから預かったネックレスがどこか価値のないものに感じきた。ミノが入っていたというじいさんの大切なネックレスではあるが、古ぼけた蓋付の入れ物付きのネックレスは、長い年月のために黒ずんでいるので、リンリンのものとは比べ物にならない。比べるものではないとわかってはいるが、ネックレスの差で自分の価値が下に下がるのではないかという不安から、マナはネックレスを外し、ポケットにしまいこんだ。

「マナちゃん、準備できた?」

 鏡の中のリンリンは、パーティーに出かける前のドレス選びのように楽しげだった。蛇と鏡の中の婦人と一体どちらが本物なのか、なぜこのような汚いものを運ばせるのか、疑問点を解決するにはできるだけ早く、荷物を運ぶしかなかった。

 鏡の前に荷物を置いた拍子に、ホコリが舞った。リンリンと犬は急いでその場を離れたので、マナの口にホコリが入ってしまった。咳き込んでいる間に戻ってきたリンリンは、鏡の中で本を開いてページをめくり始めた。彼女が触れたページはお札に変わり、一冊めくり終える頃には、札束に変わっていた。

 鏡の前のリンリンと犬は身動き一つしないのだが、鏡の中の太った女性はリンリンの持つ札束を見て、

お腹を空かせた人が運ばれてくる食事を待っているような顔で見つめながら、猫なで声で言った。

「奥様、素敵なお洋服ですね。さすがお似合いです」

 子供が聴いてもお世辞とわかる、聞いている方が恥ずかしくなるような言葉を連発したが、リンリンは聞き飽きてます、といった具合で受け流していた。それでも褒め続ける女性の言葉からは、お世辞だけではない、服飾の専門家を思わせる内容だったので、この女性はもしかするとそちら方面で活躍をしていたのかもしれない。

「これでできるだけ多くの仲間を連れてきて。早くたくさん連れてきてくれたら、もっとお礼を差し上げます」

 リンリンはお札を渡すと、女性は深々とお辞儀をして目を輝かせた。

「毎度ご用命、ありがとうございます。それでは行ってまいりますので、お待ちくださいね」

 そう言うと犬は立ち上がり、ホールから走って出て行った。

「哀れよね、お金なんてここでは何の役にも立たないのに。しかもお金で動く連中なんてここにはいないというのに、何もわかっていない」

 リンリンは振り返って言った。

「それならどうしてお金をあげたりしたの?」

「それが彼女を動かす十分な動機になるからよ」

「使えないのに?」

「彼女にとってはお金=権力のようね。持っていることで自分の価値が上がると勘違いしている。お金をもっていれば、人が集まると思っているけれど、実際はそうではない。だからもっと手に入れようとする。どんな手段を使ってでもね。彼女の不幸はその思い込みから来ているのよ。そこに気がつかないから、こんなところにずっといることになる。しかも外見を何かに変えればいいと思っているけれど、何にもならないわ」

「じゃあお金を渡しても、何の意味もなかったのでは?」

「そんなことはないわ。彼女にとっては十分な動機になったはずよ。その動機をどんな手段に変えるかは、彼女の問題なの。上手くいくかもしれないし、行かないかもしれない。私たちの役に立てばいいけれど、役に立たない間もしれない。さあ、次の協力者を探しましょう」

 リンリンの口調は丁寧だったけれど、どこか冷たいものを感じた。お金が何の役にも立たないのなら、本当に役に立つものを教えてあげればいいのに、と感じたのはマナだけではなくケンも感じていた。しかし今はレイを探すことが最優先、女性を説き伏せることではないことは十分に理解しているので、蒸し返すこともしなかった。

 ケンは幽霊を協力者にするべく、声をかけて回っていた。

「すみません、友達を探しているのですが協力して頂けませんか?手伝ってくれたら、あなたのやりたいことも手伝いますので」

 回答は様々だった。

「やりたいことが分からないのです。何をすればいいですか?」

「あの時に戻って、彼とやり直したい」

「家が火事にならなければよかった」

「あの人に仕返しをしたい」

 最初はどう対応していいのかわからなかったケンだが、慣れてくると叶えてあげられる事かどうか、これ以上の対応が必要かどうかの判断を瞬時にできるようになった。とはいえ殆どの回答が、過去と他人に関する願いだった。中にはケンを捕まえて、過去の話を延々と続ける者もいたので、次第に腹が立ってきて、反論することもあった。

「大体、そんな昔のことを今更言ったって、仕方がないではないですか。よく考えてください!」

 そんなときは決まって、ロンロンに止められた。

「いいかケン、ここに居る連中は自分が誰で、なぜここにいて、どういう状況かを理解していない。逆に言うと、理解していないからここにいるのだ。そいつたちに説き伏せても無駄なことだ」

「それなら協力者を探すなんて、無理な話ではないですか!僕たちで探したほうが、早いのではないですか?」

「ケン、落ち着いて考えてくれ。レイが彼の姿のままなら、それもできる。でも姿を変えていたら、それこそ誰を探しているのかがわからなくなる。ゴールを決められないのなら、出発してはいけないのだよ。手当たり次第に進んで、気がつけばゴールなんてことはないのだから」

「ではどうすればいいのですか?」

「何百といるここの連中の中にも、最近来たばかりで少しは冷静な者や、迷い込んだだけの奴もいる。数は少ないが、必ずいる。そいつを探して手伝ってもらったほうが早い。考えてみろ、幽霊にとって俺たちは敵とまではいかないが、得体の知れない奴なのだ。そんな俺たちよりも、同じ悲しみを持った仲間の言うことのほうが聞いてくれる確率ははるかに高いと思わないか?」

 ケンは黙って頷いた。確かに逆の立場になって考えれば、その気持ちは十分に分かる。初めてネイチャー・キャッスルに来たとき、ユウを探してくれと言われても協力する気にはなれなかった。しかしヒロを探すためならという理由があって、協力を始めたのだ。アンや王様と関わるうちに、ネイチャー・キャッスルの問題も少しはわかるようになった。そして王様やアンはいつも、ユウやネイチャー・キャッスルの危機よりも、レイを探すことを優先させてくれている。

 自分の利益を主張することよりも、まず相手の利益を考えてあげれば、そしてその利益を自分の利益と一致させれば、お互いは協力者になることができる。相手がたとえ幽霊だとしても、だ。

 

 マナもホールで地道に質問を繰り返していた。太った女性は今頃、幽霊たちを集めに回っているだろうが、うまくいくのだろうか。それでも何人かでも連れてくることができれば、そこから打開策が生まれるかもしれない。ケンもロンロンと幽霊に声をかけて回った。そして話にならない相手でも、『あなたにもう一度お会いしたいので、そのままの姿でいてください』と、花を頭や胸元、動物の姿のものには足にアクセサリーをつけ、目印にしていった。これはロンロンの知恵で、庭の枯れ木を変えたものだった。常に相手の自尊心を思いやった行動で、普段陰気な幽霊たちも快く応じてくれている。ケンはロンロンの細かな気遣いに感心した。


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