中身のないネックレス
じいじが幽霊屋敷の近くまで行けるよう、大きめのボートを手配している間、言葉少なげなタツを慰めるかのようにマナが話しかけてくれるのはありがたかった。マナはターボが逃げてしまったことを一切責めることもなく、かと言って話題を避けることもなかった。
「ターボはなぜおじいさんの所へ来たのかしら」
「さあね」
「ずっと一人で行動しているのかしら」
「さあね」
「帰り道を知らないのかしら」
「さあね」
「ケン、さっきから『さあね』しか言わないね」
マナは真っ直ぐに前を向きながら、ふくれ面で言った。『さあね』の他に適当な返事が見当たらなかったので、黙ったままでいた。ターボにお母さんのことを教えてあげればよかったという気持ちがだんだんと強くなり、自分はとんでもない罪を犯したような気分になった。
「じいじ、ターボが戻ってきたら伝えてくれ。お母さんがここへ来ていて、君を探していると」
ケンは大きめのボートに乗って戻ってきたじいじに伝えると、じいじは驚いた顔をすぐに笑顔に変えた。
「わかった、伝えておこう。きっとまた帰ってくるだろう。それよりも気をつけて。今回はチロがいるから安心して行ってくるがいい。それからこれを君たちに預けておく」
じいさんは首からネックレスを外して、マナに渡した。小さな蓋付の金色をしたネックレスは、王様がかけていたのと同じもので、きっとミノを隠していたネックレスだ。
「これはワシの宝ものでね、決してなくさないで欲しい。お城に預けておいてもいいのだが、届ける時間もなさそうだ。失礼ながら、ケンよりもマナの方が安心できそうだ」
じいさんはシワだらけの顔で、子供のように笑ってケンを見た。じいじはケンたちは『あの話』をしっていると感じていたのだろうか。そうでなければミノを隠すネックレスを簡単に渡したりはしないはずだし、これは受け取っていいのものなのか、判断に迷い、マナを見つめた。
「そんな大切なものを受け取るわけにはいきません。万が一、失くしでもしたら大変ですから」
「もし無くしたとしたら、これはなくなる運命なのだよ。ワシがずっと持っている方が、危ない気がするのだよ。それにこれは大した価値のあるものではない。すでに中身がないのだから」
「中身とは?」
マナの質問にじいじは、それは内緒、と言わんばかりに唇に指を当てた。確かにミノはビッキーの洞窟で管理されているはずだから、中身は空には違いない。
「水が溢れているから、もし落としたら二度と拾うことはできないだろう。それならば君たちに預けたほうが、得策というわけだ。君たちもこの中に何が入っていたのかは知っているだろう、でも今はないから、ただのネックレスだ。気にすることはない」
じいじはマナの首に優しくネックレスをかけた。最初は戸惑っていたマナも、光り輝くネックレスに心を奪われ、喜んでいるように見えた。マナが喜ぶことをじいじは分かっていたのだろう。その知恵の深さに、自分の浅はかさを改めて感じた。




