破れた紙
ケンとレイはしばらく小屋にいた。レイが今までのことを整理して考えてみよう、と言ったからだ。
「紙とペンがいるな。宝箱の中にあったよね」
頭のいいレイは、実際に時系列を表で作ろうというのだ。ケンとレイは小屋を出て、宝箱の中からペンを取り出した。ちょうどケンが入れた紙が入っていたので、そこへ初めて秘密基地に来たときから起こった出来事や、目撃情報を書き出していった。
ケンには一行日記にしか見えなかったが、レイはターボとヒロの目撃情報を書き入れ、そこへじいさんとの会話も加えていった。タカは確かに秘密基地辺りに来ていたようだ。そして彼らがこのあたりに来ていたなら、秘密基地にも来たはずだ。
「それならなぜじいさん見ていないと言ったのだろう」
ケンが尋ねた。
「教えられない理由があるとしか思えない」
「何のために?」
「わからない」
「いつ来ていたのだろう」
「それもわからない。でも目撃情報から察するに、夕方から夜ということになる」
「家出でもしたのかな」
「でも家には戻っている。宿題もやってた」
「家出中に何かあったのかな。例えば怖い目にあったとか」
しばらくこうした会話が続いたが、明確な答えなど出るはずもなかった。
レイは持っていたペンを一旦、宝箱に片付けようとした時、キャンディを何個か見つけた。いつももらっている、じいさんのキャンディだった。
「ケンが隠していたのか?」
「違うよ、そんなことはしない。もらったらその場で食べている」
「それにこの紙、キャンディーの包み紙を9枚並べた大きさだ」
レイはキャンディーを開け、包み紙を紙に添えてみると、縦横3枚分の大きさと合致し、右下に開いた穴はペンがちょうど通るほどの大きさだった。レイはその穴を見ながら、思い出したように言った。
「そういえば、ターボは包み紙を9枚集めて、建物の絵を完成させていた。ターボは学校にも持ってきていたけど、右上の円形の窓にリュウが冗談で穴を開けたんだ」
「でもそれは建物の絵だったんだろ?これは白紙だから、たまたま同じ場所に穴が開いたんだよ」
ケンの言葉にレイも頷き、ペンを宝箱に入れ、紙をポケットにしまい込んだ。
「そういえばリュウはどこへいったのだろう」
レイがリュウの名を出した時、彼の姿が見えないことに気がついた。
リュウは黒い犬を向き合っていた。黒い犬も立ちすくみ、お互いに相手の動きを待っている。リュウに関しては待っているというよりは、どうしたらよいのかわからず、立ちすくんでいると言った方がよかった。
「まいったな、子供がいたなんて」
どこからともなく聞こえた。リュウは犬から視線を外さないようにしつつ、辺りを見回したが、誰もいない。
「どこから声が聞こえるのだろう」
リュウは思った。誰かいるなら犬を追い払って欲しい。もしくは助けて欲しかった。
「こんなに早く見つかるなんて。また怒られてしまう。とにかく一旦、引き上げるとするか」
そんな声が聞こえた瞬間、犬は草むらの中へと走っていった。
リュウは犬から解放された安堵感と、声の主を特定できなかったもどかしさの二つの感情が入り混じったまま、犬の走った方向をじっと見ていたが、草が風に揺れる以外は何も起こらなかった。ただ犬が作った道だけが、彼の存在を証明していた。
「リュウ、リュウってば」
2人は犬の作った道を追いかけてきて、リュウがここにいる理由と、小さな道の事を聞いてきたが、彼にはこの小さな道と犬の事を話す余裕はなかった。
ケンとレイも秘密基地で整理した事を話そうとしたが、リュウの呆然とした様子を察知して話すのをやめ、明日もここへくる約束をして、家路についた。
帰り道、じいさんとミキを見かけた。二人は高い場所から、ただ街を見下ろしていた。街に視線を向けながらも、どこか遠くを見ているような表情をしていた。普段なら気にすることでもないが、秘密基地で生まれた二人に対する違和感から、何か良くないことが起きるのではないか、とケンは妙な不安を感じていた。




