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最上階の図書館

 ケンは足を引きずりながら、城を目指した。紙は少し前から通信が途絶えたように静かだったので、失った実害はないようだが、それでも仲間をつなぐ唯一の手段を失ったのはショックだった。しかも突然現れたターボに、奪われたのだから。

「一体、何なんだよ」

 倒れた恥ずかしさを隠すように、ケンはふてくされながら独り言を言った。誰もいないのだから、平静を装う必要はないのだが、自分を立て直す効果があったのだ。ターボはなぜカードの存在を知っていたのだろう。そしてなぜ、カードを奪ったのか。一体彼はいつからここに居たのだろう、そして彼ならヒロの居場所を知っているではないか。小さくなる後ろ姿を見つめながら、今頃になって聞きたいことが溢れ出たことに、ケンは若干の苛立ちを感じつつ、城を目指した。


 水に濡れた岩石は滑りやすかった。しかも足をかばいながら歩くためスピードは落ちたが、足場の悪さを考慮すれば、足の負傷はさほどスピードダウンの要因にはならなかった。しかもチロが足に巻きついてテーピングの役割を果たしてくれているので、痛みもさほど気にならないが、何かあった時に全力で走れないのではないかと思うと、まだ起きてもいない事に、不安を覚えていた。

 坂道を昇ると、城は目の前だった。高台にあるため足元は乾いており、以前となんら変わらない様子だった。マナが閉じ込められていなければ、ゆっくりと中を見物するのだが、そんな時間はない。ケンは痛む足を引きずりながら、城の中へ入った。

 目指すは地下の図書館だが、どこが入口なのかわからない。ケンは掃除中の女性に声をかけた。

「すみません、図書館はどこにありますか?」

 女性はチロを見て驚き、後ずさりしてしまった。チロは足から離れ、手に巻きついていたのだ。

「図書館は最上階にありますよ」

「いや、図書館です。地下にあるはずなのですが」

 ケンが聞き返すと、女性は不審そうな目で返した。

「図書館は最上階ですよ。王様の部屋のとなりです。そもそもこのお城には、地下なんてありません」

「そんなはずはないのですが」

 ケンが驚いて返すと、女の人は面倒くさそうにその場を離れ、掃除を始めた。マナは確かに地下の図書館と言っていたが、ターボにカードを奪われた今となっては、場所を確認する方法もない。ケンはエントランスにあるエレベーターで最上階に行ってみることにした。エレベーターの速度は早かったが、ガラス張りになっているため、外の景色が遠くまで見える。


 遠くの町は相変わらず水浸しになっており、まるで大きな水たまりのようだった。泥水が岩石と一体化して、山なのか建物なのかも区別もつかない。この水は一体どこから来たのか、いつになったら引くのか、このまま水が増え続けたら、一体どうなってしまうのか、スムーズにマナに会えない苛立ちからか、ケンはネガティブな感覚に襲われていた。

 最上階はエントランスの豪華さとは打って変わって、スッキリとしたフロアだった。岩山をくりぬいて作られたお城だが、最上階は特に手入れをした様子もなく、ゴツゴツとした岩肌がむき出しになっている。歩きやすいように、通路は平に整備されているが、そのほかは飾り物もなければ、趣向を凝らした家具もない。その味気ない廊下の先に、大きな扉が見えた。学校にあるのとよく似た扉には『図書館』のプレートが見える。やはり図書館は最上階にあるのだ。ではマナの言う『地下』とは一体どこなのか。

 扉を開けてみると、広々としたフロアには本棚が整然と並べられており、本が埋まっている。カウンターには係員らしき人が、フロアには本を読む人が数人おり、誰がどう見ても図書館だが、水に浸かってなどなく、天井から水が漏れている様子もない。ここがマナのいう『図書館』ではないということは、一目瞭然だった。マナと連絡を取ることもできずに、時間は刻一刻を過ぎてゆく。もし手遅れになったら、と思うとゾッとした。


 ドアの前で力なく座り込んでしまった。疲労感と絶望感に襲われながら、腫れた足を押さえた。どうすればいいのかを考えようにも、足の痛みが邪魔をする。心臓の鼓動と、足の鈍痛がコラボしているかのようで、次第に体力が落ちていくのがわかる。これ以上、どうしたらいいのかわからなかった。

 その時、ケンの手からチロが床へと動いていた。力なく彼の行き先を見つめていたが、チロはくるりと振り返って頭を上下させ、こちらへ来るような素振りをした。

「何だよ、どこへ行くの?」

 ゆっくりと立ち上がったタツはチロの後に付いて行った。チロは図書館の場所を知っているのだろうか。チロはエレベーターに戻り、その長い体で一階を押し、エントランスに着くと、再び外へ出た。

「おい、どこへ行く?城の外に図書館はないよ」

 ケンが叫ぶとチロは戻り、足に巻き付いた。ひやりとする感触は、まるで湿布のようだが、ある程度の硬さがありーテーピングのようだった。

「また足を守ってくれるのか」

 チロは言葉を交わすことはないが、自分の気持ちを組んでくれるのだ、きっと何か考えがあるのだろう、そう思ったケンは深呼吸して言った。

「わかったよ、どこへ向かえばいい?」

 チロは尻尾でタツの左足をピシャリと叩き、頭を上下に小さく降った。

「左だね」

 タツは左の道へと進んだ。お陰で足の痛みは軽く、スピードを上げることができ、小道に合流すると、道沿いに立つ銅像には見覚えがあった。ターボに似た門番と出会った場所でもあり、リュウと別れた場所でもあった。



 


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