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グランの意識

 ケンとレイはボートを降りた後、どこに行けばいいのか迷っていた。装飾品の部品を探す、とは聞いていたが、どこに行けばいいのか分からず、しばらくの間、二人でバランサーを眺めていた。

 ケンは装飾品の在り処よりも、リュウのことが気になっていた。一体、どこへ行ったのだろうか。リュウのことだ、きっと無事でいるだろうが、リュウまで探すことにならなければいいがと不安に感じていた。

 レイも深刻な顔で考え事をしていた。こんな時は話しかけず、反応を待つのが二人のルールだが、レイは下を向いたり、空を見上げたり、首をかしげたり、いつまでたっても問題が解決するような雰囲気ではなかった。ケンは小さな声で声をかけた。

「何を考えている?」

 ケンの問いかけに、レイは顔を近づけてから言った。

「俺、見たんだ」

「何を?」

「幽霊、ターボの幽霊」

「幽霊?」

「あの湖にターボが映っていたのだよ。初めは見間違いかと思ったけど、さっき、あのおじいさんの本当の顔が映っていたよね。だからターボがあの時どこかにいたのだよ。それに門番。あの人の声と話し方が誰かに似ていると思ったら、ターボに似ていたような気がする」

「そんなバカな。ターボは隣町に引っ越したはずだよ」

「だから隣町に引っ越しても、その何ていうか、意識だけがここにあるって考えられないかな・・・」

「もし仮にターボが門番なら、なぜ俺たちにそのことを言わなかったのかな。それに意識が潜り込むなんてこと、可能なのかな」

「それはわからない。でも門番は俺のことを名前で読んだんだ、『レイ』って。彼がターボでないなら、なぜ俺の名前を知っていたのだろう?」


 レイは事件を推理する探偵のように、地図を広げ、ターボの痕跡があった場所を指差し、加えてヒロが現れた場所にも印をつけたが、何かがわかった訳ではなかった。地図の緑色と青色の点が光っている場所は、何も記載がなく、二人の近くには大きな池があり、その池は湖と川で繋がり、バランサーが流れ込んでいる。

 不思議だなと思ったが、黄色の点が地図から消えていることのほうが重大だった。黄色といえばリュウが持っていた色だ。その色がないということは、リュウはネイチャー・キャッスルからいなくなったということだろうか。いや、そもそもこの地図が正しいとは限らない、現にこの池も載っていないのだから、いいかげんなのかもしれない。とにかくヨシが迎えに来たら、聞いてみよう。

 その間に二人は入れ物の装飾品になりそうなものを探し、木の実や花など、とりあえず使えそうなものを集めてみたが、リュウとヒロのことが気になって仕方がなかった。

 

 ふとどこからか話し声が聞こえてきた。二人はとっさに茂みに隠れ、様子を伺った。こんな不思議な世界では、何かが起こればとりあえず姿を隠すという習慣が、いつの間にか身についたようだ。

 二人の年配の女性が話をしながら、並んで歩いてきた。何を話しているかは聞き取れないが、楽しそうでないことは伝わってきた。よく道端でおしゃべりをするエネルギッシュなおばさんを見かけるが、彼女たちはそうではない。一方がぼそぼそと小さな声で話をすると、もう一方がふんふん、と表情もなくうなずいている。

 彼女たちの話に興味はなかったが、ここで普通に歩いている住人らしき人を見つけた喜びは大きかった。この人たちに聞けば、この世界の秘密やリュウとヒロのことがわかるかもしれない。二人は彼女たちの跡を追って、奥へ奥へと進んでいった。

 彼女たちが歩く道は泥濘でおり、歩きづらかった。足が取られてバランスが崩れ、靴も服も泥で汚れてしまった。大小の石や岩が至るところに転がっているので、それらを避け、避けた先にまた石がありという状況の中、妙な生き物が足元を飛ぶので、踏まないように気をつけなければならなかった。次第に彼女たちとの距離が広がり、姿を追うのに必死だった。

「あのおばさんたち、速すぎるよ。こんなに足元が悪いのに、すいすい歩いている」

 ケンは話しかけると、レイはスピードをさらに落として、足元を見ながら言った。

「おかしい」

 レイは立ち止まって、足で何かを踏んでいた。足元には大きなオタマジャクシのような生き物が、ごそごそと動いている。こんなところにオタマジャクシがいることに驚いたが、レイは大きく足を上げ、思い切り踏みつけた。

「やめろよ!」

 ケンは慌てて止めたが、その時にはナベの足は地面に着いていた。温厚なナベが、何の理由もなく生き物を踏みつけるなんて、初めてのことだった。

「どうした?」 

 ケンが驚いてナベに近寄ると、レイは納得したように二、三度小さく頷いて、足元を指差した。足元にはオタマジャクシが何事のなかったかのように、ごそごそと動いていた。ダメージを受けた様子もなく、何処かを目指している。レイが踏みつけた跡には何も残っていなかった。

「どういうことだ?このオタマジャクシはジャンプして逃げたのか?」

 ケンが聞くと、レイはもう一度、オタマジャクシ目掛けて踏みつけた。

「わっ!」

 ケンは咄嗟に大声を出し、目を閉じた。今度こそあのオタマジャクシは死んでしまったに違いなかった。ケンの大声は前を行くおばさん達にも届いたようで、彼女たちは一瞬振り返ったが、興味なさそうに先へと進み、ついに姿が消えてしまった。

「レイ、何をやっているのだ?おばさんたちを見失ってしまったぞ」

「いいんだよ、ケン。それよりもこれを見てくれ」

 レイの足元には、あんな勢いで踏み潰されたにもかかわらず、相変わらずオタマジャクシがごそごそと動いていた。レイがしゃがみこんでオタマジャクシを手で掴もうとしたが、手からするりと抜け落ちるばかりでうまくいかない。

 ケンも捕まえようとしたが、結果は同じだった。逃げた、というよりも手に触れた感触がない。よく見ると、体全体が透けている。

「新種のオタマジャクシかな?」

 答えを求めると、レイはオタマジャクシに指を近づけて言った。

「こいつはオタマジャクシに見えるだけだよ。実体がない」

「どういうこと?」

「君は誰だ?」

 レイはケンの問いかけを無視して、オタマジャクシに話しかけると、小さな声が聞こえてきた。

「僕はグラン。お兄さん達、僕がわかるの?」

 幼稚園に通うくらいの子供の声だった。ふと弟のトモを思い出したが、今はそれどころではない。

「どうしてこんな姿をしているの?」

「僕、オタマジャクシが好きだったから。でも池にいないとおかしいかな?」

「そんなことはないよ、どこにいてもいいと思うよ」

 ケンは訳が分からずに立ちすくんでいたので、レイがようやく説明した。

「オタマジャクシの形をした『意識』だよ。あのおばさんたちもきっとそうだ。でないとあんな道をすいすいと歩けるはずがない」

「『意識』っていうことは、本当は体があるはずだよね。帰らなくていいの?」

 ケンがグランに向かって言うと、彼は残念そうに答えた。

「帰りたいけれど、帰れないの。僕にはもう体がないから」

「体がないって、もしかして幽霊?」

「ケン、『意識』と言えよ。失礼だろ」

 レイの言葉に反応して、ケンは軽く謝った。とはいえ実体のない者が話をしているのだ、これを幽霊と言わずして何と言えばいいのだろう。だが、あまりにも可愛らしい声と姿に、幽霊と対峙している感覚はない。という事は、やはり幽霊というのは失礼なのかもしれないと思い直した。

 ケンの謝りにグランは首を傾けて反応してくれたが、怒っているのか、悲しんでいるのかは分からなかったので、優しい口調で問いかけた。

「どこから来たの?」

「どこから来たのかは覚えてないよ。でもママが悲しがっているから、ここを離れられないの。だってここにいるとママが見えるから」

「ママはどこにいるの?」

「こっちだよ」

 グランはふわりと体を浮かせ、二人を案内した先は、バランサーから流れる水でできた小さな池だった。グランはアメンボのように滑らかに池に降りると、少年の姿が水面に写った。あどけない、目の大きな可愛らしい少年だった。これがグランの本当の姿なのだろう。


 池の奥深くに、ある部屋の一室が映し出された。ソファに腰掛けが女の人が、首をうなだれ、遠くを見ている。グランの母親なのだろうか。

「ママはね、毎日悲しいの。誰とも話をしないし、ご飯も食べないから僕、心配なの」

 グランは母親の周りをすいすいと泳いだ。何とも言えない状況に、二人はかける言葉もなく、しばらくの間グランを見つめていた。

「そうだ、君はいつも何をしているの?友達とか知り合いはいないの?」

 沈黙に耐え切れず、ケンは質問してみた。『意識』に友達なんていないだろう、我ながら的はずれな質問とは思ったが、いつも一人で母親の心配をしているのなら、とても可愛そうだと思ったのだ。

「仲間はいるよ。向こうのお屋敷にね。お兄さんみたいな仲間もいるの」

「僕たちみたいな仲間?」

「そうだよ、体があった頃の姿をしている。僕は自分がどんな姿だったか、あまり覚えていないから、大好きなオタマジャクシの姿が気に入っているけど」

 『僕たちみたいな姿』と聞いて、二人は顔を見合わせた。もしかしたらそこにヒロがいるかもしれない、と思ったからだ。もちろんそんな確信はなかったが、人の姿をしているなら、ヒロかどうかがすぐにわかるだろう。

「ちょっと待てよ、ケン。体がないということは、つまりその、実体がないことだろう?」

 レイが言葉を選びながら、何かを言いたそうにしていた。ケンには何が言いたいかがわかっていた。つまりグランの仲間はすでに亡くなっている、そこにヒロがいるなんてことはないはずだ。だってヒロは生きているから。

 しかし人の姿をしたこの世界の住人と話しをしてみたいという気持ちが強かった。像や絵ではなく、話す相手が人の姿をしているなら、不思議と真実がわかる気がしたのだ。二人はグランに案内をしてもらい、仲間のいる屋敷へと案内をしてもらうことにした。



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