保管庫へ
二人になった二人の元にやってきたのはヨシだった。走ってきたのだろう、額から流れる汗を拭きながら、笑顔で近寄ってきた。
「やあ、君たち二人だけかい?アンと他の子は?」
ケンはアンとマナが城に戻ったことと、リュウがどこかへ行ってしまったことを告げると、ヨシは不思議な顔で言った。
「トキはともかくとして、アンとマナはおかしいね。保管庫には責任者証があれば入れるはずだし、許可証がいるなんて話は、僕も聞いていない。よし、行ってみよう」
ヨシは二人を連れて再び保管庫へと向かうと、保管庫の前に門番の姿はなかった。
「門番はどこへ行った?無用心だな」
ヨシはそう言うと保管庫の周辺を探りに行き、二人も後に続いた。
「おい、しっかりしろ!」
突然ヨシの大きな声が響き、その唐突さと大きさに二人は驚き、声が出なかったが、すぐにヨシに駆け寄ると、ヨシのすぐそばには門番が倒れていた。具合が悪そうでも、怪我をしているようでもないが、意識はなく、呼びかけにも応答しない。血の気がなく青白い顔に、ケンとレイは何をすることもできず、ただ見つけるだけだった。
ヨシは空に向かって口笛を吹くと、一匹の鳥が近寄ってきた。ヨシは鳥に何かを伝えると、着ていた服を脱いで枕を作り、門番を横に寝かせた。
「大丈夫なのですか?」
レイ心配そうに聞いた。本当は『生きているのですか?』と聞きたかった筈だが、不謹慎だと思い表現を変えたのだろう、とケンは思った。
「生きてはいるよ」
ヨシが笑顔で答えたので二人は安心したが、次の瞬間、真剣な顔で付け加えた。
「今の所はね」
すぐに何人かがやってきて、門番を運んでいった。ヨシは一行を見送ると、再び保管庫へと向かった。
保管庫へ向かう間、ケンは門番のことを考えていた。倒れていた門番の顔は、病院で眠っていたおじいちゃんの顔によく似ていた。顔の作りがという訳ではなく、力強さを感じない、ただそこに横たわる力のなさだ。話しかけてきた時の、生き生きとした仕草とはまるで別人だ。意識がなくなった人というのは、あんなにも力を感じないものなのだろうか。隣を歩いているレイを見ると、難しい顔をしていた。何かを考えているようだったが、ケンと目が合うと思い立ったように言った。
「あの人、僕の名前を呼んだ」
「何だって?」
唐突な言葉にケンは驚いた。
「あの人、僕のことを『レイ』って呼んだ。どうして僕の名を知っていたのだろう」
「聞き間違いではないのか?」
「自分の名前を聞き間違えるわけないだろ。確かに僕の名前を呼んだ。どこかで会ったのだろうか」
ケンはここへ来るまでの出来事を思い返してみたが、レイの言う通り、門番と会った記憶はない。レイはまた考え事を始めていた。




