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秘密のトンネル

 着いたのは洞窟の入口だった。入口には門番らしき男の人が立っていた。痩せた背の高い門番は、甲冑のような服装で、手に槍を持って立っている。その厳格さに4人は圧倒された。

「許可証はお持ちですか」

 門番は血の通わない、機械のような声で言った。

「急ぎで重要なことが起きたの、中へ入れてくれないかしら」

「いくらアン様でも、規則は守っていただきます。王様から許可証をもらってきてください」

「そんな!前はこの美術館の責任者証で入れたじゃない」

「規則が変わりましたので」

「聞いていないわ!」

 アンと門番は口論を続けた。

「わかったわ。もらってきます。この役立たず、王様に言いつけてやるわ!」

 アンは大声で門番に叫ぶと、来た道を戻り始めた。今まで上品かつ冷静に振舞っていたアンだが、こんな一面もあるのかと思うと、どの部分を信用していいのか、ケンにはわからない。門番は表情を変えることもなく、仁王立ちを続けていた。

「あなたたち、聞いていたでしょうけど、この融通の利かない門番のせいで、許可証をと獲りに行く羽目になったの。ここで待っていてくれないかしら」

 アンはそう言うとマナを連れ、ケンたちの返事を聞くこともなく戻っていった。怒りが収まらないのか、後ろ姿からも怒りを感じ、アンの歩く周辺は、感情に反応したのだろうか、鳥が一斉に飛び立ち、木は大きく揺れ、風が吹いた。

「女の人って、怒ると怖いね」

 ケンがつぶやくと、レイも頷きながら言った。

「感情で動くと、ロクなことがないのに」

 ケンとレイは地図を見ながら周辺を探索していると、先ほどの門番が近づいてきた。身分証か許可証を見せろ、とでも言われるのではないかと心配をしていたが、門番は優しい声で話しかけてきた。

「君たちはなぜここへ来たの?」

 ケンはレイに視線を向け、お前が話せと合図するとレイはやれやれ、といった感じで頷いた。

「友達を探しに来ました」

「友達を?」

 門番の声が少し高くなり、どこ喜んでいるように見えた。

「はい。何というか、中身がこちらへ来ているようなので」

 門番は少し驚いたように、でも興味深く聞いてきた。

「その友達は大切な仲間なのかな?」

「そうです。あなたも知りませんか、ヒロという名前の男の子なのです」

「ヒロ・・・」

 門番はしばらく黙り込んだ。ヒロのことを何か知っているのだろうか。門番はさらに聞いてきた。

「一人だけなのかね、探しているのは?」

「そうです。何か知っているのなら、教えてください。ここに地図とヒロに起こった出来事が書いてありますので」

 レイは手に持っておいた地図を広げて見せると、門番は丁寧に読んでいた。ケンとリュウも近寄り、門番の言葉を待ったが、少しの沈黙の後、彼は空を見上げて答えた。

「いや、知らないね」

 三人には期待外れの言葉だった。

「そうですか、ありがとうございました」

 レイはそう言うと、地図を丸め、頭を下げた。ケンもとりあえずお礼を言い、その場を離れようとしたとき、門番が声をかけた。

「レイ、一ついいことを教えてあげよう。もう一度地図を見せてくれ」

 門番は地図を広げると、ある地点を指差した。そこは今いる洞窟前から少し離れた、小高い山だった。


「この場所に君たちの世界とここをつなぐトンネルがある。このトンネルの向こうには、君たちの世界がある。ただしこちらから行くだけで、来ることはできない。来るのはタクシーかバスだけだ。すぐに帰りたくなったら、このトンネルを使うといい」

「そんな場所があるのですか、では書き足しておきます」

 レイは地図にトンネルを書き加え、お礼を言うと、門番は来た道を引き返し、3人は再びアンとマナが戻ってくるのを待った。


 リュウは少し離れた像の前に座って、何かを見ていた。しばらくの間、遠くを見たり、近くを見たりを繰り返していたが、突然大声で叫んだ。

「ヒロ!」

 その声に驚いたケンとレイが駆け寄ると、リュウが指差した先にはヒロの顔をした像があった。通ってきた時には別の像だったはずだ。ということはヒロの意識が入り込んだのだろうか。ヒロの顔をした像は、かすかに口を動かし、何かを伝えようとしているが、うまく聞き取れない。

「何だ?なんて言っている?」

 リュウが大声で声をかけるが、ヒロは悲しそうな顔をしたまま答えない。そして驚いた顔をしたあと、元の像に戻ってしまった。結局、何も分からぬまま無言で座っていると、リュウが立ち上がった。

「もうたくさんだ!意識だとか、感じろとか、探せとか!ヒロは家にいる。怒られるのが怖くて、とぼけているだけだ。こんな訳のわからない世界に要はない。俺がヒロをたたき起こしてくる!」

 リュウはそう叫ぶと、何処かへ走って行ってしまった。二人は追いかけようとしたが、足の速いリュウに追いつくことはできず、姿を見失ってしまった。



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