お城での再会
一行はホッピーの向こうにあるお城を目指していた。ホッピーからお城までは、森の一本道を通ってゆく。この道は秘密基地に向かう道とよく似ており、両脇には木が立ち並び、一行を見守っている。違う点といえば、道に沿って、美術館で見たような銅像が所々に立っている点だが、これらもきっと「意識の入れ物」とやらなのだろう。
道は徐々に坂になり、4人の話し声も徐々に減ってきた。近くに見えたお城も、歩いてみると結構遠く、森の中にいるため、どのくらい遠くにあるのかもわからない。しかしお城にヒロがいる可能性があるのならば、いかない訳にはいかないのだ。
そんなことを考えている間に森を抜け、目の前にお城が見えてきた。お城といっても、テレビや映画に出てくるような、屋根が尖ったゴージャスなものではなく、岩山をくりぬいて作られた大きな山そのものだった。所々に開いた穴は、自然にできたものもあれば、窓やドアとして人工的に作られたものもあるようだ。その無数の穴に見張られているような気がして、妙な緊張がケンの体に走った。
大きな穴に一歩、足を踏み入れると、そこは大きなエントランスだった。あまりにも無規則なカーブを伴った外観と、手入れの行き届いた内装のあまりのギャップに驚きながらも、やっと普通の建物にたどり着いた安心感に浸っていた。
エントランスホールは外国のホテルのように広く、正面には大きな階段がある。そこから降りてきて、こちらへと向かってきたのは、秘密基地への途中でキャンディーを配っていたミキだった。
「こんにちは」
驚く4人を気にすることもなく、ミキは握手を求めてきた。断る理由もないので、失礼な態度を取らないよう、手を差し出した。
「こちらはミキ。あなたたちも会ったことがあると思うけど、彼女は閉じ込めてある意識の管理を行っているの」
「閉じ込めた意識?」
ケンの問いかけに、アンが答えた。
「意識というものは、本来、自己完結するべきものなの。どんなに辛いことがあろうと、意味付を変えたり、落ち込んだ後に元気になったり。でも稀に他者を攻撃する場合があるの。他者に入り込み、操ったり、従わせたり。そんな意識を隔離するために部屋がここにあり、ミキが管理をしているの。ミキ、この塊に不純物が混ざっていないかを調べて。どんな成分で、どんな力があるか。あなたが向こうの世界の様子を調査していたことと何らかの関連があるかもしれない。ホッピーの状態も変動が激しいし、なにかが水面下で動いているのかもしれない」
「わかりました」
ミキは運んできたビンを持って何処かへ行ってしまった。
何が起こっているか中途半端にしか理解できず、4人は何をしたら良いかが分からずに、立ちすくんでいた。色々な出来事が有り、それがヒロと関係しているのかわからないが、4人の疑問はただ一つ、「ヒロはどこにいるのか」だけなので、彼を見つける方法を早く教えてほしかった。
アンは4人をある部屋へと案内した。長い階段を登った先の部屋からは、ネイチャー・キャッスルの敷地がよく見えた。岩石に囲まれ、岩石でできた街、所々に山や森が見える。コンクリートのように無機質な岩肌が連なる様は、遠くからは雪山のようにも見え、グレーと緑のコントラストこの世界の奇妙さを一層と際立たせている。山から運ばれる湿った風が時々、頬をかすめては通り過ぎ、目には見えないが確実に存在を感じさせられるものがあるということを、4人に教えていた。
ここに何千という『意識』とやらがいると言われても、ピンと来ない。レイは受付で手に入れた地図を広げ、自分の今いる場所と、地図と自分が見ている景色が一致するのかも確かめていた。『美術館』、『砂場』、『ポッピー』などの位置は正しいようだった。自分たちが通ってきた方向とは逆に、古びた工場が並び、何かを作っているようだった。もしかしたら住人が言っていたキャンディー工場だろうか。さらにその奥には、遠目にも物々しさが感じ取れる、陰気な雰囲気の建物が並んでいる。ふとテーマパークにいるのでは、と勘違いするほど現実と理解を超えた世界の受け入れに苦戦していた。




