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ヒロの痕跡

「すべての意識が何かに変わりたい訳ではないし、空気のように浮いているだけのものも多い。何かに変わりたいものは、この砂場で自由な姿に変わることができる。僕はその様子を観察しているが、本当に君の友達は見ていないのだよ。実際に君たちにも見てもらった通り、ここでは一つの意識が一つの形になるから、後で誰かが入るとか、変わるなんてことはありえないのだよ」

 男の説明はわかりやすく、また実際に像が出来る過程を見たので頭では理解できたが、リュウは納得できなかった。親友のヒロの顔を見違えるなんてことはなく、確かに絵に描かれていたのだから。


 ケンは美術館の出口から運ばれてくる台車を見ていた。台車は砂場に着くと、乗せていた砂を下ろし、また戻っていった。美術館で像から変わった砂を運んでいるのだろう。アンとヨシは下ろされた砂を見ては、何やら話し込んでした。

 ケンは砂場にしゃがみ込んで見てみると、砂が固まったものが幾つかあった。砂場の中では珍しくないものだが、アンは真剣な顔で塊をステックでつついては、何かを考えているようだった。

「砂に戻っていないわ」

「砂に戻っていないとは、どういうことですか?」

「砂でできたものは、砂に戻るべきなのに、変な塊があるの」

 塊なんて潰せば元に戻るのに、とケンは思ったが口に出さなかった。自分の考えていることと、アンの考えていることが明らかに違うとわかったからだ。


 アンはヨシに入れ物を持ってくるよう、指示を出した。両手いっぱいに蓋付のビンを持ってきたヨシの後ろには、同じくビンを持ったレイとリュウもいた。

「アン、これだけあれば十分だろ?一体、何を入れるつもりだ?」

 ヨシは汗を拭きながら、持ってきたビンを丁寧にアンの前に並べた。

「ヨシ、これを見てちょうだい。砂に塊がある」

「塊?」

 ヨシは地面に顔をこすりつけ、小さな砂の塊を手に取ると、不思議そうな顔で軽く握り締めた。開いた手のひらには、塊のままの砂が残っている。横で見ていた男は驚いた顔で、同じようにきつく握り締めたが、やはり同じだった。

「アン様、これは一体どういうことですか。砂が元に戻らない」

 男はアンに向かって大声で叫んだ。あまりに突然だったので、その場が凍りついたようだった。


「あくまで仮説だけれど、これは意識の中に不純物が入ったということではないかしら。不純物、つまり無理やり連れてこられた、ネガティブな気持ちの事よ。そう考えればリュウがお友達を見たというのもありうる話だと思うの。つまり銅像の中にいたヒロが今度は絵の中に逃げた、ということ。純粋にネイチャー・キャッスルに来たのなら、不純物が入ったりしないし、塊にもならない」

「絵は絵描きが意識を入れ込むことで描かれるので、絵に意識があってもおかしくないのでは」

「そう、本来はね。でも問題はヒロが他の意識を乗っ取って、そこに入っていたことよ」

 ケンは美術館での出来事を思い出した。確かにアンがステックでヒロの顔を突くと、赤ちゃんの絵に変わった。ヒロが赤ちゃんの絵を乗っ取ったという意味だろうか。

「もし像にヒロの意識が入り込んだとするなら、彼の像があっても不思議ではないわ」

「そんなことって・・」

「ここにある砂の塊をビンに入れて、あの二人に調べてもらうから。ヨシ、あなたはあの二人にこれから行くと、伝えて」

 アンは慌ただしく指示を始めたので、ケンは「あの二人」とは誰の事か気になりながらも、言われた通りに砂の塊を探しながら、尋ねた。

「教えてください。ヒロはここにいるのですか」

「そうね、ケン。肝心なことを伝えてなかったわね。彼はネイチャー・キャッスルの中にいるわ、でもどこにいるのかはわからない。彼は他人の意識に入り込む力を持っているみたい。彼が望んでか、望まずしてなのかはわからないけれど。この砂の塊は彼が通った証拠だと思う。そして彼が本当に人の意識に入り込む力を持っているとしたら、それは由々しき問題だわ」

「私、絵の中にバッグを見たの」

 アンはマナの方を向き、平静を保ちながら言った。

「そうね、マナ。ヒロがここにいるのなら、他の人がいても不思議ではない。一体、何人の人があの力をもってここにいるのか、まずはそこから調べなければ」

 アンは遠くに見えるお城に向かって歩き始めた。ヨシは用意したビンを台車に載せ、4人はそのあとに続いた。


 リュウは落ち着いているように見えた。とにかくヒロがここにいるとわかって安心したようだ。しかしレイは小さく呟いた。

「姿も見えない、どこにいるかもわからないのに、どうやって見つけろというのだ」

 その時、ここへ来た当初に頼まれていたことを思い出した。ユウという姿もわからない、どこにいるかもわからない人を探して欲しい、と頼まれたことを。その時は無理だと決め付け、忘れようとしていたが、相手がヒロならそんなことはできない。見知らぬ人だからと深く考えなかったことに、少なからず罪悪感を覚えていた。



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