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砂場での出来事

 アンとヨシに案内され、4人は美術館を出た。どこに行くかはわからないが、詳しく聞ける様子でもなかったので、黙ったまま付いて行きながら、ケンは消えたヒロの絵のことを考えていた。絵に描かれて消えるなんて、普通なら怖い現象だが、ヒロの顔なら怖くはなかった。久々に見たヒロ少し痩せていたように見えた。

 着いた場所は大きな砂場だった。学校のプール位の大きさの砂場にいたのは、子供ではなく大人で、砂場の中では、一人ひとりが何かを作っていた。その表情はとても優しく、先ほどの緊迫感が抜けていくような気がした。

「こんなところに連れてきて、何の用だよ」

 ヨシはリュウの問いかけに答えることもなく、砂場を見ろ、とジェスチャーした。砂の下から何かが出てきた。それは砂を纏ったまま、上へ上へと伸び、4人の背丈ほどのところで止まった。一人の男が近寄り、手を触れると、砂は固まり、光沢を帯びて、像へと変わった。男の人が手を触れることにより、細部が明らかになってゆく。まるで芸術品を作っているようだ。あっという間に出来上がった銅像は、近くの台車に乗せられ、作業を終えた男は帽子をとって挨拶をすると、近寄ってきた。

「あの人、前に美術館にいた人だ」

 レイが小さな声でつぶやくと、ケンも彼が美術館で砂を運んでいた姿を思い出した。

「これはアン様。みなさんお揃いで」

 大きな体をした男は、体型とは似合わないような丁寧な仕草で挨拶をしたので、4人も慌てて頭を下げた。アンは男に4人を紹介すると、リュウにヒロの写真を出すように言ったので、携帯電話に残っていたヒロの写真を出した。

「この男の子の像を作ったことはある?」

 アンが聞くと、男はヒロの写真をまじまじと見つめ、首をひねって答えた。

「作ったことはありませんね」

「美術館でこの子の像を見たというの」

「そんなはずはありません」

 男がきっぱりと否定をすると、リュウが口を開いた。

「そんなはずはないよ。俺は確かに見たのだから」

 男は少し黙った後、4人を砂場まで連れて行き、砂をすくい上げてはまた放した。放された砂は地面についたあと、軽く舞い、砂の塊となって現れた。先ほど見たのと同じ出来事だった。

「この中に入っているのは意識だ。この砂は意識の入れ物なのだ」

 男はそう言うと、砂の塊に触れた。優しい表情で触れた場所は、次第に体の線が鮮明になり、見事な像へと変わった。

「こうやって意識のなりたい形になるのを手伝っている。形は唯一無二のものだから、同じものはないし、その写真と同じものは作ったことがない」

 ケンはふと男がやったように、砂をすくい上げてみると中から塊が出てきた。

「僕にもできた!」

 ケンの様子を見て、レイとマナもやってみると、次々に塊が出てくる。

「いいね、君たち。あとは何も考えずに、そっと手を添えるのだ。そうすると、自然と何かが生まれてくる。焦らなくていい、ただじっと待ってあげるのだよ」

 ケンは言われた通りに、そっと塊に触れた。温かい砂の感触はどこか懐かしく、ケンは目を閉じた。触れた手先に変化を感じ、そっと目を開けると、塊はワシに変わっていた。予想外の変化にケンは言葉を失った。

「人の形になるとは限らないよ。意識が感じるものに変わるのだから」

「これはワシの意識なの?」

「違うよ、ケン。なりたいものになっているだけだから、きっとこの人の意識はワシを望んでいるのだろう」

 男はにっこりと笑って言った。

「私は綺麗な女の人だわ」

「僕は研究者だ」

 マナとレイが各々の像に夢中になっている間、リュウは黙って砂場を見ていた。

「誰かの意識が、何かになりたがっている。リュウ、どうか手伝ってくれないか?何も考えず、ただ導いてあげるだけでいいのだ。そっと砂に手を置いて、何かが出てくるのを待ってあげて欲しい」

 リュウは黙ったまま、砂に手を置いた。手の先が温かくなり、何かが動くのを感じると同時に、下から付き上がってくる強さを感じ、それはライオンに姿を変えた。


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