ヒロとターボの持ち物
少し前まで本当にそこにあったのか判断に迷うほど、一瞬の出来事だった。しかしそこには確かに像があった。なぜ壊れてしまったのだろうか。あの男の人たちは何者なのだろうか。
考えても答えは出ないので、4人は先へと進んだ。多くの像に飽きてきていたので、歩くスピードは自然と速くなったが、それでもレイは像を一つ一つ、チェックしているようだった。
進んだ先には壁画が飾られていたので、4人は足を止めた。壁画は聖職者、寄進者とその家族が彫られた壁画だった。柔らかい表情で笑っている彫刻を見て、4人の表情も柔らかいものになった。
「見てリュウ。この子供、あなたが好きなチョコを食べている」
マナが指差した先は、子供が何かを食べている姿だった。
「何で俺が好きなチョコってわかるの?」
「だってこれ、リュウがいつも食べているチョコだもの」
子供が手にしていたのは、誰もが知っているチョコレートのロゴが刻まれており、小さな文字だが、はっきりと読み取れた。
「これはいつの時代に作られたんだ?」
レイが不思議そうに言った。このチョコレートは何年か前から発売されたもので、古いものではない。ケンも彫刻を覗き込むと、もうひとりの子供が持っているバッグが目に付いた。
「このバッグ、ヒロが持っていたバッグと同じだ」
レイも続いた。
「遠くに描かれている村人、帽子をかぶっているけど、この帽子、ターボがかぶっていたのとよく似てないか?」
4人は壁画に近寄って、よく観察した。確かにヒロのバッグとターボの帽子によく似ているが、偶然かもしれない。しかし美術にはなんの興味もないケンが見ても、古代の服装をした聖職者と、現代のチョコレートには違和感があった。勉強が得意なレイには全く理解ができないようで、こう結論付けた。
「これは美術品ではなく、何かのメッセージだね」
とはいえ、何のメッセージかはわからない。そろそろ美術品にも飽きていたので、出口に向かって歩いていたとき、マナが言った。
「彫刻の女の人ってみんな美人よね、羨ましい。特にリュウが声を掛けていた女の人、とても綺麗だったわ。綺麗な上に笑顔なのだもの、見とれちゃった」
「笑顔?」
ケンは聞き直した。あの女の像は確か戦うような表情をしていたはずだ。
「笑ってなんかいないよ。戦士だもの」
「笑っていたわよ。私の触れていた像が崩れるくらいなら、リュウが相手にしいていた像もきっと壊れていると思ったから、しっかりと確認したの」
「じゃあ、確かめに行こう」
4人は逆方向に向かって歩き始めた。お化け屋敷みたいに、すごく驚くようなことはないけれど、小さな不思議がたくさんある。崩れる像、へんてこな壁画、たくさんの像・・・。どれか一つであれば、きっと気にも留めずに通り過ぎていただろう。でもどこかで何かがおかしい。女の像を見れば、何かがわかるかもしれない、4人ともそんな気持ちだった。




